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マーガレット、今度は目の前の子を

 長い戦いと、癒えることのない傷。それでも、確かに前を向いて歩き出す人たちがいます。

マーガレットが、ずっと願っていた光景にようやく辿り着く回です。

 以前マーガレットに聞き込みをした調査官が来て王国で療養中だった子供たちが回復をしたので冒険者の町の孤児院に移送すると知らせてくれた。その際に子どもたちに到着したらマーガレットが待っていると伝えたらとても喜び、楽しみにしているとの事だ。


 「それでマーガレットその子たちが到着する前なのにもう孤児院に行くのか?」


 「まぁね、ロックには悪いけどついてきて欲しい、大貴族が運営しているとはいえ私にはまだ貴族が信用できないんだ、そこで到着したら第六感が発動するか調べて欲しい」


 「ま、いいけどよ。いきなり行って追い出されたりしないか?」


 「そこは分からないけど最悪孤児院の前で様子をみて第六感がでなければいいよ」


 心配は杞憂に終わった、マーガレットが孤児院の前についた瞬間に孤児院の職員から声をかけてきた。


 「もしかしてマーガレットさんですか?」


 「え、ええそうだけど何故分かったのかしら?」


 「上の者から修道服を着た女性が来たらここの孤児院をよくしようとした第一人者だから手厚くもてなせと言われていますので」


 「そんな、私は下手をうった大馬鹿者だよ、大げさだよ」


 「マーガレット、向こうがそう言ってるんだから入ろうぜ、第六感は発動していない」


 「そう、じゃあお邪魔させてもらうわね」


 普段はそっけない態度のマーガレットだが基本的に子供が好きなのだろう、すぐに子供達と打ち解けて楽しそうに遊んであげている。


 ロックは手先の器用さを活かして今回のために大量の竹トンボを作って来た、男の子に大人気だ。


 しばらくすると大きな鐘の音がなる、児童たちはいっせいに部屋に入り机に座る、よく見てみると読み書きの授業をやっている。


 「今回のロッシ家による孤児院改革の目玉なんですよ、子供に教育を施して勉強のできる子はロッシ家お抱えの商社に就職して勉強が苦手な子はアヤノのインフラ事業部に就職させるのです、ロッシ家当主が言うには孤児には魚を与えるのではなく魚の釣り方を教えよという方針だそううです」


 「はー、大貴族の考える事は壮大だね、これも蛮族との戦争が終わって余裕ができたって事か?」


 「ここまでやっているのなら私の出番は無さそうね、たまに顔を出すくらいにしよう、勉強の邪魔になったらいいけないよ」


 「いえ、マーガレットさん、実はお願いがあるのです。土日は勉強はお休みというのもあるのですが、いくらロッシ家でも十分に美味しい食事がとれないのです、普段は赤芋と赤芋の蔓と麦の糠と安いラードと塩で味付けをしたスープしかだせないのです、腹持ちはいいのですが味があまりよくないのです。もしマーガレットさんがよければ時々でいいのでお肉を提供していただけると助かるのですが」


 「私くらいの稼ぎがあれば週1くらいなら何とかなると思うけど都合よくお肉があるかはどうかはわからないよ」


 「じゃあ、マーガレット、俺が普段から子供を農家地区に使いに出して鶏を買い取らせるようにするからそれを買い取ってくれないか?この町は食い詰め者が集まるせいか食料を供給する農家が多い、週に1羽くらいは老鶏くらいは手に入るだろ」


 「ロックすまないね、私のわがままに付き合ってもらって」


 「気にするな、好きでやっている」


 こうして二人は来週の土曜日に療養から回復した児童が復帰する事を聞いてロックの金物店に帰って行った。


 「なあ、ロック、私はお金を出すくらいしかできないのかな?正直言って戦う事しかできない」


 「それじゃあいい提案があるぜ、俺の故郷の料理でひっつみ汁ってのがあってこれを作る時は子供が総出で手伝ったもんだ、マーガレットも一緒に作ればいい、作り方は,,,,,」


 「それなら私にも出来そうだ、でもそのくらいでいいの?」


 「同じ料理を作って同じ釜の飯を食えば一生の思い出になるよ、現に俺はガキの頃に作ったひっつみ汁をいまだに覚えている」


 1週間後にマーガレットとロックは昼過ぎの孤児院の門を叩く、門が開いた瞬間に数人の子供が走ってきてマーガレットに抱き着いてきた、中には泣いている子もいる。


 「おねえちゃん、会いたかった」「私も」「僕も」


 皆思い思いにマーガレットに再会の喜びを表現している。マーガレットは今日は泣くまいと心に決めていたが涙があふれてくる。思う存分に再会の挨拶を済ませた後に皆で孤児院に入って行く。何故かロックが人気者なのだ。


 「なんであんたそんなに人気者なのさ?」


 「仕事の合間を縫って、コマとか竹とんぼを作って2日に1回顔を出していたんだよ、最近仕事が軌道にのって少し余裕ができたから作ってみたら奥深くてな思わず熱中してしまったよ」


 「ロックさんの作るオモチャは人気なんですよ、積み木からコマまで多種多様作ってくださって助かってます」


 「手先が器用ってのは羨ましいものだね」


 「まぁまぁ、結構いい時間だ、いまからひっつみ汁のすいとんを作るといい感じだぜ、俺はマーガレットが買い取ってくれた鶏をさばいてくるから教えた通りに皆で作ってくれ」


 ひっつみ汁にいれるすいとんとは小麦粉に一定の水分をいれてこねてから耳たぶ位の柔らかさになったら小さな楕円形を作って鍋に放り込んで食べるものを指す、比較的安価に作れて口当たりもよく出汁もすいとって腹持ちもいい。


 子供たちは楽しそうに色々な形のすいとを作っている、★型だったりハート型だったりと子供ならではな自由な発想で好き放題作っている。ロックが「ひっつみ汁のすいとんなんて自由な形でいいんだ、形が複雑な方が汁をすいやすいかもよ?」と言っていたので途中からマーガレットは笑顔で子供たちが夢中ですいとんを作っているのを見つめている。


 そうこうしているうちにロックが鳥の下処理を終えて煮えたぎる大鍋に肉を投入している。


 「老鶏だからな、先に煮てアクをとってから野菜を入れて最後にすいとんと調味料をいれるといいぜ、いつも塩だけじゃ味気ないと思って干したキノコと醤油と酒も用意した、これもいれると味がぐっと引き締まるぜ」


 「あなた意外と料理も器用なのね」


 「色々あって独身が長いからな」

 

 「そう、バツイチって言ってたわね、今度よかったら聞かせてよ、私ばっかり弱い所見られて不公平だわ」


 「まぁいいぜ、機会があればな」


 その後は子供たちが皆美味しい、美味しいと言って何度もおかわりをする、マーガレットはその光景をみて微笑んでいる。


 「この光景を見たくて私はずっと頑張って来たのよ」


 「夢が叶ってよかったじゃないか」


 「随分遠回りしたけどね」


 「仕方ないさ、人間は一人だとできる事は限られる、大きなことは大貴族様に任せて俺たちはできる事をやろうぜ」


 「そうね、差し当たって私は毎週顔を出してごちそうを振舞おうかしら」


 「それでいいんだよ、できる事を一生懸命すればいい、皆がそうすれば少しは世の中よくなるんじゃねえか?」


 「あら?本職の私に説法でもする気?」


 「そうじゃねえさ、俺も今までギルドの門を叩いては悪い奴に騙されて消えていく子供を見てきた、仕事が軌道に乗った今、あの時に贖罪ってわけじゃないけどこの孤児院に何かしてやれればと思うのさ」


 「そうね、目に入る範囲で出来る事をやっていきましょう」


 大鍋を煮る焚火の炎を見つめ秋の冷たい風を感じながらマーガレットとロックは少しの間語りあうのであった。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 再会の涙、竹とんぼで大人気のロック、そしてみんなで作るひっつみ汁。「この光景を見たくて、私はずっと頑張って来たのよ」その一言に、これまでのマーガレットの歩みのすべてが詰まっていたように思います。


 目に入る範囲で、できることをやっていく。それがきっと、この世界を少しずつ良くしていくのでしょう。


 さて、次回からは物語の舞台が再び大きく動きます。ジパンから、思いがけない来訪者が、お楽しみに。


 「マーガレットもロックも幸せになってほしい」「ひっつみ汁食べたくなった」と思っていただけましたら、ぜひ【お気に入り登録】をお願いします。更新のたびに通知が届きますので、この先の展開もお見逃しなく。


 評価や感想も、大きな励みになります。よろしければお気軽にどうぞ。

次話もお楽しみに。

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