将軍、死す ――そして、生きる
蛮族最後の砦への降伏勧告、その最中に、将軍は思いがけない結末を迎えることになります。
彼の運命を握るのは、イワオのある決断でした。
将軍は拿捕後に同盟諸国に点在する蛮族の砦に赴き降伏勧告を行っている。条件は破格だ。
「この地で生まれ育った者は行動の制限はあるがアヤノ領で指定する作物を作るのなら奴隷扱いをせずに恩赦とする、本国の人間も武装解除をするのなら国境沿いまで見張りはつけるがそこからは逃げてもよい」
と、言う内容だ。当然野盗化したら容赦なく処罰をするとも付け加えている。ほとんどの国は本当は皆殺しにしたいくらい憎んでいるがもはや蛮族と正面から戦い続けるほどの国力は無いのである。苦渋の決断だ。
降伏勧告はどちらかというと失敗の方が多かった。情報が遮断されておりまだ本国からの増援が来ると信じ込んでいるからだろう。最後の勧告はしたので後は飢え死にしようが討ち死にしようが本人たちの勝手だ。時間はかかるが兵糧攻めをしていれば自滅するのは目に見えている。
最近は時間短縮のために将軍にもグライダーの使い方を教えて風向きを読んで空の移動もしている。
(こんな技術があったのか、そういえば最後の戦いは空からビラが降っていたな、勝てるわけが無い)
しかし今回はメンツがいつもと違う、普段将軍がグライダーを使うときはすさまじいスピードがでる特製のグライダーを扱う銀髪の美女と特殊部隊が囲んでいるのだが今日はその美女と二人乗りで少し幼い少女が乗っている、将軍のグライダーは二人乗りになっていてなんとパートナーはイワオだ。
「イワオ殿、今日はどうしたのですか?メンバーがいつもとかなり違うようですが?」
「あぁ、銀髪の娘は知っておるだろうが彼女と一緒に乗っているのはアヤノ家が誇る聖女のマリーだ、いまから行く国の砦はお前ら蛮族の抵抗が激しくて蛮族側の人間のケガ人が多い、マリーの力だと死んでなければ何十人も一気に回復させられるのだ、回復させてやれば降伏もしやすいだろう」
「とんでもない力だな、そういえば本国の王の側室にも似たような力を持つ者がいると聞いた事があるな」
(うーむ、蛮族の国を興した最初の王は優秀だったのだろうが、代を重ねるとダメな王も出て来るものだな、そんな優秀な人材を傷病兵に使わずに側室にしておくとはもったいない、まぁそのおかげで勝利できたのだ、ある意味ラッキーというところか)
「それと今回ワシがついてきたのは普通の護衛だとマリーを攫おうとするアホがいるから目を光らせるために来たのもあるが同盟諸国で決まった事があってな、今からワシのいう事をしっかり聞いて言うとおりに動いてくれ」
「あぁ、わかった。同胞が生き残れる可能性があるなら従おう」
こうしてイワオ一行は蛮族の傷病兵が集まるテントに向かう。
「マリー頼む、治癒をしている間ワシらは降伏勧告に向かう」
「御屋形様、全力を尽くしますがすでに亡くなっている方も、いえ今すぐやります!」
マリーの体から光が発すると苦しみの声が響くテント内が静かになっていく、痛みが消えて何日も寝ていない疲労感から気絶するように眠ってしまうのだろう。
「さて、いつものようにまずはここからは離れた場所にもう使者は呼び出してあるから説得してくれ」
「ああ、わかった」
その後グライダーで最前線に移動して、蛮族側の使者との協議の末に数人だけだが投降者が現れた。
(イワオ殿の言う通りならこの者達は....)
「王族のくせに敵に尻尾を振る裏切者が!死ね!」
いきなり斬りかかって来て将軍は斬られた。しかしイワオが対処をしてすぐに斬りかかってきた者は殲滅される事になる。
「リリィ嬢、ワシが将軍を担ぐ!3人でグライダーでマリーの所に運んでくれ!」
「分かりました、御屋形様!」
まるでこうなる事が分かっていたかのように素早い動きで3人はあっという間にマリーの所に到着する。
「将軍、怪我は無いか?悪いがもし怪我が無ければこれに着替えてくれ、将軍が着ている鎧はワシがもらう」
「先に渡された鎖帷子を着ていたから怪我は無い、着替えるのも鎧を渡すのも構わないが本気でやるのか?」
「私は気に入らないけどね、御屋形様が言うなら従う。国の安定のためって言われたら仕方ないわ」
将軍はアヤノ兵の鎧と兜をつけて立っているとこの国の蛮族担当の兵が走って来る。
「アヤノ殿はどちらに?」
その時に蛮族の傷病兵がいるテントの中からイワオが現れる。
「こっちだ、残念ながら将軍は間に合わなかった、聖女マリーの力でもダメなら同盟諸国内で治せる者はいないよ、まさか投降者の中に将軍の暗殺者がいようとは思わなかった、君たちの責任では無いと私が証言するから安心してくれ、死体はこれだ確認してくれ、確認したら砦の監視に戻って欲しい」
イワオは蛮族兵の死体に将軍の鎧兜をつけてこの国の兵の責任者に見せる。
「確認した、すまないが後はお任せしても?正直私達レベルでは対応しきれない」
責任を負いたくない現場の兵士の責任者はろくに確認もせずにイワオに面倒ごとを任せる事にする。
「任せておけ、後で報道機関が来ると思うが間違いなく蛮族の過激派による殺害と答えて欲しい」
「承知しました、目撃者は多数な上にあの砦から蛮族どもも見ていたでしょう事実のまま伝えます」
そうしてこの国の兵たちは去って行った。
数百メートルほど離れた位置に移動してイワオがリリィに頼む。
「すまないがリリィ嬢、いい気分では無いだろうがその光線杖でこの死体を焼き尽くしてくれ」
こうして将軍の死体として名もなき蛮族の死体は骨だけになる。
数日後新聞の一面は今回の蛮族戦での主要人物の処刑や死亡の記事で埋め尽くされる。
ブゥタ三男など蛮族に協力したり奴隷売買を行った者たちの一斉粛清の記事と蛮族過激派のテロにより蛮族の将軍が惨殺された記事である。同盟諸国だけではなくリリィ達グライダー部隊を総動員して未だ頑なに増援が来ると信じている蛮族の砦や新聞が行きわたらない田舎までにも新聞はばら撒かれた。
それからしばらくして死んだ事になっている将軍とイワオはとある辺境の町の片隅で会話をしている。
「さて、リリィ嬢とマリーには将軍は秘密裏に殺したと伝えたので生きているのを知っているのは今のところワシだけだな」
「何故、このような事をする?普通に殺せばいいだろう?」
「まず第一にこちら側同盟諸国が大々的に将軍を処刑したら各地に残る蛮族が仇を取るぞ!とより一層頑固になって戦い続けられると面倒というのがあるな、偶然お前らの中の過激派が暗殺計画を立てていると知って便乗させてもらった、同胞が王族を殺したとなると投降の説得にも応じやすくもなろう、もう一つは個人的な事なんだがこの戦で一番頑張ったワシを母国の王はよく思って無いらしくてな、すでに色々と嫌がらせをしてきているのだ。まぁちょっとした意趣返しだな。将軍は命令されて籠城戦をやっていただけだ、ワシの一存で生かす」
「そんな勝手な事で、いいのか?私はそちらを長い事苦しめた王族だぞ」
「最後はこの戦の裏の最大の功労者の願いでな、最初は黙秘状態だったがワシが直々に許すと言ったら堰を切ったかのように泣き出してな、生かして欲しいって言うんだよ。いい嫁さんを持ったな、イルヴァ、隠れてないで出てきなさい」
将軍の妻のイルヴァが幼子を抱えて歩み寄って来る。
「あなた、ごめんなさい、私は....」
「イルヴァ、いいのか?私は敵対者の王族だぞ」
「そういう湿っぽいのはワシがいなくなってからやれ、将軍、今日からお前の名前はトルフィンだ、特に意味は無い、意味が無いほうがいいだろう」
「私のために死んだ同胞を思うとこれでいいのかと」
「それも罰だ、あっさり死ぬよりも辛いだろう、お前のために死んでいった同胞を思い、この国の人間が必死に生きているのを見て後悔しながら生きよ、そしてイルヴァよ、悪いが最後の命令だ。トルフィンが怪しい動きをしないか夫婦になって一生見張っていてくれ、すでに人の出入りの多い冒険者の町に二人の市民権と食っていけるだけの畑は買っておいた、そこで農民として生きよ、トルフィンをこき使え、しばらくは赤芋を作るといい、あの町は食い詰め者が多いから食べ物なら何でも売れる」
「それとトルフィンよ、一応冒険者の町に行く前にこの町に染髪魔法を使う店があるからそこで髪を染めておけ、それだけで大丈夫だ。あの町は脛に傷を持つ者が集まる傾向がある上に今回の戦いで報奨金を得た兵士がこぞって市民権を買って自由に商売をし始めている、自分から名乗らない限りばれる事は無い、お前さんが生きている事を知っているのはワシとイルヴァだけだ、達者に生きるのだぞ」
イワオはそう言って去って行った。
「イルヴァ、お前はいいのか?私は」
「私の家族を殺したのも命令したのも別の人よ、それにあなたはもうトルフィンよ、アヤノ様直々の命令だから一生妻として見張らせてもらうわ、まずは農具の使い方から教えるから、私は訓練で覚えたから一通り使えるし早く覚えてね」
「あぁ、わかった今日からよろしく頼む」
夏もそろそろ終わる、さまざまな虫の鳴き声がこだまする中、元将軍のトルフィンは自分の子をおんぶしてイルヴァと共に3人で町の中へ歩いて行った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「あっさり死ぬよりも辛いだろう」
イワオが将軍に下した罰は、処刑でも解放でもない、第三の道でした。同胞を思い、後悔を抱えながら、それでも生き続ける、これもまた、この作品が大切にしてきた「合法的に、確実に」というテーマの、も
う一つの形だったのかもしれません。
そしてイルヴァの選んだ答えも、ようやく形になりました。トルフィンとイルヴァ、二人の新しい人生が、静かに始まります。
次話は、マーガレットのもとへようやく訪れる、あの子たちとの再会の時です。
「将軍、幸せになってくれ」「イワオかっこよすぎる」と思っていただけましたら、ぜひ【お気に入り登録】をお願いします。更新のたびに通知が届きますので、この先の展開もお見逃しなく。
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次話もお楽しみに。




