表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/118

10歳の誓い、そして辿り着いた場所 後編

 演技のはずだった関係が、少しずつ形を変えていきます。

将軍の優しさに触れるたび、任務と割り切れない何かが、イルヴァの中に静かに積み重なっていきました。

そして訪れる、最後の任務の日。彼女はどんな想いでその瞬間を迎えたのか、後編、お届けします。

 あれから妙に将軍は私に話しかけてくるようになった、掃除をする振りをしながら重要書類を盗み見て内容を覚えないといけないのにめんどくさい。


 徐々に夕食にも招かれる事も増えて普段の礼として蛮族の故郷の味を振舞ってくれるようになる。


 「これが私たちがよく食べるマトンのスープなんだ、この前イルヴァが作ってくれたスープはこれが本場なんだ」


 「そうなのですか、独特の風味が癖になりますね、でもよく羊が手に入りましたね、砦内にいましたか?」


 (私は訓練を受けているから大丈夫だけどマトンの臭みは正直きつい、ラムならまだ平気なんだけど)


 「いや、我々もただボケっと籠城しているわけじゃないからね、伝手はあるのさ」


 「流石、将軍になると凄いですね、今まではこんなに豪華な食事は食べた事ありませんでした、最近は捕りすぎたせいかハトも寄り付かなくなってお肉は貴重なのに、私なんかにもったいないです」


 (新しい坑道があるのかな?羊を搬入しているって報告しなきゃ)


 「気にするな、幹部連中は別の部屋で食べているのさ」


 「そうなのですね、幹部の皆さんと食事をしなくてもよろしいのでしょうか?」


 「普段から顔を合わせているからね、夕食くらいは美しい花を愛でながら食べたいものさ」


 (え?もしかして私口説かれている?アヤノの講義ではいきなり食いつかない事、お淑やかに回避と教わった)


 「そんな、言ってくだされば新しい花に交換しておきましたのに、新しい色違いの花が咲きましたので明日生けておきますね」


 (ちょっとうつむき加減で照れてる感じを装って、微笑みも忘れずに....誰が考えたのかしらこのマニュアル)


 「イルヴァは可愛い事をいうのだな、そういう意味ではないのだがね、部屋に私物のアルコールがあるんだ?この後来てくれないか?」


 「そそそそ、そんな、将軍...様、私ごときが将軍様の寝室に入るなんて恐れ多いです、私のような女にはもったいないお言葉です、それに明日から前線指揮に出られるとの事。そういうのはまずいかと」


 (習った通りだけど、蛮族って告白がストレートでヤル事も即決即断過ぎ、私一人で決めれないから相談しなきゃ)


 「ふむ、確かに明日は早いからな、帰ってくるまで待っててくれ」


 「そ、そんな、将軍様.....お戯れを.....(あー前線で死んでくれないかなー)」


 その晩、潜伏先にて.....父親役のスパイと会議をする。


 「まずは、今夜は羊肉のしかもマトンを振舞われました、聞いた話だと幹部全員で食したようです。こちらでは豚肉か鶏肉が主流ですので王国内の羊、もしくは羊肉の動きを追えば隠し坑道が見つかるかと」


 「随分と気に入られたな、ワシらはマトンこそ本物の肉であり戦士の象徴とされるからな、むしろ子羊の肉を食べるのは禁忌とされているくらいだ」


 「そうなのですか、個人的には子羊の方が好きなんですけどね、それと冗談ではなく本当に気に入られてしまったようです。今晩寝室に呼ばれました、何とか明日は最前線行きだからと断ったのですが」


 「ふむ、こればっかりは君自身に決めて欲しいと思うのが人の道なのだろうが.....申し訳ないが将軍の気持ちに答えて欲しい、そういう関係になればポロっと重要な事を話してくれる可能性が高まる、若いお嬢さんには酷な事を言っているのは分かる。すまない」


 「いいえ、元よりそのような訓練も受けました、私は10歳のあの時に死んだのです。任務を果たしましょう」


 数日後に将軍は帰ってきて体を清めて来てくれと懇願して寝室に入って行った。


 (私は訓練を受けたスパイだ、なんて事の無い任務の一環....)


 次の日から将軍は人が変わったかのように誰もいない所で愛の言葉をささやくようになった。二人きりで会話をする事も増える。でも全然作戦内容はしゃべってくれないのである。


 そして数年が過ぎ、いきなりプロポーズされてその場で簡単な結婚式までも行われた、気を付けていたが完全な避妊は難しく息子もできてもはや2歳になった。


 (悪い人ではないのはわかる、基本的に善人なのに侵略者の将軍を務めるのはつらいでしょうね)


 「すまない、食料を搬入していた坑道が見つかって潰されてしまった、この国の人間はあまり羊を食さないのだな、羊ばかりを搬入していたらばれたようだ」


 「そうですか、残念です。それより将軍、将軍がその様な質素な食事だといざというときに力が出ないのでは?」


 「すまんな、そなたにも我慢してもらって、部下がロクに食べられないのに私が豪華な食事というわけにはいかないよ、ただでさえ私は後方で指揮をとる立場だ、前線の兵こそ力のつくものを食べさせないといけないのだ」


 「将軍は為政者としても優れていますね、皆が慕うのがわかります」


 (私の領を管轄していた大貴族もこのくらい高潔な人だったらよかったのに.....)


 毎日会話を重ねていくうちに将軍に絆されて行くのが分かり自己嫌悪に陥る。


 (あの人は悪い人ではない、多分もう侵略は諦めているのだと思う、どうやったら一人でも多く生き残れるかばかり考えているのだろう、でもあの人は私の家族と領民を虐殺した蛮族の王族、でもあの人が命令したわけじゃない。いい人なのはわかるけどいざとなったら.....仕方ないよね、戦争だもの)


 ある日急遽会議が開かれた、屋根裏に侵入して盗み聞きしていると砦内にスパイがいるのではないか?という議題だ。私は心臓が飛び出そうなほど緊張した、急激に将軍に接近している身分の低いメイドが疑われないわけが無い。と思っていたら会議は想像とは違う方向に進んでいく、怪しいと思われる人物をアヤノへの使者団に入れて派遣しようという事になった。これでアヤノが油断をしてスパイを帰還させる符丁を使ってくれれば砦内からスパイが消えて動きやすくなるだろうとの事だった。


 作戦は成功したようで私の自宅とされている秘密基地からぞくぞくとアヤノ側のスパイが逃げていく、驚いたことにスパイがいると議題にだした大幹部もアヤノのスパイであった事だ。


 「まさか君もスパイだったとはね、とても愛国心が強くてあの臭いマトン肉も平気で食べているから本当に将軍の妻かと思っていたよ、子まで産んで....失礼、若い娘さんにいう事じゃなかった」


 「いえ、それが私の任務ですので、それよりも長い間お疲れさまでした。私は引き続き任務を続けます、2回目の符丁があった時か将軍を拿捕した時が私の任務の終わりですので」


 「あぁ、君のような若い子に託すのは心苦しいが後は頼む」


 幹部だった者が隠し通路に消えていった。


 「では、私も行かせてもらう。将軍が前線指揮に行っている今がチャンスだ、私は死んでしまってもう火葬して埋葬した事にしておいてくれ」


 父の振りをしていたおじさんも出て行った。


 (これでこの砦のスパイは私一人なのかな?後はうまくやらないと)


 将軍が前線から帰って来た時はとても狼狽していた、こんなに狼狽をする彼を見るのは初めてだ、仕方のない事だ、信頼していたこの砦の責任者のほとんどがスパイだったのだ、もう誰を信じていいかわからないのだろう。


 この日から彼は私に弱音を吐くようになる、私は不安を隠すふりをして彼を鼓舞をする。この時初めて彼が私に作戦の詳細を話してくれた、よほど不安なのだろう、多分私以外全員敵に見えているのかもしれない、その私が最後の敵だと思うと少し心に痛みが走る。


 聞いた作戦はすでにアヤノ側にわざと徹底抗戦派と投降派が分かれて一触即発状態だという情報を持たせて何人も投降させている。アヤノが攻めてくる日には機を見て投降派15000人を一斉に投降させてその隙に本国から派遣された人間は逃げるそうだ、将軍は少数精鋭で私達親子と共に冒険者の町に逃げて冒険者の振りをしながらまだ抵抗をする他国の砦で再起を図るらしい。いう事の聞かない者が決死の突撃をする事を悔いている。


 せっかくの作戦だけど明日の朝一に伝書ハトを使って最後の報告をしよう、将軍と私達が着る冒険者用の服にアヤノで開発された特殊塗料を塗れば見る者が見れば光って見えて攻撃をしてこないとの事。


 後はなるべく多くの矢筒から矢を抜いて破棄もしておくのも忘れない。


 しばらくしてその日がやって来た。あの人が逃げる前にわざと煙を多めに狼煙を上げる。


 「あなた、アヤノにここから持ち出せぬ宝物をただでくれてやるのも癪でしょう、逃げる前に火をつけました、さぁ逃げましょう」


 「ふむ、そうだな。これで少しは気が晴れたわ、逃げるぞ!アヤノが投降した人間に手を取られている間が勝負だ」


 逃走中にまわりに聞こえないようにあの人が私に語り掛けて来る。


 「もし許されるのであれば冒険者の町で市民権を買いお前達と一緒に畑を耕して生きていきたいものだ、夢のような話だがな、正直もう我々はダメだろう。冒険者の町についたら持ち出したお金を渡すから市民権を買い何とか生きてくれ、君はいい女性だ。きっと他の男が放っておかないからいい人がいたら結婚して幸せになって欲しい」


 (私は今から最低な行為をするのだろう、でもこれも運命。あなたの優しさは嫌いじゃなかったわ)


 しばらくして矢が降り注ぎ最後の号令をかける彼のアゴに目掛けて拳をぶつけて気絶させる、あの時のあの人の顔は一生忘れないだろう、彼を縛ってしばらく待っているとアヤノの騎士が近づいてくる。


 「時は来たので正しい行動をしました」


 (この後私の人生は大きな虚無感を残して過ごすことになるだろう、せめてこの子だけでも立派に育てよう、敵とはいえ私が愛した偉大な男の息子として恥ずかしくないように......)


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 「あなたの優しさは嫌いじゃなかったわ」


 その一言に、彼女のすべての感情が詰まっていたように思います。任務として始まった関係が、いつの間にか本物になっていた、それでも彼女は、託された役目を最後まで全うしました。


 将軍の視点から見た捕縛の場面と、今回のイルヴァの視点。両方を読んでいただいた方には、また違った感慨があったのではないでしょうか。


 「イルヴァも将軍もどっちも切ない」「これはこれで幸せだったのかもしれない」と思っていただけましたら、ぜひ【お気に入り登録】をお願いします。更新のたびに通知が届きますので、この先の展開もお見逃しなく。


 評価や感想も、大きな励みになります。よろしければお気軽にどうぞ。

次話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ