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10歳の誓い、そして辿り着いた場所 前編

 蛮族の将軍を陰で支え、そして最後に彼を裏切ったスパイ・イルヴァ。

彼女はなぜアヤノに拾われ、どうやって将軍のもとへ辿り着いたのか。10歳の少女が背負った運命の始まりを、前編としてお届けします。

少し重い内容を含みますが、どうぞ最後までお付き合いください。

 気が付いていたら私はすべてを失っていた。10歳の時に怖い人達が攻めてきて私は両親に言われて必死に山道に逃げた。


 よく見る制服に身を包んだ兵隊さんに発見されたのが数日後のことである。


 兵隊さんには止められたが私はどうしても自分の領地がどうなったか見たくて兵隊さんに頼み込む、兵隊さんは子供が見るものじゃないと言って拒否していたがすこし毛色が違う人が助け舟を出してくれた。


 「うーん、10歳とは思えない胆力ですね、どうしても見たいと言うのであれば私が案内しましょう」


 私の手を引いていた兵隊さんがアヤノの間諜がそういうのであればお任せしますと言っていたので間諜さんと呼ぼう。


 「これがあなたの元の領地です、残念ながら生存者はあなた以外にいません」


 私は立ち尽くす事しかできなかった、沸いてくるのは悲しみよりも怒り。今思えば私は10歳にしては賢い子供だったと思う、よく両親が世話になっている大貴族に毎年大金を払っているのに巡回の兵もよこさないと嘆いていたのを知っていた。


 「父上と母上は毎年偉い人にお金を渡していたのに何故助けに来てくれなかったの?」


 「その年齢でその考えに至るとは随分と賢い子だ、はっきり言わせてもらうとその偉い人がボンクラだったからですよ、今回の件でそのボンクラは処分されこの地は我々アヤノの管理下になります」


 「それで何か変わるのですか?」


 「あなたには二つの道があります、このまま貴族として復帰をしてアヤノが用意する男性と結婚して過ごすか、あまりお勧めしにくいのですがアヤノで訓練を受けてこの惨状を招いた相手である「蛮族」に一矢報いるかのどちらかです」


 「私は......」


 私はあの時の判断を後悔していない、アヤノの訓練はとてもつらかった。体を動かす訓練から蛮族語や蛮族の習慣の習得、成長をしたら女を武器にした男性を魅了して篭絡する訓練等様々な訓練を受けた。


 「蛮族は追い詰められている、情報では女子供でも城塞都市内では働いている。潜入に当たり日焼けをしてもらいます」


 たいていの事は耐えられたが日焼けで肌が焼けるのは結構きつかった。


 アヤノ軍が破竹の勢いで蛮族の砦を落として行き城塞都市は残り一つとなった。今はその残りの城塞都市に蛮族軍が流れ込んでいる状況だ。


 「今がチャンスです、こうも大量に人間が流れ込んでいると身分確認は雑になります、すでに10年以上前に都市建設の職人として潜り込ませている男がいます、その男の手引きで中に入ってください、あなたはその男の娘として過ごしてもらいます、今日からあなたの名前はイルヴァです、覚えておいてください」


 こうしてイルヴァになった私は真夜中に荒野の岩陰に隠れている、しばらくすると岩陰の下の地面が開く、人ひとりがやっと通れる穴ができていた。


 「話は聞いている、この道は小柄な人間がやっと通れる程度の道だ。気を付けてついてきてくれ、詳しい話は現地でだ」


 狭い手彫りの隠し通路を抜けた先は質素な家の中であった。


 「お疲れさん、今飲み物を用意する、待っててくれ」


 年齢は50くらいだろうか?すこし白髪が混じったおじさんが事情を話してくれた。


 ・自分は過去に蛮族の中でも権力争いに負けた部族の生き残りである事。

 

 ・建築技術があったから服従を条件に殺されずに済んだ事。


 ・いくつかの国を滅ぼしてここに来た時にアヤノ兵の強さを見て最後の賭けに出てあの隠し通路を作り長年アヤノとやり取りをしている事。


 ・自分はそこそこ信用されているので自分を将軍の司令部のメイドに推薦できそうとの事


 「そもそも教養がある女性が少ないから読み書きができて私の推薦があれば通るはずだよ」


 おじさんの言うとおりに筆記試験と面接を受けるとあっさりとメイドとして採用された。


 最初は重要な場所での仕事は任せてもらえなかったが人手不足なのだろう、私がしっかり仕事をしてそこそこの教養と愛国心があると知れると将軍の部屋にも入れるようになる。教養も愛国心もアヤノのスパイ訓練で学んだ事なのだが。


 蛮族の将軍と聞いていたのでどんな粗暴な男かと思ったらビックリするほど優しい男であった、言葉の端々からもうアヤノに勝つことより一人でも多くの人間を生かす事を考えているように感じた。


 優しい男性なら気が付いてもらえるのではないかと思い、潜入前に持たされていた蛮族の国の花を指令室に飾ってみるとすぐに反応した。


 「君、この花はどうしたのかな?このあたりにはないと思っていたが」


 「父が私に故郷を教えるために種を持ち込んで毎年育てているのです、将軍様にも故郷を思い出してもらえればと、差し出がましかったでしょうか?」


 「いや、そんな事はない。少しホッとした気分になったよ、君は本国を見た事がないのかな?」


 「はい、とても広大で立派な国だと聞いています、いつか勝利して見てみたいと思っております」


 「勝利か....いや、必ず成し遂げて君に見せてあげよう。驚くと思うよ」


 「光栄です。楽しみにしております、将軍ならきっと本懐を成し遂げてくださると信じております」


 心にもない事を言う、ここでこいつを殺して終わるならすぐにでも殺すのに。


 ある冬の朝、将軍の顔色が明らかに悪い、何日も寝ていないのだ。少しでも心を許してもらえればと思いまたしても心にもないセリフを吐く


 「将軍、このままでは倒れてしまいます、しばし御休息を、将軍は倒れれば皆が動揺します」


 「.....そうか、そなたがそう言うなら少し休ませてもらおう」


 あれ?一発で私のいう事を聞いてくれた。中途半端に体調を崩して倒れてくれていた方がよかったのに、せっかくだし信用させるためにもう一芝居しよう。


 私は厨房を借りてある料理を作る、スパイ学習で習った蛮族の人間が風邪をひいた時に食べる病人食を作っている。


 「将軍様、もし食欲があるならどうぞ、向こうの病人食を模して作ったものです、羊肉が手に入らなかったので鶏を使っていますが」


 鶏の骨付きもも肉と乾燥ニラと塩で味付けしたスープだ。


 「いや、とてもうまい、久しぶりに故郷を思い出したよ、必ず共に帰ろう、しかし鶏なんかよく手に入ったな、私の名でもらってきたのであれば後で持ち主に謝罪せねば」


 「いえ、大丈夫です、この鶏は私の自宅で育てていた老鶏です、そろそろ食べようと思っていたものですのでお気になさらず、せっかく捌きましたので無くなるまではお休みしてください、側近の皆さまもそう言っておいでました」


 「そうか、すまんな。ところでそなたの名前は?」


 「イルヴァです、将軍様に覚えていただくほどの者ではございません」


 「そんな事ないぞ、私は生涯その名前を忘れる事は無い」


 「そんな、私ごときがもったいない」


 (覚えなくていい!そのうち牙を向くのだし、むしろ忘れていて欲しいくらいだ)


 「イルヴァよ、すまぬが眠るまで手を握ってもらってよいか?この時期は寒くてな」


 (うーん、この場でやってしまうか?いやダメだ。この人を殺しても城塞都市が落ちるわけじゃない、今は信頼を得る時)


 「私でよければいつまでも手を握っていますよ、安心してお眠りください。将軍様は働きすぎです。お休みしましょう」


 「そうか、すまんな、体調が戻り次第必ず安全な所に.....」


 こうして将軍は眠りについた。イルヴァはこの行動がどのような事になるかまだ分かっていない。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 両親を失った10歳の少女が、アヤノの手によってスパイへと育て上げられ、任務として将軍に近づいていく、その過程はいかがでしたでしょうか。


 すべては計算され尽くした演技でした。優しい言葉も、寄り添う仕草も、その裏には冷たい任務意識がある。それでも将軍は、彼女を心から信頼し始めています。


 後編では、この関係がどのように変わっていくのか、そして彼女がどのようにして将軍を裏切ることになったのか、その過程をお届けします。


 「イルヴァ、演技うますぎる」「これからどうなっていくの」と思っていただけましたら、ぜひ【お気に入り登録】をお願いします。更新のたびに通知が届きますので、この先の展開もお見逃しなく。

評価や感想も、大きな励みになります。よろしければお気軽にどうぞ。

次話もお楽しみに。

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