すべてを失った男が、すべてを得る日
長きにわたる戦いの果てに、ついに迎えたこの日。
オリバーとリリィ、二人の結婚式です。これまで積み重ねてきたすべての想いが、この一日に集まります。
リリィとオリビアとのファーストコンタクトから約1年が過ぎショーベリ領の秋祭りに合わせて王国と北の国の情報操作により冒険者をしながら強力な魔法を習得して蛮族の撃退に大きく貢献した勝利の女神と称されるリリィと王国で蛮族の総司令官兼将軍を捕えた元冒険者でありながらアヤノの騎士となった英雄オリバーの結婚式が行われる。
因みに二人の出会いは冒険者時代に知り合い恋に落ちたと情報操作をされており、オリバーの出自は蛮族に両親を殺された孤児という事になっている。
この世界の結婚式は過去の異世界転生者の影響を多少受けている。違いは結婚の誓いは二人で互いの両親の前でする事である。
ショーベリ領主のエリックはアヤノの英雄騎士オリバーの結婚式であるからアヤノ家当主であるイワオも招待した、アヤノ側も英雄の為ならばという名目で家族総出で参加を表明した。
そのせいもあり小さな領の結婚式にしてはとても豪華な顔ぶれが揃う事になる。同盟諸国内から数百年ぶりに国内の蛮族を排除した成功した大英雄イワオ・アヤノをはじめ王国や北の国重鎮も参列する事になった。
いくつかのサプライズもあり、まずは北の国の重鎮の挨拶時にショーベリ家は5位貴族から4位貴族への昇格が発表された、何か恩恵があるわけではないが貴族の昇格はそうある事ではない、それなりの報奨金と名誉が与えられるだけだが貰えるものはありがたい。
後はエリックが気を利かせてアヤノ夫婦にあるお願いをした、オリバーは孤児という事になっているので親族席に座ってもらい結婚の誓いをする時には一緒に誓いを受けてくれと要請し、イワオとヘレナは二つ返事で了承をした。
転生者の影響を受けたであろう結婚の誓いの問いをショーベリ夫妻とアヤノ夫妻が交互に二人に問う。
まずはショーベリ夫妻からだ。
「リンネア。あなたは、ここにいる オリバーさんを夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、喜びの時も悲しみの時も、生涯、愛し、敬い、慈しみ合うことを誓いますか?」
「はい、誓います!」リリィは力強く答える。リンネアは本名でリリィはあだ名という事になっている。
次にアヤノ夫妻
「新郎オリバー。あなたは、ここにいるリンネアを妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、喜びの時も悲しみの時も、生涯、愛し、敬い、慈しみ合うことを誓いますか?」
「はい、誓います」オリバーも力強く答える。
この後両親の前で結婚の書類にサインをして正式な夫婦となり式典は終了した。
後は飲めや歌えのどんちゃん騒ぎである。特に大英雄であるイワオは大人気で無礼講な雰囲気もあり平民がこぞって握手を求めてきた、イワオも快く引き受けて共に酒を飲み語り明かす。
この結婚式には当然王国からも重鎮が派遣されておりマルコが参列している。
「イワオ、おめでとう。エリック殿も気が利くな。家族として参加できてよかったじゃないか」
「あぁ、いきなりでびっくりしたがいざやってみると感無量だよ、それよりマルコよ、振舞われているベリーワインの銘柄が勝利の酒になっているがお前の仕業か?」
「まぁな、イワオは解放した土地で救荒作物しか育てる気が無いようだから先手を打たせてもらった、この領のワイン加工工場は私の息のかかった商社が手掛けている、ブドウ栽培も軌道に乗れば勝利のワインもブランド化して売り出す予定だよ。この勝利のベリーワインもかなりの人気だ、この地を勝利の酒の名産地にして豊かにするよ」
「お前、息子の結婚式だぞ、商売の話は今度にしろ。それよりマルコが来ると聞いてまた用意したぞ、今夜は時間を忘れて指そうじゃないか」
イワオは学生時代から何度もマルコと対戦をした盤上競技を取り出す。
「まったくイワオも懲りないな、連勝記録をまた伸ばそうじゃないか」
「前回は何度か惜しい対局があった今夜は勝つぞ」
イワオとマルコが久しぶりの対局を楽しんでいる時奥様達も会話を楽しんでいた。
「シグリッドさん、今日はありがとうございました。息子の結婚の誓いを受ける事は諦めていたのにこんな機会を与えてくださって」
「いえいえ、主人と話していたら思い浮かんだのですよ。やっぱり子供の晴れ姿は近い所で見たいですからね」
何度か会話をしているとシグリッドは領民への挨拶のためにエリックに呼び出された。小さな領は領主と領民の距離が近いのである。
「ヘレナさん、いいでしょうか?」
オリビアの母がオリビアを連れ立って声をかけてきた。オリビアがヘレナに謝罪をする。
「長い間謝罪を出来なくて申し訳ありませんでした、私の浅慮のせいであの人の人生を狂わせてしまいました。10年以上目をかけていただいたのに裏切るような事をしてお詫びの言葉もございません」
「オリビアさん、正直あなたの事は本当に憎くて憎くて仕方なかったけど今日あの子の結婚の誓いを受ける事ができてどうでもよくなりました、あの子は幸せになります。あなたの謝罪を受け入れましょう、あなたはあなたの幸せを掴む事を願っていますよ」
「ありがとう....ございます」
オリビアは涙が止まらず言葉に詰まる。その後オリビアの母も謝罪をしてその場を去って行った。この晩アヤノ家とロッシ家の確執は終わりを告げた。
少し離れた小高い丘の上でオリバーとリリィは二人で手を繋いで空を見ている。秋も終わりが近づき空気が澄んでいるために星空が綺麗だ。
「冬になるとね、オーロラが見えるの。空にエメラルド色や赤色の混ざったカーテンみたいな光が映し出されるの、とっても綺麗よ」
「そうか、冬になったらもう一度来て二人で見よう」
「そうね、今年も来年も再来年もずっと先も、子供ができたら子供もつれて見に来たいね」
「それはいいな、何なら年をとって孫ができても毎年一緒に見に来たいな」
「オリバーったらもうそんな先の事まで考えているの?」
「親父に蛮族との戦争を終わらせるのに必死だったのは俺やその子供が安心して暮らせる世の中にするために頑張っているって言われて意識し始めたんだ、これからどんな世の中になるかわからないけどリリィを幸せにするためにできることをやろうって決めたのさ」
「あらオリバー、一人で背負いこまないでよ。私もオリバーが幸せになるために頑張るから二人で幸せになろうね」
「ああ、そうだな。二人で幸せになろう」
オリバーとリリィは星空の下で幸せを掴む事を誓い二人の時間はゆっくりと過ぎて行く。
次回からは蛮族との戦争終結から結婚までの1年間に他の人間がどのように過ごしていたかをみていたこうかと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
すべてを失った男が、すべてを得る日、ようやくこの言葉にふさわしい結末を描くことができました。
アヤノ家とロッシ家、長きにわたる確執にも静かな終止符が打たれました。そしてオリバーとリリィは、これから先の未来を、二人で見つめています。
物語はまだ続きます。次回からは、この一年の間に他の人々がどう過ごしていたのかをお届けします。
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次話もお楽しみに。




