マーガレット、救えた子と、還らない子
今回は、以前チラ見せしていたマーガレットの過去、彼女が運営していた孤児院と、そこから奪われた子供たちの真相に触れる回です。
子供の人身売買、そしてその結果として描かれる死についての言及がありますので、閲覧に際してご留意ください(「残酷な描写あり」表記の通りです)
救われなかったものと、それでも救われたもの。両方を丁寧に描いたつもりです。どうぞ最後までお付き合いください。
「なぁロック、いつも話をしているマーガレットさんは次いつ来るかわかるか?」
ロック金物店に訪れたオリバーは唐突にロックに問う。
「何だよ急に、いつも話しているわけじゃないぞ、あいつも忙しいから週1くらいだ、何か用なのか?明日来ると思うけど」
「あぁ、ちょっと実家関係の人が聞きたいことがあるっていうものだからさ」
「貴族がらみねぇ、あいついい顔しないかもだぞ?来るのはいつも10時頃だ」
(悪いなオリバー、なんか第六感が働いて少しだけ寒気がした、本当は来るのは9時だ。貴族が会いたがっていると先に話して会うかどうかを決めるのはマーガレットに任すぜ)
「わかった、その時間に来るよ、しかし最初は月1に来る約束じゃなかったか?週1に増えたんだな」
「なんか毎日命がけでダンジョンに潜るより週2で休みをとるように方針転換したらしい、いつもこっち一泊していってるみたいだぜ」
やっぱりロックにも春がきたのか?と思いつつも聞くのは野暮な気がしてオリバーはそのまま帰宅した。
翌日決まった時間にマーガレットはやってくる。
「あら、今日も忙しそう、いい事ね私へ借金も早く返せるといいわね」
「今のペースだと数年単位になる、悪いな。それよりちょっと話があるんだ?」
「何?告白?懺悔?」
「どれでもねぇよ、ある貴族がマーガレットに話を聞きたいんだとさ、わざと来る時間は1時間後に指定しておいた、会うかどうかは自分で決めてくれ。話を繋いだのはマーガレットも知っているオリバーだ、あいつはいい奴だが連れて来る奴は知らない、一応俺の第六感は少し反応したよ、ほんの少しだし危険なレベルではないと思う」
「そう、貴族様ね。いい思い出は無いけどわざわざ指名して来るって事はここで逃げてもダンジョン街まで追ってきそうだし会うわ」
そう言っていつものようにロックと短い雑談をしたり仕事を眺めてマーガレットは時間を潰す。
「ロックさーん、また山に行ってロックさんの出した依頼の物を取ってきます」
前に大けがをして死にかけた子だ。
「おう、気を付けて行けよ」
その後次々とロックの仕事を請け負っている子供が訪ねては走って仕事に行く。
(私もこういう風にすればよかったのだろうね、残念ながら学も手に職もない、治癒術と杖が扱えるだけの私じゃ無理だけど)
そうするとオリバーと見慣れぬ男がやって来た。
「こんにちはマーガレットさん、この人はある事件を担当しているんだ」
アヤノ家のいつもの間諜である。今回の事件の捜査をするにあたりマーガレットの事を調べたらオリバー達と顔見知りである事が判明したのでこの件を任されたようだ。
「......防音魔法を使った方がいい話かい?」
「そうですねお願いします、この件の首魁は逮捕済みですので大丈夫ですが逮捕された事をあまり知られたくない」
マーガレットがこの件と逮捕済みという言葉に強く興味がひかれてすぐに防音魔法を発動させる。
「ほう、凄い精度ですね、これなら安心だ。前置きはしません、奴隷貿易を行っていた北の国の港の管理官であるブゥタが逮捕されました、ブゥタと言っても当主ではなく三男ですがね、聞きたいことはあなたが司法機関に訴えた形跡があったのでその事です」
「形跡?どういうこと?間違いなく訴えたわよ!その時の書類を複写した物も持っているわ!」
急にマーガレットは怒鳴りだす。
「落ち着いてください、あなたが訴えた事はほぼ分かっています、証拠が無かったので聞きに来たのです、複写を取っておいてくれたのはありがたい、これであの男の罪が一つ増えましたね、訴えの隠滅は立派な犯罪ですから」
「隠滅?どういう事?何を知りたいのさ?」
「あなたの訴えは窓口で握りつぶされています、裁判所に届いていません。詳しい事は極秘事項なので言えませんがこれであの男が断頭台に一歩近づきました」
「そんな事はどうでもいい!子供たちはどうなったかわからないの?どこまでわかっているの?」
「.....非常に言いにくいのですが生き残りを少数保護できたとしか言えません、あなたが出資して運営していた孤児院の子を乗せた船が難破してほとんどが亡くなりました、生き残りは陸路で王国に運ばれた子のみです、申し訳ありませんがその子たちは疲弊しすぎていてまだ面会謝絶状態ですが回復したらお知らせします、加害者は全員逮捕済みです」
「せめてそいつらを殺すくらいは私にやらせてよ....」
「申し訳ありません、王国の法で裁かれる事になります、全員余罪がありすぎて極刑は間違いありません、犯人たちは家族にも見捨てられていますので逃げられません、その家族にも知らなかったとはいえ重い罰が下ります」
「なんで私があんなに動いたのにそんなあっさりと事が進むのさ!何であの時助けてくれなかったの!あの時に助けていれば間に合ったのに!どうして.....」
「腐った貴族、いや忘れてください。言い訳になりませんが腐った者が多すぎるのです、今回の件を片付けても膿が出し切れないほどに」
「何で?何でさ?あの子たちは何も悪い事をしていないのに、私が集めたばっかりに....どうして...」
「なぁ、捜査官さんでいいのか?亡くなった子の墓くらいはあるのか?」
ロックが急に口を出してくる。
「はい、用意してあります。どこにすればいいか迷いましたが王国や北の国に埋葬していいとは思えませんでしたのでこの地の共同墓地に、調べた所孤児院の近所の人は当時の孤児院での子供たちは楽しそうだった、特に修道服を着た女性が来た時は特にそうだったと聞いてこの町の墓地に埋葬しました、すみません、来週また来ます、その時に申請用紙の模写をお願いします」
オリバーは少しロックと話した後に捜査官と共に去って行った。
ひとしきりマーガレットが泣き、落ち着いた所にロックが暖かいお茶を差し出す、リリィが愛飲していると聞いた気分が落ち着くハーブティーを急いで買ってきて用意したのだ。
マーガレットがハーブティーを飲んで少し落ち着いた時にロックが声をかける。
「なぁ、よかったら墓参りに行かないか?」
マーガレットは少し考えてロックに質問をする。
「私にそんな資格があると思う?私がしっかりしていれば死ななかった子達だよ、私が行っても...」
「間違いなく喜んでくれる、さっき捜査官の人も言ってたろ?修道服を着た女性が来た時は喜んでいたって、気持ちの整理がついてからでいい、行ってもいいと思うぜ」
「そうね、ちゃんと行って謝らなきゃ....」
「謝らなくていい、マーガレットは悪い事をしていない、あの世ってのはあるかは知らないけどもう安心していいように願うんだよ、お前が願わず誰が願うんだ」
「分かったよ、行こう、今行かないともう行けそうにない、ごめんよロック仕事中に、悪いけど一人で行けそうにないの、付き合ってくれる?」
「言われなくてもついていくさ、任せてくれ」
共同墓地でマーガレットはしゃがんで祈りを捧げている、すすり泣きをしているのだろう、ロックは気のすむまで待ってやることにした。
しばらくしてマーガレットは立ち上がる。
「もう、いいのか?」
「ううん、全然ダメ。毎週来てずっと祈り続けるわ」
「そうか、そうすればいい。きっとこの子達も喜んでくれるさ」
そういいながらロックはカバンから出した果実水を墓にかけてやっている。
「子供ってのは甘い物好きだろ?少しは喜んでくれるといいんだけどな」
「ありがとう、あの子たちは果実水が大好きだったわ、私はいつも孤児院に行った時は皆に飲ませていたの」
「まだ生きている子供もいる、回復したらここの孤児院に帰って来るみたいだ、さっきオリバーと話していたら王国と周辺の国の孤児院は王国の大貴族の管理下に置かれるらしい、オリバーは信用できる大貴族だと言っていた、今回の事件の首魁の逮捕にも大きく貢献したんだとさ、きっと信用できるはずさ」
「そうだといいけど....」
「心配ならしょっちゅう会いにくればいいんだよ、せっかく目に入る所に帰ってくるんだ、できるだけ会ってやればいいんだよ」
「そうね、とりあえずできる範囲で、目に入る範囲で私なりにやれる事をやるよ」
「そうすればいい.....寒くなってきたな。まだ春先とは言え時々雪が降る、俺の工房に帰ろう。暖かい飲み物くらい出すぜ」
「ええ、今日はたくさんお世話になったわ、ありがとう」
「気にするな、俺だってやれる事をやっているだけだ」
雪がちらつく中、二人は墓地を去って行った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
マーガレットが長年抱えてきた後悔と、それでも失われなかった祈りの続きを、少しでも感じていただけたなら幸いです。
すべては救えませんでした。それでも、まだ間に合う命はあります。ロックの「目に入った子だけでも救えればいい」という言葉が、今度はマーガレット自身の生き方として静かに根を張り始めています。
そして事件はここで終わりません。次話ではロッシ家・アヤノ家、そして王、物語の中枢が動き出します。積み上げられた証拠と犠牲が、いよいよ国家を動かす段階に入ります。
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次話もお楽しみに。




