刺の冠を被る者の独白
自分が頭がいいと思っているアホのお話です。
(あのブゥタがやられた、運悪く王国内で蛮族の隠し坑道が見つかったせいで足がついたのだろうか?あれほどの大物の三男を失うのは痛手だが仕方がない、私はあいつと違って優秀だ、すぐに改善案を出そう、一応ブゥタとの接触時は他国の上位貴族の次男をトップだという事にして接触をさせた、間にもたくさんの人間を噛ませたから私まで捜査の手が届く事はあるまい、私はそこら辺のアホとは違う、リスク管理は必ず行うのだ)
ブゥタが逮捕されたのはただ単にブゥタがアホだったからである、それを見抜けないこの男もある意味アホなのだ。
メイドが手紙を持ってきた、差出人はブゥタに接触させた高位貴族の次男からだった。
(あいつも組織の幹部の一人だ、会ってやるか)
後日その高位貴族がやってくる。表向きは都市間交流の活性化の非公式で話し合いとなっている。
「人払いと盗聴防止の処置はしてある、自由に話せるぞ」
「そうですか、ではまずブゥタを失ったのは損失でした、あいつの奴隷貿易と蛮族からもらう賄賂はかなりの収入源でしたから」
「ふむ、しばらくは隠れ賭博場で庶民から金を巻き上げるか小さな密輸入とそれを見逃す代わりの賄賂程度しか資金集めができない状態か、周辺諸国に散らばって侵略をしている蛮族からも報酬にプラスして建国時の幹部登用を条件に出されているが当分は積極的な接触は避けるべきだろう、今はブゥタのせいで当局の目も厳しい」
「そうなんですか、流石あなたほどの人物だと情報が早い」
「ははっ、組織をまとめる者として当然の事だ、それよりお前は大丈夫なのか?ブゥタがお前の名前を出すと思うが、まだ捕まってないとするなら安全か」
「ああ、ブゥタに接触したのは私の影武者ですよ、私のそっくりさんがブゥタに接触して金をだまし取った、そういう筋書きです。当然その影武者はジパン行きの船に乗せて同盟諸国にはもういないのでご安心を」
「流石だな、しかし同盟諸国の悪習は断たねばならん、生まれる順番の違い等で後継者を決めるのは不合理だ、父上の目は節穴なのか何故かあいつを重用する。私に任せてもらえればもっと上を目指せる、そうすれば皆私に従いより発展するだろうに、世界を救った偉大なギフト持ちが作った身分制度なのだ、厳格に運用せねばな」
「まったくその通りです。差し当たってもう一つ資金集めの方法を気が付きました。農民共は計算ができません、息のかかった管理官に税を徴収する時に1割多く徴収するように指示をしましょう、農民は馬鹿ですから気が付きますまい、塵も積もればといいます、そこそこの収入になるかと」
「ふむ、とりあえずその案も実行しよう。私の方は管理している町の貧民街をローラー作戦で若い人間は適当な罪状で鉱山送りにするように手配をしよう、定期的に移送中に盗賊に襲われたことにして奴隷として売れば多少は金になるだろう」
彼らは自分たちが頭がいいと思っている、農民が1割多く税金を取られるのは死活問題だ、それで餓死者や病人がでたら来年以降の税金が減る事を思いつかない。
町に存在する貧民街もそうだ、領主がいらないパーティーを自粛して私財を投げ出すか上の者に直訴してでもお金を捻出して公共工事を行い賃金を払えば少しづつ生活基盤が整い、時間はかかるが貧民街は消えて貧民だった者がお金を持ち始める、そうすれば商人が入り込み商売をして消費が発生する、労働者は公共工事で賃金を得て、商人がそれを消費させ税を払う。そういう仕組みを作るのが領主の仕事なのに目の前のお金にしか興味が無い、親から見捨てられて当然だ。
聡い領主はアヤノ家が赤芋なる救荒作物を手に入れたという情報をゲットしている、そもそもアヤノ家では赤芋を育ててくれる領主を大々的に募集しているのだ、気がつかない方がどうかしている。
そしてその領主は貧民に簡易的な住宅を用意して荒地で赤芋の生産に取り組ませている、美味しくは無いが腹持ちがいいので貧民が飢えない程度に徴収して飢饉が発生した時用に貯蔵している、飢饉が来なければ腐る前に貧民に炊き出しとして還元をする。人間は腹が減るから犯罪を犯さざるを得なくなる、腹を満たせてやれば一定の治安は回復する。
仮にも彼らは貴族だ、学院で簡単な経済学くらいは学ぶはずなのにその程度にも気がつかない。自分が優秀だと信じているバカほど手に負えないのである。
困った事に魔族と呼ばれる人間の天敵との戦争が終わり数百年、その時に功績を上げたのが今の貴族なのだが当時ほどの戦乱が無いためか名ばかり貴族が増えすぎた、懐事情が厳しい名ばかり貴族は血を絶やさぬために長男ばかり教育する傾向がある、その結果歪んだ性格の次男、三男が次々と生まれ烏合の衆と言えど刺の冠は拡大傾向にあるのである。
烏合の衆である刺の冠とは言え中身はそこそこの権力を持った貴族である、利用価値があると感じてマフィアなどの反社組織が入り込む、ボンクラ貴族と違い彼らは頭が切れる、マフィアはボンクラ貴族を使って様々な非合法な悪事を広げていく、それが同盟諸国内に癌細胞のようにひろがっていくのである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブゥタという駒を失ってなお、動じることなく次の資金源を語り合う男たち。まだ姿も名前も見えないこの人物こそが、この物語で最も静かに、そして最も深く根を張った敵かもしれません。
しかし「刺の冠」が食い物にしてきたのは、数字や資金繰りだけではありません。
次話では、かつてブゥタが噛んでいた子供の人身売買、その被害者を救おうとして、そして救いきれなかった一人の女性、マーガレットのもとに、ようやく正式な捜査の手が及びます。
当時何が起きていたのか。そして、あの子供たちは今どこに。
「刺の冠」を追い詰める物語は、こうして一人一人の痛みを拾い上げながら進んでいきます。
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次話もお楽しみに。




