北の国の蛮族の討伐そして王国からの要求
潜伏してた蛮族は何を思うか、強気な態度の北の国外交団にマルコはどう立ち向かうか。
長い冬が終わりを告げようとしている、しかし北の国の山間部はまだ寒い、かつて港を管理していたブゥタが横流しをした防寒着を着て蛮族兵が夜間の山間部を行軍している。
「今回はあの濃霧の荒熊はでないだろうな?」
「あいつは王国兵だと聞いた、流石に2度目の国境侵犯はないはずだ、だいぶ王国は搾り取られたそうだ、この国の刺の冠とかいう組織の奴が言っていたらしい」
実際はマルコ・ロッシがいいくるめてかなり王国側にいい条件での決着になったのだが基本的にボンクラしかいない刺の冠のメンバーはそんな事は知る由もない。
「王国の城塞都市はもうダメだ、食料も無いしあの土地で生まれたやつは王国側に投降をしようとしていると聞いた、こっち側に来られてラッキーだよ」
「今から攻めるショーベリ領は北側で仲間が攻め立てているから俺たちが領都を制圧後にそのまま北上して挟み撃ちにすればすぐに陥落するはず、そのまま立てこもって何年もかけて周辺諸国を攻めている仲間を呼び寄せて一点集中で北の国を落として独立宣言をするのだ、もう本国からの補給も途絶えた。何とか独立を達成してこの地に溶け込むしか生き残る方法はない」
そんな夢物語を語りながら蛮族はあの濃霧の荒熊が現れた峠を過ぎようとしていた。
半分ほど通り過ぎたその時に四方八方から正体不明の敵に強襲される、細い山の尾根である稜線を挟んで完全に分離された蛮族兵は何もできないまま谷底に落ちるか捕虜になるしかなかった、運よく逃げ延びても春先とは言え北部の山中である、凍えて死ぬか投降するしかなかった。
後日再び王国と北の国で会議が開かれた、領土侵犯は2度目である。北の国の外交官の息は荒い。
「2度の兵士による領土侵犯、許される問題ではない!もはや金銭で解決できる話では無くなっている、これは同盟を組んだ時に決めた取り決めだ、無許可に兵士を他国に送ってはならないとな、単刀直入にいわせてもらう、王国の食糧庫と呼ばれる平野の半分の割譲を求める、これは同盟を組んだ時に違反した国が受けるペナルティとして妥当である、その時に調印した条約にも記載してある、返事はいらないぞ、ハイかイエスなら聞いてやるがな!」
(そりゃ北の国は肥沃な大地は欲しいだろうね、ほとんどが作物がろくに育たない土地ばかりだ、しかし今回はこちらには切り札があります、痛い目にあうのはそちらですよ)
ロッシは内心そのような事を考えながら補佐役を務める者に指示を出す。
「まぁまぁ、北の国の皆さん。落ち着いてください。今からお見せする資料をみてから改めて話し合いにした方がそちらのためですよ」
「何を言っている!時間稼ぎのつもりか?そっちがその気ならもう我が国からの泥炭の輸出は停止する、来年の冬は王国民は凍死者続出だ、無能な外交官をよこした王国の王族を国民はさぞ恨むだろうな!」
マルコは資料を受け取り皆に行きわたらせる。
「さて、資料をご覧になってください、ここにいるブゥタさんの三男さんがやらかした事の一覧表です。密輸やそれを見逃す賄賂を受け取った証拠、奴隷貿易をやっている、そして蛮族への物資の横流しや管理をする港でショーベリ領を攻めるために蛮族兵1000名以上の保護、最初に行われた蛮族による2000人規模のショーベリ領攻略作戦にも関与していますね」
ここまでおだやかだったマルコは急に声を荒げる。
「ここ数百年誰一人も達成し得なかった蛮族の城塞都市の攻略に成功しているのは我が国だけだ!アヤノ家は100年以上蛮族と戦ってやっと複数の城塞都市を落とした!それをお前ら北の国は後ろから撃ち続けていたのだぞ!お前らはそれも見抜けなかった!責任をどう取る気なのだ!?同盟国条約違反だと言ったな?蛮族に協力する以上の違反があるというのか?しかもブゥタの倅は我が国の孤児院からも子供を拉致して奴隷として長年売り払っていた、北の国が発行する書類に子供を乗せたコンテナを運び出す許可のハンコまで押してある、これは条約違反どころの騒ぎではない!宣戦布告と取らせてもらう!アヤノ3位は言っていたぞ、蛮族は放っておいてまずはブゥタ領を攻め落すとな。アヤノの恐怖を思い知ればいい、お前らが侵攻を止められない蛮族を蹴散らすアヤノ兵を止められるといいな、当然王国も全面バックアップをして海上封鎖と国境封鎖をする、作物が育ちにくい北の国が何年持つか見物だな!」
普段は外交の場では温厚なマルコの激昂である、皆あまりの勢いに息をのむ、そして渡された資料に目を通して北の国外交官は顔がだんだんと青くなっていく。蛮族との覚書書に押してあるのは間違いなく北の国が発行する書類とハンコである。
ここでブゥタ3位が声を上げる。
「すまない、にわかに信じがたい、持ち帰ってハンコの照合や内容の精査、そして息子や関係者の事情聴取をしたい」
「どうぞ、因みにあなたの三男は王国内で婦女暴行未遂を起こしましたのでこちらで逮捕しております、その資料の中にも書いてありますが色々としゃべってくれましたよ、ご自由に調べてください、まだ提出していない証拠もたくさんございますので破棄しても無駄ですよ、それとあまり時間は無いと思っていただきたい、対蛮族ではアヤノ領兵の死傷者が同盟国内でもトップクラスです、アヤノ3位は怒り心頭で国境沿いに部隊を配置しております、蛮族とアヤノ家との両面作戦をしたいのならどうかご自由に、ではさようなら、もう会う事も無いかもしれませんね」
「待ってくれ!三日、三日あれば精査は終わる、その時にまた話し合いたい、頼む」
「三日ですね、話し合いにならないと思いますよ?なんせ我が国の国民の拉致と蛮族への裏切りですから、こちらの要求を飲むだけになるかと」
そう言い残しマルコ達外交団は去って行った。その後三日かけて証拠を調べ上げたが見事に真っ黒であることが判明した。北の国が作り他の国には極秘にしてあるインクに混ぜてある成分の一致や北の国が正式に発効する紙に混ぜてある特殊な材料までもが一致したのである、その他に言い逃れができない証拠が多数でてきた。
三日後の会議では北の国側は最初の勢いは全くなかった。マルコの独壇場である。
「まずは泥炭は10年間一定量は無償で提供する事、10年間関税はこちらの言うとおりにしてもらいます。それとショーベリ領ですが、あそこが落とされると面倒です。王国軍が駐留させていただきます、その際の費用は北の国持ちです。そしてショーベリ領は同盟諸国から蛮族が一人残らず殲滅されるまで名目上は北の国の領土ですが治外法権を認めてもらう、あの領で起きる事や徴税はすべて王国管理下で行われるものとする、後の細かい話は正式な調印前に改めていたしましょう、安心してください、私事ではございますがあの地には我が娘オリビアが嫁ぎます、悪いようにはしませんよ」
ショーベリ領の治外法権には期限が決められていない、蛮族が同盟諸国から一人残らず殲滅するまでとなっている、現状蛮族を完全に追い出すメドが立っているのは王国のみである、実質ほぼ永久占領みたいな形である。
「拒否してもかまいませんよ、その時はあのイワオ・アヤノ率いる精鋭が北の国になだれ込むだけです、当然王国も支援します、明確に条約違反したのは貴国です、他の国が助けてくれるとは思えませんね、返事を聞かせてもらいたい」
数時間後に仮の調印式が行われる、正式な調印式は後日両国の王が全権を委任された者で執り行われる。
ブゥタ3位がマルコに話しかける。
「あなたとは外交上で長い付き合いになった、この調印で私の仕事は最後になるだろう。息子が迷惑をかけた、どうお詫びすればいいか言葉がでない、王国の蛮族攻略戦の成功を願っているよ」
「ブゥタ3位、あなたには特に長い間世話になった。我が王の直筆の減刑嘆願書がある、死刑や投獄はなくなるはず、どうなるかはわかりませんが強く生きてください、かわいそうですがあなたの三男は死刑は免れません、ではお元気で」
こうして長年の間外交の場で論争を繰り広げ妥協点を見出し何度も握手を交わしたマルコとブゥタの最後の会話は終わった。
次回はブゥタ三男を失った刺の冠のトップは何を思うか、そんなお話になります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブゥタ三男の悪事は、ついに国と国との会議の場に引きずり出されることになりました。
強気に出た北の国も、突き付けられた証拠の前ではなす術なし。親であるブゥタ3位は、最後にわが子を庇うことなく、静かに現実を受け入れました。
長年の外交の相手であったマルコとの最後のやり取りに、少しでも切ないものを感じていただけたなら幸いです。
そしてショーベリ領は、王国の実質的な庇護下へ。オリビアの嫁入りも、ここに来て単なる政略ではなく、確かな意味を持つものになってきました。
さて、大きな駒を失った「刺の冠」。そのトップは、この結末を一体どう受け止めるのでしょうか。
物語はまだ終わりません。次章からいよいよ、この作品最大の黒幕の存在が、少しずつ姿を見せ始めます。
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次話もお楽しみに。




