8話 平穏
───「先生と付き合ってるの?」
晴に純粋な瞳で見つめられて、一瞬自分を恥じた。
「付き合ってないよ」
変わらない明るい声でそう言った。
晶の言葉を聞いて安心した自分が、気持ち悪かった。
「...そうなんだ」
何が、『僕も貴方を守りたい』だ。何から守るのか。晶が何を考えて、何を必要としているかも分からないのに。死にたいということ以外、まだ何も知らないのに。
冷たい風が吹き抜ける。
「家、帰んなくて大丈夫?」と晶が聞く。
「うん、帰る。気をつけてね」
「ありがとう」
そう言って、お互い手を振った。
何事も無かったかのように。
──────
次の日も、その次の日も、変わらない日常が続いた。
怖いくらいに。二人の関係は変わらなかった。
変わったことと言えば、晴へのいじめが少しだけ減ったこと。それと、晶が放課後居残ることが減って、晴と一緒に帰るようになったこと。それだけだった。
傍から見ると普通の友達。間違ってはいない、ただ死を誓い合った仲というだけで。
平和な日常が、自殺願望を消してくれるわけではない。
二人を繋ぐ一番深いところにはいつも死があった。
平穏な、死にたい日々が続いた。
────平穏な日常は嵐の前触れだ。
──────
二色家前
今日も一緒に帰った。会話は多くないが、それで良かった。
「じゃあね」
「うん、また」
玄関の扉を開く前に、扉が開いた。
「だあれ?あの金髪。不良と付き合っちゃダメよ、バカが移るわ。親に連絡してやるから名前を教えなさい。」
「不良じゃないです」回答を間違えて、殴られた。
「そんなことは聞いていないわ。な、ま、え。」
「はい、柊木晶さんです。」綺麗な名前を、この人に教えたくなかった。
「それでいいのよ。もう関わっちゃダメよ〜。さ、勉強しなさい」
そう言って何やらしていたが、知る術もなく、自分の部屋へ入った。
『うちの親から、お家に連絡が来るかもしれません。すみません』
はじめてのメッセージでのやり取りだった。文章だと敬語が抜けない。
『敬語だ笑』『大丈夫です、教えてくれてありがとうございます』
合わせて敬語で返してくれた。バカにしている訳では無いことが何となく分かって、笑みがこぼれる。
前に晶が親がいないと言ったことには、触れなかった。触れられなかった。




