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忽雨  作者: ゆきのひ
一章 日々
6/26

6話 苗字

二色-二つの色。二つの種類。

柊木-由来「(ひいら)ぐ(痛む・うずく)」。花言葉「貴方を守る」。


教室の中から、教師の声が聞こえる。


髪を整えて、ネクタイを直す。

──いつもの「二色晴」に切り替わる準備。


「そんなに、気張んなくて大丈夫」

そう言って笑って、晴の手を握った。

繋がれた手を見下ろす。さっきの感触が蘇って指先が熱い


──がらり


「「すみませんでした」」

同時に頭を下げた。


教師がチョークを置いて振り返る。

二人揃って遅刻してきた姿に眉をひそめた

「お前ら....晶と...二色か。珍しい組み合わせだな。」

クラス中が二人を見て、口々に言う

「え、あいつら一緒にサボってたの」「二色が?」「なんであいつが晶くんと?」「晶に影響されすぎだろ」

焼くような視線が刺さる。


「理由はないです。ごめんなさい」

晶が申し訳なさそうな笑顔で、教師の顔を見て言った。


呆れたように額を押さえる

「ないって......お前な」

教師は晶の普段の素行を知っているからか、それ以上追及する気力を失ったようだった。


「次やったら生活指導行きだからな。さっさと座れ」

そう言って、右手を払い除ける仕草を見せた。


「ありがとうございます、羽石せんせ♩はーい」


晶が笑いながらそう言うと、羽石の口が緩んだ。

教師も晶の笑顔には敵わないのだろうと、晴は思った。


二人が席に着く。いつも通りの配置。


窓──左に柊木晶(ひいらぎあき)──右に二色晴(にしきはる)


4月から変わらない、出席番号順の席。

だが、その間に流れる空気は朝までと違う。


二人は、初めてこの苗字に感謝した。


ふと、柊の花言葉を思い出した。たしか、

───「貴方を守る」。

僕も、貴方を守りたい。そんな事を思いながら、さっき晶に引かれた自分の手を握りしめた。


──────


放課後


終礼が終わると教室はいつもの騒がしさに包まれた。

晴は筆箱を片付ける。何も盗まれていない。弁当もいつの間にか鞄に返されていた。


犯人であろう生徒が晶の顔色を伺っている。


それを見て晶が不思議そうに呟く

「俺そんなビビられてんの...何がこわいんだろ、別に酷いことした覚えないんだけど」

学校中の人気者を敵に回すリスクは、いじめっ子たちにとっても計算に入るらしい。


帰り支度をしながら小声で言う

「晶さん、人望あるから」

晶が首を振る

「たぶん、なんも無いってバレてんだと思う...相手にしても意味無いって。俺が嫌な人と接するとき、そう思ってるんだけどね」


手を止めた。じっと晶を見る

「それが.....すごいんだよ」

「...褒められた?うれし」

喜ぶ晶を見て、晴がふわっと笑った

「褒めた」

「ふふっ」

窓から差す西日が二人の机を橙色に染めていた


晴が鞄を持って立ち上がる

「今日は.....まっすぐ帰るね」

「うん。気をつけて」


一歩踏み出して、晶に振り返る

「奢るもの、何がいい?」

「んー、晴くんの好きなやつ!」

困った顔をした

「好きなもの.....あんまり、分からない」

選択肢を与えられることに慣れていない人間の反応だった。自分に似ているなと晶は思った。

「じゃあ.....俺の好きそうなやつ!」

好きなものなんて晶自身にも分からないが、そう言った。


晶が続けて口を開く

「外したら...」

ごくり「外したら......?」


「ひみつ♩」

悪戯な笑みを浮かべて、人差し指を自分の口に当てる。


「.....がんばる」

不安そうな、でもどこか楽しそうな顔だった。


「よろしく」と晶が微笑む。


晴は小さく手を振って教室を出た。

足取りがいつもより少しだけ確かだった。


──────


しばらくして、

晶も教室を出て、晴とは反対方向に歩き出す。


お腹の奥がきゅと(ひいら)ぐのが分かった。

6話読んで頂きありがとうございます。

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