6話 苗字
二色-二つの色。二つの種類。
柊木-由来「疼ぐ(痛む・うずく)」。花言葉「貴方を守る」。
教室の中から、教師の声が聞こえる。
髪を整えて、ネクタイを直す。
──いつもの「二色晴」に切り替わる準備。
「そんなに、気張んなくて大丈夫」
そう言って笑って、晴の手を握った。
繋がれた手を見下ろす。さっきの感触が蘇って指先が熱い
──がらり
「「すみませんでした」」
同時に頭を下げた。
教師がチョークを置いて振り返る。
二人揃って遅刻してきた姿に眉をひそめた
「お前ら....晶と...二色か。珍しい組み合わせだな。」
クラス中が二人を見て、口々に言う
「え、あいつら一緒にサボってたの」「二色が?」「なんであいつが晶くんと?」「晶に影響されすぎだろ」
焼くような視線が刺さる。
「理由はないです。ごめんなさい」
晶が申し訳なさそうな笑顔で、教師の顔を見て言った。
呆れたように額を押さえる
「ないって......お前な」
教師は晶の普段の素行を知っているからか、それ以上追及する気力を失ったようだった。
「次やったら生活指導行きだからな。さっさと座れ」
そう言って、右手を払い除ける仕草を見せた。
「ありがとうございます、羽石せんせ♩はーい」
晶が笑いながらそう言うと、羽石の口が緩んだ。
教師も晶の笑顔には敵わないのだろうと、晴は思った。
二人が席に着く。いつも通りの配置。
窓──左に柊木晶──右に二色晴
4月から変わらない、出席番号順の席。
だが、その間に流れる空気は朝までと違う。
二人は、初めてこの苗字に感謝した。
ふと、柊の花言葉を思い出した。たしか、
───「貴方を守る」。
僕も、貴方を守りたい。そんな事を思いながら、さっき晶に引かれた自分の手を握りしめた。
──────
放課後
終礼が終わると教室はいつもの騒がしさに包まれた。
晴は筆箱を片付ける。何も盗まれていない。弁当もいつの間にか鞄に返されていた。
犯人であろう生徒が晶の顔色を伺っている。
それを見て晶が不思議そうに呟く
「俺そんなビビられてんの...何がこわいんだろ、別に酷いことした覚えないんだけど」
学校中の人気者を敵に回すリスクは、いじめっ子たちにとっても計算に入るらしい。
帰り支度をしながら小声で言う
「晶さん、人望あるから」
晶が首を振る
「たぶん、なんも無いってバレてんだと思う...相手にしても意味無いって。俺が嫌な人と接するとき、そう思ってるんだけどね」
手を止めた。じっと晶を見る
「それが.....すごいんだよ」
「...褒められた?うれし」
喜ぶ晶を見て、晴がふわっと笑った
「褒めた」
「ふふっ」
窓から差す西日が二人の机を橙色に染めていた
晴が鞄を持って立ち上がる
「今日は.....まっすぐ帰るね」
「うん。気をつけて」
一歩踏み出して、晶に振り返る
「奢るもの、何がいい?」
「んー、晴くんの好きなやつ!」
困った顔をした
「好きなもの.....あんまり、分からない」
選択肢を与えられることに慣れていない人間の反応だった。自分に似ているなと晶は思った。
「じゃあ.....俺の好きそうなやつ!」
好きなものなんて晶自身にも分からないが、そう言った。
晶が続けて口を開く
「外したら...」
ごくり「外したら......?」
「ひみつ♩」
悪戯な笑みを浮かべて、人差し指を自分の口に当てる。
「.....がんばる」
不安そうな、でもどこか楽しそうな顔だった。
「よろしく」と晶が微笑む。
晴は小さく手を振って教室を出た。
足取りがいつもより少しだけ確かだった。
──────
しばらくして、
晶も教室を出て、晴とは反対方向に歩き出す。
お腹の奥がきゅと疼ぐのが分かった。
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