14話 部屋
店を出ると朝日が街を乾かし始めていた。雨上がり特有の、洗いたての空気
隣を歩きながら「次は......どこ行く?」と晴が聞く。
「うーん...この辺で部屋、借りれないかな」
足が一瞬止まる。
───部屋
意味を理解して耳まで赤くなった
「...二人の?」
「そう♩...夫婦みたい?男同士だけど」と晶が微笑む。
俯いて小声で「夫婦...」...言ってから、恥ずかしくなった。
沈黙が落ちた。二歩分ほど歩いて
晴の方からぎこちなく手をつないで、口を開く
「探そう。家」
晶は一瞬固まって、目を輝かせて頷いた。
不動産屋が開くにはまだ早い時間だった。
「お部屋探し」の看板を掲げた店の前で時間を潰す。晴がスマホで物件情報を見ている。画面を覗き込む晶との距離が近い。
指が画面の上をさまよって「敷金、礼金.....保証人...」
「大丈夫。足りる。また、稼げば、やり過ごせるよ」と晶が言う。
稼ぐ、という言葉に少し引っかかったが聞けなかった。
10時になって店が開いた。若い二人を見て店員が一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに営業スマイルに切り替えた。まだ、条件を絞れずにいる。
「晶さん、どんな部屋がいい」
「狭い部屋。晴くんは?」
「狭い方が.....落ち着く」
「...ふふっ一緒」
店員に予算と希望を伝えると、駅から少し離れたワンルームを紹介された。築30年、木造、日当たり良好。壁が薄いのが難点だが、家賃は十分払える額だった。
内見に行って、ドアを開けた瞬間
「ここにしよう」と晴が言った。
「うん」そう言ってぎゅっと手を握る。
六畳一間。キッチンは狭く、コンロは一ロ。ユニットバス。何もない部屋だった。
靴も脱がずに立ち尽くしている。
目に水膜が張った
自分の部屋を初めて持つ。その事実が遅れてやってきた
「これから、よろしくね。流されるまで」そう晶が言うと
「こちらこそ」と振り返って、泣きそうな笑顔を浮かべた。
(その顔...好き)──晴の目に溜った涙を舐める、衝動的な行動だった。
舐められて、びくっとして目を閉じた。
「あ...ごめ」
晴は目を開けない「やめないで」
今度は、口に落とす。
んっ、と小さく声が漏れた。
安い蛍光灯がじじ、と音を立てている。
ゆっくり目を開けると、至近距離の晶が映る。
二人の影が壁に重なっていた。
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