21.嘘は人の為なり
「ではこれよりFLOIN作品考証会議を始めるわよ」
「言いにくい会議名だね」
「わぁーワクワクです!」
「それで?何でこいつがいるんだ?」
2の月、場所は建設中の僕らの新しい事務所。今度の事務所はちゃんとした建物だ。フラット板の売り上げは予想以上で事務所を建ててもなお余りが出た。余った分は映画撮影の予算に回ることになっている。まだ空っぽの事務所に椅子と机を持ち込んで、いざ会議となったのだが、何故かシイナがその場にいた。
「参加したいって言うから、呼んでみたわ」
「そんなお菓子上げてみた、みたいに気軽に……」
「まぁ、発想は面白いやつだからな、やる気があるならいいが。本当に映画を撮りたいのか?」
「やりたいです!カリーナさんに聞いたら今度新しいのを撮るって聞いて、是非是非参加させて下さい!」
手をピンと上げて、全力でアピールしてる。
「それはFLOINに入るって事でいいんだよな?」
「えっと、シイナはジーター商会の商会員ですよ?」
「いいよ、こっちは兼任も有りだ。後でゲンナーに話しとく」
「じゃあよろしくお願いします」
「確かにゲンナーさん、忙しくなりそうだし、居てくれると助かるかもね」
「よし、決まりね。よろしくシイナ」
「はい!」
会議が始まった。持ち寄ったのは3人それぞれが考えた新作のプロットだ。2、3枚の用紙に要点が書かれている。
「エリクの考えたやつ。人死すぎじゃない?」
「そうか?」
「登場人物の半分が死んじゃうって、役者から文句出そうね」
「ちょっと攻めすぎたか」
「カリの時計使うトリック面白いな」
「そうでしょう?考えに考えたのよ、どうせなら時計の宣伝も出来て、小道具の調達も簡単なのがいいなって、予算もそこまであるわけじゃないしね」
「でもこれ1時間に収まるかな?」
「確かにな。2時間くらい必要だな」
「う、そこまでは考えてなかった……」
「アルフのやつは……」
「ホテルでの殺人?」
「そう、映画でやるなら、最大限強味を生かしたいなと思って、閉鎖空間を使ったトリックを主人公が解くって話」
「これ面白い。けど後一捻り欲しくないか?」
「そうねぇ、なんかさっと終わっちゃうわね」
「あのぉ〜」
そこまで発言の無かったシイナが恐る恐る手を上げていた。手には僕らのプロット案がある。
「これアルフさんの案を舞台にして、時計のトリックを使うのはどうですか?」
「……おお、いいかも」
「なるほど」
「……面白そう」
三者三様のリアクションにシイナはドヤ顔になる。
「ふっふっふっ。早速シイナを仲間にした恩恵がありましたね!ほら、褒めてくれてもいいんですよ?」
「調子に乗るな。でもこれでいけそうだな」
「そうなると、ホテルを貸し切りにして撮るのがいいのかな」
「結構高そうね」
「ちょっと知り合いに当たってみようか、僕は工房の人に聞いてみるよ」
「じゃあ私は学院で探してみるわ」
「俺は同好会行く。あそこが一番可能性ありそうだ」
「あの、シイナはどうしますか!?」
「早く新型フィルム作ってくれ」
やる気満々で立ち上がる彼女に冷たくエリクが言い放つ。しゅんとしたシイナは小さく返事をした。
「……はい、作ります」
そういう事になった。
「ここか」
「雰囲気のある建物だね」
「ホテルスルジア。なかなか素敵じゃない」
ホテルスルジアは外円通りの内側にひっそりと建っていた。しかし決して見窄らしいという訳では無く、趣きがある。1階部分は石造りのしっかりとした造りだが、何故か2階は木製だ。それがまたいい味を出していた。
「ああ、いらっしゃいましたね。ようこそスルジアへ。オーナーと支配人をしておりますコーダルです」
建物から、恰幅の良い中年の男性が出て来た。この人が今回話を受けてくれた、コーダルさんだ。僕らは一礼し、握手を交わす。
「よう、コダさん。同好の士にあんたみたいな人がいてくれて助かったよ」
「とんでもない、先生の作品の舞台にしてもらえるなんて、光栄の極みですから」
「でも本当に良かったのか?少なくともワンシーズンは貸し切りになっちまうけど」
「構いませんよ。夏は客足も少ないですから」
コーダルさんは同好会の参加者だった。エリクが話を出したら、是非うちを使って欲しいと飛びついてきたそうだ。こちらとしては非常にありがたい話である。
「いいえ、コーダルさん。これはビジネスだから、無料という訳にはいかないわ。前年の夏の売り上げの半分をお支払いします」
「そんなにいりませんよ。本当に暇で、夏は従業員に休暇を出しているくらいです」
「いえ、これは私達のけじめです。ちゃんとした映画製作者として、業界の為にも必要な事です。それに、気兼ね無く撮影が出来るという安心が欲しいという本音もあります」
「……分かりました。そういう事なら」
カリーナさんの説得に応じてくれた。要するにタダで使うのは気兼ねするから、お金は払うよという話だ。僕らは早速スルジアの中を見せてもらう事になった。
「1階が宿、2階が居住空間と従業員の仮眠室になっています。申し訳無いのですが、お貸しできるのは1階の宿泊空間のみとなります」
「十分ですよ。ちなみにこの2階が木製なのは何でですか?」
「お恥ずかしながら、元々1階だけで建てたのですが、使い勝手が悪かったので、増築したのです。そのせいで見栄えが悪くなってしまいまして」
「そんな事無いですよ!先程まで3人で趣があって素晴らしい外観だと話していたんです。今度の話の舞台にぴったりです」
「そう言ってる頂けると助かります。ではどうぞ中へ、丁度お客さんは出掛けておりますので」
入り口は右側にあり、扉を、開けると十分な広さのロビーが出迎えてくれる。左に受付、奥が簡易的な食堂になっていた。
「うちでは軽い朝食を出しています。どちらかというと仕事等で滞在される方が多いですね。客室はこちらです」
左真ん中の扉を開けると、長い廊下が続いていた。廊下の左右には扉があり、そこが客室のようだ。
「全てで9部屋あります。中もご覧になりますか?」
「お願いします」
客室は簡素なものだった。衣裳箪笥1つ、ベットが1つ。申し訳程度に小さな鏡が1つ。鏡も鉄を磨いただけの安いやつだ。
「なるほど。コダさん、これ全室1人用?」
「いえ、奥の2部屋はベッドが2つ入っています。簡易的ですが、シャワーも備えております」
「シャワーの備えまであるんですね」
「奥の部屋にしか入りませんでしたけどね」
奥の部屋も見せてもらった。他の部屋より明らかに広く。調度品もちょっと豪華だ。僕はここで違和感に気付いた。部屋の広さに違和感がある。
「あの、間違いだったら申し訳無いんですけど。もう1部屋ありますか?なんか左右で広さ違いますよね?」
そうなのだ。ダブルの部屋は2つあったが、明らかに今いる右の部屋のほうが広い。
「よくお気付きになりましたね。実は、この部屋は私の私室として使用していた部屋でして、この奥に……」
コーダルさんはそう言いながら、箪笥の横の化粧棚を動かす。すると扉が現れた。
「従業員用の休憩場所があったんです。前は廊下側からも入れるように扉があったんですが、2階を造った時に埋めてしまいました」
中は壊れたベッドやら、使わなくなった食器等が置かれている。今は完全に倉庫扱いのようだ。
「エリク、これ」
「ああ、使えるな」
「面白い要素ね」
もう一度廊下に出る。真っすぐな廊下だ、全ての客室の扉がここから見える。
「この廊下が味噌だな」
「みそ?」
「要点て事さ、そうだな……」
エリクは廊下の奥、丁度机が置かれ、花が生けてあるあたりに立ち、廊下を眺める。
「ここだな。ここしか無い。なぁコダさん。提案があるんだけど」
「はい先生。何ですか?」
「最新の家具をここに置かないか?勿論タダで」
「家具、ですか?」
「高いやつなんだよ。しかも受注生産。ところが何と今回に限り!無料で提供します!」
メモ用の紙を丸めて、何故か耳に挿した状態で、演技を始めるエリク。
「設置も込みで、なんならアフターサービスも付けちゃう」
「何やら良い話には裏がありそうですが、その家具とやらは何なんです?」
「振り子時計。設置しましょうぜ、旦那」
先生が言うならと時計の設置が決まり、エリクはその足で父さんの説得に向かった。絶対宣伝になるからとのエリクのトークに押され、格安で1個作ってくれる事になった。春には出来上がる予定で、撮影には間に合うはずだ。あの後、スルジアには何度も通った。脚本を書くイメージをもらう為だ。何と今回は僕がメインで書く事になった。ミステリーに一番造詣が深いのが僕との事だが、他の意図がありそうな感じがする。そんな作業の最中、ホテルの滞在客と知り合いになった。名前をヘムイーズさんと名乗っているが、本当のところは分からない。なんせ毎回格好が変わるのだ。ある時は商人のようで、ある時は貴族服、また、ある時は小間使いのような服で出掛けていく。コーダルさん曰く、金払いはちゃんとしてるとの事だが、何とも怪しい人だ。
「そりゃ詐欺師だな」
「えぇ?人当たりの良い普通の人だよ?」
「普通の人がそんなころころ格好を変える訳無いだろ、後は出先の舞台俳優とかか?」
「本当かなぁ」
エリクにこの話をしたら、そんなことを言う。
「でも面白いかもな」
「何が?」
「そいつは何時頃ホテルにいるんだ?」
「朝出てって、夕方には帰ってくるみたい」
「よし、明日朝ちょっと仕掛けてみるわ」
「何でもいいけど、暴力は駄目だよ?」
「分かってるよ」
翌朝、エリクが心配になって僕も行く事にした。先にホテルの前で待っていると、貴族街の方から、立派な服に身を包んだエリクが現れる。
「おはよう。何その服」
「おう、おはよう。式服だよ、貴族なら1着は持ってるやつさ。それより何で来たんだよ」
「心配だからさ、エリクがまた人を殺しかけないかって」
「しないって。まぁいてもいいけど、姿見せるなよ。あ、そうだ、アルフあれやってくれよ」
「あれって?」
「ほら、追跡するやつ」
「いいけど、ヘムイーズさんにって事?」
「そう。多分逃げるから」
半信半疑だったが、念の為、詠唱の準備をする。ついでに壁耳の魔法で中の会話も盗み聞く。なんか僕の得意な魔法って犯罪ちっくじゃない?
「おや、これはもしかしてドーリーさんではありませんか?」
「いえ?どちら様でしょうか?私はドーリーという者ではありませんよ」
「おっと失礼。ヘムイーズさんだ。間違えてしまいました。これは失敬」
「確かに私はヘムイーズですが、しかし申し訳無い。貴方のお名前を忘れてしまったようでして」
「いえいえ、我が家にいらっしゃった際に挨拶だけさせて頂いた者ですから。お忘れになるのも仕方無い。私はエリフォート=キュービーです。キュービー男爵の嫡男と言えば伝わるでしょうか」
「あ、ああ、キュービー男爵様ですか、いつもお世話になっております」
「はい。そういえば。この前買わせて頂いたあの壺。父が大層気に入っておりまして、今度の品評会に出品する事になったのですよ」
「ほ、ほう。品評会に。それはよう御座います。あれは素晴らしい品ですからな。して……品評会はいつ……」
「明日です」
「明日!?」
「はい。好事家の方々にお見せするのを、父は今か今かと待ち望んでおりましたから、早速機会が来たという訳ですよ。ヘムイーズさんには今後とも是非お付き合いをお願いしたいと父は申しておりました。失礼ですが、こちらにご滞在で?」
「は、はい。当分の間はこのホテルに」
「でしたらまた使いを出しますよ。父もまたお会いしたいと言っていましたので」
「え、ええ。是非。あの、実はこの後、用事がありまして……」
「これは失礼。お急ぎでしたか、では私はこのあたりで」
僕は壁耳の魔法を切る。エリクが出て来た。すぐさま僕らは路地に隠れる。
「今のは?家に来たことがあるの?」
「いや?はったりだよ。ああいうやつは詐欺を働いた連中の名前なんざすぐ忘れるからな、適当だ。適当」
「適当って、あ、出て来た」
ヘムイーズさんは持つものも持たずに飛び出してきた。すかさずビーコンを取り付ける。これで行き先が分からなくなる事は無い。
「付けたよ」
「よし、ゆっくり追うぞ、詐欺に使う品をどっかにまとめてるはずだ。必ずそこに寄る」
「なんか、こんなのばっかりだね」
「何言ってんだ。刺激的だろ?」
妙に楽しそうなエリクに苦笑する。刺激的だが、危険なのは良くない。そう言おうとしたが、エリクはさっさと歩き出してしまう。
「あそこか?」
「そうみたいだね」
スラム街の近く、外円通りの端にある大きめの建物の横に小さな倉庫が見える。ビーコンの反応はあの中から出ている。
「よし、いっちょ話し合いといくか。アルフ、薄くシールド張っとけよ、物理タイプ」
「もう張った」
「なんだよ、お前も荒事に慣れてきたな」
「エリクのせいだからね?」
「さもありなん」
僕は先に扉をノックする。
「誰だ?」
「アルフレッドです。ヘムイーズさんいますか?先程入って行かれるが見えたので」
「あにき、アルフレッドって言ってますよ」
「馬鹿!話し掛けんな!……たく」
中から2人が言い争う声が聞こえてくる。しばらくして扉が開いた。ヘムイーズさんだ。
「アルフレッド君、こんなところで奇遇だね。申し訳無いんだが、今仕事中でね。今度ホテルで話そう」
そこで、背後にエリクが顔を出す。
「っな」
「もうあのホテルには戻らないくせに、嘘はいけないぜ。詐欺師のヘムイーズさんよ」
「君は……罠か、くそ!バム!ずらかるぞ!」
「ええ、品はどうすんですか!」
「そんなもん捨てちまえ!捕まったら終わりだ!」
ヘムイーズさんは踵を返すと、反対側の扉に向かって駆け出した。エリクが即座に反応し、扉から突入、壁を走り抜け、反対側の扉の前に着地する。
「ほえー凄いねそれ」
思わず感心してしまう、僕には出来ない芸当だ。
「な、お前魔法使いか、くそ!俺の運も尽きたか……」
「まあまあまあ、落ち着きなって。俺らは何も取って食おうって、ここに来た訳じゃないから」
「だったら何だって言うんだ。あんな三文芝居で騙しやがって」
「確かに、詐欺師が嘘に引っかかっちまったのは、いただけないよな」
エリクの台詞に悔しそうなヘムイーズさん。一方バムと呼ばれた男性はどうしていいのか分からずあたふたしている。
「取り敢えず、あんたの名前教えてよ。偽名だろ、ヘムイーズてのは」
「誰が言うかと言いたいところだが、そうだな、俺の負けだ。本職が騙されてちゃ世話無い。へムズだ。言い安くなったろ?」
「そうかい。俺はエリフォート」
「ふふ、ははは。偽名すら使わないと来たか、随分胆力があるな坊主」
「どういたしまして。それじゃ話し合いといこう。まぁあんたらにとっても悪い話じゃないさ」
「どうだかな」
倉庫の箱に腰掛けて、座るように促す。すっかりエリクのペースだ。渋々2人は床に座った。
「映画だと?」
「そうさ、映画だ。知ってるか?」
「最近、そんな話を聞いた覚えがある。何でも動く絵だって話だったな」
「その通り、で俺達はそれを作ってる側って訳だ」
「話が見えないな、それと俺達と何の関係がある」
「役者をやらないか?」
「はあ?」
ヘムイーズ改めへムズさんの反応はまさに青天の霹靂といった感じだ。
「あんたにその才能があると思うんだよな」
「何の冗談だ。俺は詐欺師だぞ?犯罪に手を染めてるんだ。それを役者?巫山戯てるのか?」
「巫山戯てる訳じゃないさ、あんたは人になりきる技術を磨いてきた、そうだよな?」
「……それが役に立つと?」
「そうさ、スクリーンに映ったあんたの素性なんて客にはどうでもいい、ただただ、その演技が重要なんだ。人を騙すその演技が」
「あにき、やりましょうよ。おら知ってますよ、火の悪魔なんだって最近人気のあの道化師。あにきもああなれるんですよ。人気者になるチャンスですよ!」
「お前は黙ってろバム」
厳しい口調で釘を刺すへムズさん。
「それは金が出るのか?」
「まぁ、大金とはいかないが出すよ。こう見えても結構儲かってるんでね」
「俺の素性を知ってる奴が文句を言ってきたらどうする?」
「そん時はそん時だ。でも俺は言ってこないと思うね」
「何故だ?」
「自慢できるからさ、俺はあいつに昔騙されたことがあるんだ!てね」
へムズさんは腕を組んで考え込む。悩んでいる。もしかしたら断られるかも。するとエリクが指を1つ立てた。
「もう1つ、あんたにメリットがある話をしようか」
「なんだ?」
「この映画は必ずヒットする。それも、今まで見たことが無いような大ヒットだ。舞台役者も目じゃない。あんたの名前は国中に知れ渡るだろう。もしかしたら国外にも広がるかもしれない。シマトラのおっさんの人気も目じゃない。そして人々は口々にこう言う。映画会初の大スター、へムズの誕生だと」
へムズさんは黙ったままだ、これでも駄目かと諦めかけたその時、彼が口を開いた。
「それは、遠い国にも届くだろうか」
「遠い国?」
「俺には国を出たっきり会ってない母親がいる。こんな暮らしをしてるのを知られたくなくて、一度も帰って無いが……そんな故郷の母ちゃんにも、届くだろうか」
その言葉にエリクは真剣な表情で頷いた。
「必ず届く。だけどそれにはあんたが必要だ。あんたの演技が鍵を握ってる。だから今日俺達はここに来た」
「……分かった。やるよ」
「やったぁ!あにきが人気者になるんだ!」
首肯したへムズさんにバムが抱きつく。へムズさんは頭を殴って引き離していたが、満更でも無さそうだ。
「よし、じゃあ決まりだ。これで主役が決まった」
「は?主役?俺がか?」
「あれ?言って無かったけか。そう、あんたが主役だ。よろしくなへムズのおっさん」
「マジかよ……」
こうして、僕らの新しい映画の主人公役が決まった。




