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第二話 始まりの虹

 ◇カーフ


 虹色に見えた光。それは七つの石が一斉に光り輝いていたことによるものだった。

 とりあえず、俺は魔術師判定がくだったようだ。属性適正は?これから分かるのだろうか。


「すみません。これってどういう判定になるんですか?」


 そう聞いてみるが、神官は黙りこくっている。


 そこで友人が口を開いた。

「全部光ってるぞ・・・?」

「全部光ってるってことは、全属性使えるってことかな?」


 神官

「・・・水晶から手を離しなさい

 おそらく何かの間違いだ。一旦点検するから少し待っていなさい」


 少し待機し、検査が再開される。

 念のため友人から検査が始められた。

 ・・・無反応だ。


 次に神官が水晶に手を置く。

 すると、一つの石が赤く光り出した。


 変わって俺が水晶に手を置く。

 ぱあぁぁあ〜っと全部の石が光る、光は交差し、再び虹色に光り輝く。

 神官は目を白黒させている。


「よかったですね。壊れてないみたいですよ」

「そういう問題じゃないんだ・・・」

「何が問題なのですか?」


 その後、神官は俺に魔術師について、簡単に説明してくれた。

 ・魔術師自体は千人に一人であること。

 ・魔術師の多くは一属性のみ使用可能。

 ・中でも火属性と治癒属性がほとんどとのこと。


 神官

「残りの『水』『氷』『雷』『土』『風』は特に希少だ。それと二属性の魔術を扱える者もな。生涯そういった術者を見る事なく、死ぬ人間がほとんどだ。私だって見たことがないそれ程に希少な存在なのだ」


 神官は一呼吸置き、続けて説明する。


「君はその全ての適正を生得している。前代未聞だ・・・過去に存在しなかった訳ではないが・・・いや、しかし・・・」


 友人は無邪気に喜んでいる。


「すげえじゃん!よくわかんないけど、とにかくめちゃめちゃ強いってことじゃん。カーフ一人で魔術師七人分ってことじゃん!」


「七人分というのは少し違うかな」


 神官はそう言い、友人と俺は首をかしげる。


「とにかく君、親御さんは今どこにいる?」


「母がいます。まだ家にいると思いますが」


「わかった。ちょっとそこに掛けて待っていなさい」


 神官は俺を近くの椅子に座るように促した。

 他の者には家に帰るよう指示し、村長と他の神官を連れて外に出て行ってしまった。


 ◇レフキ


「ドントンドン!」

「はあーい!」


 玄関の戸を開くと、神殿からの使いだという者が血相を変えて立っていた。


「カーフ君が!はあ、はあ」

「え、カーフがどうしたんですか?」


「はあ、はあ。とにかく・・・!はあ、はあ。神殿へ・・・!」


 カーフに何かあったのか?事故?

 私は一目散に神殿に向かって走り出した─


 ──神殿


「何かあったんですか!」


 私は神殿の扉を勢いよく開け、転がり込むように中に入った。

 カーフは!?

 周囲を見渡す。神官と思われる者達、村長がいる・・・


「あ、母さん」


 カーフは椅子に掛けた状態から顔だけ振り向いて答えた。

 すぐに息子の前まで駆けていき、頭から足の先まで確認する。

 五体満足。特に異常はなさそうだ。

 息子の無事を確認し安堵する。気が抜けて、へなへなと地面に座り込んだ。


「あれ、息子に何かあったのでは?」


「ええ、少し異常ななことが・・・」


 神官がそう答える。

 彼は首都から派遣されている人物で、ここの神官の長をしている。


「異常って?どのような?」


 神官はここまでの経緯を説明してくれた。

 全ての魔石が発光した・・・?


 ◇カーフ


 神官は母に一連の出来事を説明した。

 その語り口調から、何か異常なことであるようだ。

 全属性の魔術を使えるのだと分かったのだから、もう少し喜ぶところではないか。

 母ですら、一瞬動揺の表情を見せた気がした。

 それを見て、今朝の母との会話を思い出した。

 たしか、夢で出てくる人物の名を聞いた時・・・

「キトウ」の名を聞いた時だ。


 神官は母も椅子に座るようにと促した。

 母が俺の隣に座る。

 机を挟んで母の正面に神官が座った。


「お母様は魔術師ですか?」

「いいえ、使えません」

「では、お父様は?」

「・・・使えました」

「お父様は今どちらに?」

「十五年程前に亡くなりました・・:・」

「なるほど、それは失礼しました」

「いえ・・・」

「ちなみにお父様の魔術適正は何でしたか?」

「・・・適正については分かりません。魔術師だとは聞いていたのですが、実際に魔術を使うところは見たことがなかったので・・・」

「なるほど、他に魔術に関して変わったところは?」

「えーと・・・魔力量は普通の人よりあったかと思います」

「あれ・・・魔術を使ったところは、見たことがないんですよね?」

「あ、えーと、はい」

「では、なぜ魔力量が多いとわかるんですか?」

「あの・・・本人から聞いただけで・・・本当のところはよく分かりません」


 母は歯切れの悪い回答を続ける。

 父の話になると、いつもこうだ。

 いつも狼狽した表情で話を遮ったり、ごまかしたりするのだ。

 今朝の会話にしてもそうだ。俺も慣れてしまったので、追求して聞くことはない。

 母にだって聞かれたくない話はあるのだろう。さすがにこれ以上は可哀想だ。


 俺が助け船を出そうと口を開こうとしたが、その前に村長が間に入ってくれた。


「彼女とて、思い出したくもない過去の一つや二つ、あるじゃろう。それを無理に思い出させて、いったい何になる。ましてや、おぬしは神殿に仕える身じゃ。人の心の傷を、わざわざこじ開けるような真似をして良いはずがなかろう」


 村長の声は落ち着き払っていたが、それでも威圧感がある。なんというか重みのある言葉だ。

 案の定、神官は黙ってしまった。


「大変失礼しました」

 沈黙の後、神官は謝罪した。


「いえ、いいんです。私の方こそ大したお答えをできず申し訳ございません」


 その後、俺は実際に魔術を使ってみる事となった。

 現状、魔石が反応しただけで、実際に魔術を発動できるかは分からない。


 神官指導の元、七属性それぞれの初級魔術を試す事となった。


 何やら神官と母は不安げな表情をしている。村長は暖かい目で見守ってくれているようだ。


 俺はと言うとめちゃくちゃワクワクしていた。

 初めての魔術。それも全属性だなんて。

 なんか特別感がすごい。なんというか、これが全能感というやつであろう。


 昨日まで他の村人となんら変わらず生活していた。

 生まれた瞬間は横一列でスタートしたにも関わらず、なんの苦労もすることなくトップに躍り出た。


 ───


 まずはポピュラーな火属性魔術から行う。

 使用する魔術は初級魔術『火種(イグナイト)』だ。


 魔術発動のイメージとしては、

 呪文名を唱えて、それを契機に体内の魔力を術式の型に形成してやる。

 術式が完成したら、それに魔力を流し込んで魔術発動。といった流れだ。

 (呪文詠唱→術式構築→魔力注入→魔術発動)

 とりあえず、神官の教え通りにイメージした体内に力を込める。

 すると腹から腕を経由し、指先に暖かいものが流れる感覚があった。

 すると、指先が赤く、朧げに赤い光がぽうっと灯る。しばらくするとバチバチと小さな火花が起こり

 次の瞬間には人差し指の先に小さな炎が灯った。

 思ったより、あっけなく成功した。


 続いて、こちらもポピュラーな魔術と言われる治癒魔術だ。

 その名も初級魔術『鎮痛(ペインリリーフ)』

 腰痛持ちの老人に試す。


 老人の腰に手を当て、呪文を詠唱する。

 先ほどと違い、すぐに成功。という事にはならなかった。

 ただ、しばらくすると手のひらが微かに緑とも青とも言える色に発光する。藍色といったところか。

 すると老人はすっと立ち上がり、痛みが消えたとのこと。検査官が言うには、慢性的な腰痛はすぐ痛みが戻るらしい。(それからというもの、魔術をかけてほしいと家に押しかけてくるようになった。いつか金取ろう)

 すぐに発動できなかったのは、火魔術とは少し魔力を流す感覚が違った気がする。

 言語化するのは難しい感覚。「火を灯す」と「痛みを抑える」で感覚の違いがあった。

 発動する魔術を具体的にイメージすることで感覚を掴むしかないのだろう。


 その後、一通り各属性の初級魔術を試してみたが、最初は少し苦労するものの、具体的に発動状況をイメージし、魔力を流せば発動の予兆が起こり、そこから微調整することで発動を成功させた。


 魔力コントロールが慣れないせいか、弱すぎたり強すぎたりする。


 中でも最後に試した風魔術『微風(ブリーズ)』は盛大にコントロールを誤った。

 同様の手順で魔力を流し、緑色に弱く発光する。その後、空気が歪む感覚があった。魔術の予兆を感じる。

 そこから微調整を・・・


 火や水などの目に見える魔術はコントロールが比較的簡単だ。しかし風は見えない。

 ということで盛大にコントロールを誤ってしまった。


 突風が起こる。

 検査官の頭に載っていたモノが吹き飛ぶ─

 ビターンッとガラス張りの壁にワカメのようなモノが張り付いた。

 

 彼の頭は魔石のように光輝いた。


 彼の心に『鎮痛(ペインリーフ)』


 ──結果的に全属性魔術の発動に成功した。


 神官はカツラを深く被り直し、顎に手を当て何やら思索に耽っている。

 (何考えてんだろ?カツラ飛ばした事、気にしてなきゃいいけど・・・)


 そんな事より、全属性魔術の発動に一応成功はした。

 このまま中級、上級と習得すれば世界最強の魔術師・・・いや人類史上最強の人間だって夢じゃないのではないか。

 そんな調子の良いことを思えたのも束の間。

 視界がぼやけてきた。

 俺は身体に強い疲労感を感じていた。

 足がフラフラする。

 キーンッと耳鳴りがする。

 (あれ、もしかして魔力切れ?なんか・・・早くない?)


「バタンッ!」

 俺はそのまま気を失った。


 魔術は俺の思っていたほど、万能な術では無さそうだ─


 魔術の試し打ちの手応えとしては、


 火:A 普通にできる

 治癒:B 発動までに少し時間がかかる

 水:C できたけど水は手からこぼれ落ちた(飛ばしたりはできない)

 氷:C できたが冷やす事をイメージしたのに、少し凍ってしまった。コントロールがやや難しめ。

 土:S 簡単(自由自在)

 風:Dできたけど調整不可(突風が吹いた)

 雷:D できたけど制御不可(止まらない)

 ※S~D判定

 こんな感じであった。


 ─神官


 カツン、カツン─

 私は神殿の地下に一人降っていく。

 神殿地下、資料室─

 書庫から埃被った古い文献を手に取る。

 その文献には歴代の魔術師に関する記録が記されている。


 今日は魔術適正検査を行ったが、私がこれまでに経験したことのない事象が発生した。

 全属性魔術師の発見。

 私は驚愕した。

 本来であれば、世界一の魔術師となり得る人材の発掘に歓喜するものであろうが・・・

 だが、私の記憶が正しければ・・・


 ペラペラとページをめくっていく。

 目当てのページにたどり着いた。百年程前の記録。

「やはりか・・・」


 『魔王キトー』

 かつて、魔王と呼ばれた男。現在では魔神として魔族から信仰される男。

 彼もまた、全属性魔術師であった─


 私は一連の出来事を報告書としてまとめた。

 『魔王キトー以来となる全属性魔術師が発見された。速やかに調査されたし』

 伝令係にそれを手渡し、秘密裏に王都デンドリアに早馬を向かわせる。

 とても私一人で対処できる案件ではない...


 少年に飛ばされたヅラを私は深く被り直した。


 ◇レフキ


 その夜。

 私は息子の寝顔をじっと見ていた。


 息子は魔力を使いきり、そのまま気を失ってしまった。

 村人達に手伝ってもらい、家まで担いで運びこんだ。

 今もまだ眠っている。村の医者が言うには明日の朝にはいつも通り目を覚ますだろうとのことだ。

 私は息子の寝顔を見て、好きだった頃の夫を思い出していた。


───


 伝令役は王都に向け、早馬を走らせていた。

 新たな魔王となり得る少年に関する報告書を持って。


 


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