第二・五話 親友
──魔術適正試験から数日後。
七属性の話は村中に広まっていた。
カーフが村を出歩くと村人が集まり、魔術を見せて欲しいとせびられてしまう。
今日は友達と村の端にある出店の方に向かっていた。
村外で掘り出し物を仕入れては、定期的に村の端で出店しているのだ。
今日はその出店が開かれる日であった。
隣を歩く少年は『マブロス』という名だ。
同い年の親友とも言える男友達だ。
身体付きは周りの大人と比較しても遜色ないどころか、軽く凌駕する体つきをしている。
昔からガキ大将的な立位置の少年である。
小さい頃、よく喧嘩しては、負かされたものだ。
その後、彼は村内の剣道場に通うようになり、剣士たる者の心得を学んだせいか、
そういった粗暴な面も今では見る影もない。
道中には案の定、子供達に囲まれ、魔術を見せてくれとせびられてしまった。
披露する魔術は火魔術『火種』
こう言う時は決まって火の魔術を選択する。
他の雷とか風だと、制御を間違える可能性があり、
最も安全で魔術っぽいのがコレだからである。
子供達からは歓声が上がり、「どうやってやるのか」、「どうしたら魔術が発現するようになるのか」等の質問を受ける。
子供達相手なので、いい事を言おうとする俺。
親の言う事をよく聞いて、いい子にしていれば発現するのだと。偉そうに説明する。
・・・マブロスは冷ややかな目で見ている。
彼は昔からあまり感情を顔に出す人間ではなく、無表情であることが多く、何を考えているのかわからない時がある。目はキリッと切れ長な目をしており、初見であれば少し怖い印象を持つだろう。しかし、その内面は優しくて、暖かいやつだと皆んな知っている。
近所の兄ちゃん達に絡まれていたところを何度か助けてもらったこともある。(その青年達は今だに彼の顔をみると、青い顔をして静かに逃げていく)川で溺れていた子供を救ったこともあったし、森で迷子になった子供を助けるために夜の森に入っていき、見事救い出してきたこともあった。
無愛想に見えて実は友達思いであり、子供の面倒見も良い頼れる人間なのだ。
そんな彼を俺は一番に信頼している。俺も彼からそう思われる人間になりたいと思う今日この頃だ。
そんな彼から現在冷ややかな目が、顔半分に注がれている。
「な、なにか・・・?」
「いや、なんでもない」
ちょっと調子に乗りすぎてしまったようだ。
俺たちは子供達から解放され、再び目的地に向けて歩き出した。
「なあ、コイツ調子乗ってるな。と思ったら止めてくれよ」
「どうやって?」
「んー、例えば・・・ビンタとか?」
彼はその大きい手のひらをこちらに向けて、おもいっきり振りかぶるそぶりを見せた。
「まてまてまて!例えばの話だろ!お前のビンタなんて食らったら今日一日もう動けねえよ!」
「じゃあ、言うな」
ボケなのか、本気なのか・・・
本当にコイツは、何考えてんのかよくわからん。
そうこうしている内に村の端にたどり着いた。
だがいつもこの時間には来るはずの行商人がまだ来ていなかった。
どうしたんだろう?あたりをキョロキョロ見渡す。
「あそこだ」
マブロスが村の外を指差す。
行商人が何やらガラの悪そうな大人三人に囲まれていた。
その手には短剣が握られている。
俺たちは顔を合わせ、マブロスが頷く。
相手に見つからないように、こっそり近づいていく。
草の陰から様子を見る。
「てめえ、誰の許可とってあそこで店開いてんだよ!」
「だ、だれって一応村長さんには許可を・・・」
「村長が良いっていったらそれでいいのかよ!」
「いいか?あそこは元々、俺たちが確保していた場所だ」
「そうだ、店開きたいなら俺たちに筋を通してから店を開くこったな」
「す、筋とは?」
「ああ?金に決まってんだろ!そんな事も知らずに商売なんてやってんのかよ」
「おら、財布だせや」
マブロスは立ち上がり、
「俺、助けて来る」
と言って行こうとする。
「ま、待て待て。お前武器持った大人三人相手に子供だけで勝てると思ってんのか」
「思ってはいない。俺が相手を引きつけてる内にお前が行商人を連れて逃げてくれればいい」
「じゃあお前はどうなるんだよ」
「まあ、なんとかなる」
そう言って、本当に行こうとするので、慌てて止める。
「待てって」
「じゃあどうするんだ。他に良い方法でもあるのか」
マブロスは鋭い視線を俺に向ける。
俺は周囲を見渡す。そうすると何か落ち着くというか、良い考えが浮かぶ気がした。
「ある・・・良い方法」
「え?」
マブロスはその鋭い目を丸くして、俺を見つめた。
◇行商人
私は現在、絶賛大ピンチである。
いつものようにアニソ村を訪れ、出店を開こうと村の近くまで来ていた。
近くまで来たところで、訳のわからないイチャモンをつけられ、カツアゲを受けている最中であった。
彼らの手には短剣が握られているため、強くは出れない。
「だから、お金は仕入れのために使ってしまって・・・今日の宿に泊まる分ぐらいしか手持ちがありません」
「じゃあそれを差し出せばいいじゃねえか。それと、その仕入れ品とやらも俺たちに渡せば、場所代ぐらいにはなんじゃねえか?」
「ぎゃははは!」
もう払うもんだけ払って退散するか。そう思い始めた時、彼らの背後にある荷車から煙が上がり出した。
彼らの背後には小川があり、細い橋の先に彼らの荷車が停めてあったのだ。
「ん?なんだか焦げくせえな。ゲ!俺たちの荷車が燃えてやがる!」
「おい、消してこい!」
二人が荷車の方に急いで向かい、一人が私の元に残った形となった。
一人分の幅の細い橋を先頭の盗賊が渡りきった。
その瞬間、土が盛り上がり、先頭の盗賊に絡みついた。その男は身動きがとれなくなり、後続の盗賊が橋の途中で立ち往生した。後続の盗賊は小川に足を浸け、荷車に向かおうとした。その瞬間に小川は部分的に凍り、後続の盗賊も動けなくなった。
その様子を私は呆然と見ていた。すると、私のすぐ近くを素早く駆け抜ける気配があった。
なんと一人の少年がすごい速さで短剣を持った目の前の悪党に後ろから飛び蹴りをかました。
「ぐわ!」
と悲痛をあげて、悪党は前のめりで倒れこむ。その少年はすばやく落とした短剣を拾い、遠くに投げ捨てた。
その少年は鍛え上げられた筋肉が服の上からでもわかる程の大きな身体を成していた。
さらには、私の傍を駆け抜けた時のスピードと、飛び蹴りをした時跳躍力は生まれ持った天性のバネを窺わせる。
とんでもない身体能力だ。
驚いて見ていると、また別の少年が私の荷車を引っ張っていこうとしていた。
こちらの少年は、整った顔立ちをしている。先ほどの筋肉の少年とは違い痩せ型の体型をしている。
身体もそれほど大きくない。
「おじさん早く!」と痩せ型の少年が私を呼んだ。
彼らは私を助けるために、村の方に走って逃げようとしているのだ。
そのタイミングで先に荷車に向かった盗賊二人は罠から抜け出し、こちらをちらっと見たが、
荷車の方が大変な状況となっていたため、そのまま自分たちの荷車の消火活動に取り掛かり始めた。
だが、後ろから飛び膝蹴りをかまされた方の悪党が起き上がり、こちらを睨みつけた。まずい・・・
「てめえら、ただじゃおかねえ」
「くそっ」
痩せ型の少年は舌打ちした。作戦失敗か?
しかし少年は、私の荷車から木剣を拾い出し、もう一人の少年に投げ渡した。
なぜそこに木剣があることを?不思議に思って見ていると、痩せ型の少年が叫んだ。
「頼む!」
「まかせろ」
筋肉の少年は剣を構え、盗賊の親玉と相対する。
相手は素手とは言え、子供がかなう相手じゃない。
痩せ型の少年に、我々も加勢しようと提案するも、
「いえ、邪魔なだけです」
と言われてしまう。
「おらああ」
盗賊が筋肉の少年に向かっていく・・・
が、盗賊の足が一瞬滑ったように見えた。──隙ができた。
その隙を見逃さず、少年の木剣が盗賊の脳天に振り下ろされた。
盗賊は後方に、仰向けのまま、大の字で倒れた。
私は少年達に連れられ村の方に逃げ入ることができた。
──
筋肉の少年はマブロスという名で、痩せ型の少年はカーフという名であるらしい。
よく私の店にも足を運んでくれていたのだとか。
覚えていなかったため、私は申し訳なく思った。
カーフ少年は私の様子を察したようで、買った事は一度もないので覚えていないのは当然です。と言ってくれた。
彼は木剣の場所を知っていた。普段から周囲をよく観察しているのだろう。
聞けば最終手段ではあるが、木剣で一対一で戦うことは想定していたとのことで、
筋肉の少年も承知の上での救出劇であったようだ。
カーフ少年は全属性の魔術を扱うと言う。
あの時に起きた不思議な出来事は彼の魔術によるものだったのだ。
最後も足元がぬかるんで相手に隙ができたような気がする。あれもこの少年によるものなのだろうか。
私は彼らにお礼の品を渡すことにした。渡したのは魔石を削って作ったペンダントだ。
ある村ではお守りとして使用されているものだ。
年頃の彼らはお揃いのペンダントに少し気恥ずかしさを感じたのか、やや気まずそうだ。
それでも、私は彼らに同じものを渡したかった。これからも二人仲良く健やかに生きて欲しいと思ったからだ。
少し時間も遅くなってしまったので、そこで彼らは家に帰し、解散することとなった。
痩せ型の少年、筋肉の少年。将来が楽しみだ。大きくなった姿をまた見てみたいものだ─
───
◇カーフ
俺たちは人助けを終え、帰路についた。
四年に一度の周期で訪れる、赤い月が綺麗に夜道を照らす中、
親友とお揃いのペンダントをつけ、並んで歩く。
恥ずかしい気持ち半分、嬉しい気持ち半分。
となりを歩く無表情の親友はどのような気持ちでいるのだろう。
ちらっと隣を見ると、いつも通りの仏頂面だ。
本当に何を考えているのやら。
「最後、魔術使っただろ?」
唐突に詰問された。
「まあ、使ったよ。土魔術。足元を滑らせた程度だよ」
「そんなの無くても、俺勝ってたから」
「はいはい。余計なお世話だったな」
彼は愛想なく前を向いた。
その首には、俺とお揃いのペンダントを嫌がるでもなく掛けている。
それは、赤い月に照らされ綺麗に輝いていた。
──
帰宅後、俺は帰宅が遅かった事について、こっぴどく怒られた。
子供達に親の言う事を聞いていい子にしていれば良いと、かっこつけて言っていた頃が懐かしい。
次の日からは罰として、家事の全てを手伝うこととなり、しばらく家から出られなかった。
第二・五話 おしまい




