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災厄の王=プルート

 

 購買から部室に戻ったミレディアは、調べ物をしているグリモワ先輩に先ほどの出来事を話した。

 正直、あの腹黒ことラクシアの動機が全然読めない。


「それって、全部本音ってことはない?」


 先輩が言うならそれなりに根拠はあるのだろう。


「僕が出した君の本はセンセーショナルに書いたとはいえ事実ベースだったから、君に罪悪感を持ってもおかしくはない。周りで異常な行動をとっている相手を止められないっていうのも謝罪すべきだとは思うけど」


 納得したくないなという顔をしていれば、「納得しろとは言ってないよ」と返された。


「君は彼に陥れられた。恨むのも偏見が混ざるのは仕方がないし、そうあってしかるべきだ」


 何だかんだ、先輩はミレディアに甘い。感情なんて判断を見誤るだけ、切り捨てて考えた方が望ましい。穿った考えを持っていたのかもしれない、反省しよう。


 それはそれとして、前世であの腹黒のラクシアや陰険眼鏡に馬鹿王子がしたことを内心で許す気はない。前世の行いなんて誰にも裁く権利がないのだから、謝罪なんてされたくもない。



「それで、今の地図はともかく古い地図は全然でした」

「大きい図書館の蔵書は調べてたんだけど、古い地図になっていくにつれて推定しかない。

 学説も幾つかあって、地図の配置が全部で微妙にズレてる」

「学園の歴史も設立が300年ちょっと前から、歴史ある学校と謳ってますが短いですよね」


 ミレディアは図書館で借りてきた地図をそのまま黒板に書き写す。そして、チョークを持った手が止まった。


「先輩、昔の地図って覚えてます?」

「分かってる、書くから修正点あったら言って」


 ミレディアの隣に先輩が前世の地図を書いていく。隣国を含んだ世界の地図は大まかにしか書けていないが、自国は流石に分かる。


「そこもうちょっと尖ってました」


 隣で修正を入れながら、ミレディアは今の地図の『マリアル学園』の位置を書き込む。そして、グリモワ先輩は昔の地図に『マリアル・アカデミア』の位置を書き込んだ。


「海の配置、大陸の山脈を見て」

「学園の場所が同じとした場合」

「「大陸移動説!! 大陸自体が移動した!?」」


 二人の声が重なる、鳥肌が立つ。慌てて両方の地図を精査する。


「やっぱり、これって説として確定してました!?」

「全然確定してない、大陸移動説自体は有名だけど、どう移動したかは幾つかの仮説が立ってるだけ」


 つい興奮して浮足立つ。


「これって世紀の大発見かもしれません」

「でも、昔の地図を詳細に覚えているのが僕たちだけの時点で、実証できないかも」

「そこはこじつけていきましょう。結果を分かった上なら、逆算で証拠はいくらだって見つけられますからね。そして、これを歴史研究会の功績にして部費を沢山もらいましょう!」

「じゃあ、学園祭での発表に向けて固めるか……『災厄の王』については全然話進んでないけど」


 グリモワ先輩の言葉についミレディアは肩を落とした。正直、そんな話をしているより、大陸が移動した証拠を探して固める方が絶対に楽しい。


「だって、こっちはほぼ頭打ちじゃないですか。新しく定義するなら……先輩って前世の私が死んだ時の『災厄の王』の発言って覚えてますか?」

「アレに人格があるって話? 発言自体には人間由来の思考回路が混ざってそうだったけど」


 前世のミレディアが死ぬ直前、『災厄の王』は人間のように喋っていた。そもそも、世界から見捨てられたから世界を滅ぼすべきだと言っていたが、そういうのはとても人間臭い発言だ。


「私が見た夢だってそうですよ。アレ由来だとすると、自分が酷い扱いを受けた、だから全てを憎んだっていう単純な思考なので」

「ある種の復讐心の塊ってこと? 人間由来なら、名付けた方が望ましいか」

「名付けることで形を取らせるということですか? 

 魔法としては意味があった行為だから、魔法全盛期に現れた『災厄の王』には効果があってもいいか」


 魔法道具に一つ一つ名前があるのは、名付けることで効果を確定させるためだ。昔は魔法にも名前があり、名付けるというのは形を定めるという意味でもある。


 『災厄の王』なんて呼ばれていたのは、下手に名付けることで災いが増すことを恐れたのだろうか。ただ、人には必ず名前があるし、名前を呼ぶことで存在が確定する。


「そう、弱まりそうな名前にしとく?」

「あまりにもかけ離れているとソレと認識できないじゃないですか。『災厄の王』として相応しいけれど弱そうみたいな」


 残念ながら二人とも名付けのセンスはない。災厄だからサイヤーとか、エンドとか色々と話した上で、やっと出たのは普通の名前だった。


「『災厄の王』の名前として『プルート』を使う、これでいいですね」

「サイヤーよりはマシでしょ。『プルート』、良いと思う」


 プルートは確か一度目の人生では冥王星の名前として使われていたと思う。冥王星は元々惑星として親しまれていたが、結果的に準惑星となり、惑星の枠からは外されてしまった。

 学校で教えられる惑星の中から外れされたというのは、他者から忘れられるという点で『災厄の王』に近いものがあるかもしれない。


「じゃあ、『災厄の王』ではなく、今日から『プルート』と呼ぶことにしましょう」

 言葉にした途端にドクンと心臓が脈打った。ついミレディアは自分の胸を見る。


「……どうかした?」

 訝し気な先輩の視線は、幾ばくかの緊張を孕んでいた。


「いえ、意外と効果があるかもしれませんね」

 今のミレディアは『災厄の王』と一体化している可能性がある。だから、名付けることで分離を促す。アプローチとしては間違ってない。


「今度は『プルート』に乗っ取られる気もしませんし、時間はあります。気長に行きましょう」

「異変があったらすぐに言って、分かった?」

「はーい!」


 ミレディアは元気に返事をしながらも、黒板に書き加える。災厄の王=プルート、と。

 そして、買ったサンドイッチをいそいそと先輩の口へ押し込みに行った。



 先輩の体重が一番早く解決できそうな問題なので、優先順位は明白であった。


災厄の王はプルートとこれから呼ばれます。

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