シエロ・プラティナの罪 ⑫
『マリアル・アカデミア』の女子寮は当然、女性以外は立ち入り禁止だ。けれど、今のシエロにそんなことは関係なかった。部屋の場所は聞いたことがある、途中で邪魔をする人たちは振り払って必死にミレディアの部屋を探して。見つけたその部屋に飛び込んだ。
「机の2番目の引き出し!」
机を空けてもそれらしきものは見つからない。だから、シエロが力づくで机を壊すと、一枚の板が剥がれて隠されていた空間が露わになった。
その中にはとても分厚い封筒が二通、そして薄い封筒が一通あった。どれもスーパーノヴァ家の印章で封緘されている。開けられた形跡はない。分厚い封筒の裏には宛名が書かれている。
一通は『ミレディアの父親』の名前が、一通には『グリモワ・メルクリーオ』の名前が。
そして薄い最後の一通には『シエロ・プラティナ』の名前が書かれていた。
ミレディアは手紙を届けろと言った。だから、シエロは手紙を届けるために再び走り出した。
グリモワ先輩はすぐに見つかって、ミレディアの頼みで手紙を届けに来たというと驚いて受け取っていた。そして、どこかへと歩き去った。
それから、シエロはミレディアの生家へと急いだ。当然、スーペルノヴァ家はシエロを門前払いした。それでも、ミレディアの頼みだと頭を下げて地面につけた。
そして、屋敷の中に入れられたシエロは入って早々にミレディアの父に殴られた。
「どの面下げてこの屋敷に足を踏み入れた!?」
「あなた!! やめて、ミリアはこんなこと望んでません!」
続けてシエロを殴ろうとするミレディアの父を、ミレディアの母が必死に止めている。シエロは何度でも殴ってほしかった、償いたかった。けれど、それは出来ない。ミレディアはもういない。
「これを、ミレディア……さまから。届けるようにと頼まれていました」
シエロが差し出した手紙を、ミレディアの父が奪い取るように受け取る。
「ミリアは! お前のことを信頼していたんだ! それなのに、お前は、お前は!
あの馬鹿王子たちと一緒になってあの子を、あんなに優しいあの子を追いつめて!」
「だからやめてって! 婚約の破棄だって、ミリアは仕方ないって許していたでしょう。
手紙を届けてくれたことは感謝します、けれど。
シエロ・プラティナ、さっさと出ていきなさい! そして、二度とスーパーノヴァ家の領地に足を踏み入れないで!」
ミレディアの母の言葉に背を押されるようにして、シエロは走り出す。
そして、気づけば『マリアル・アカデミア』に戻っていた。
ふらふらと歩いた足は、自然とよくミレディアとお茶をしていた庭園に向かっていた。辿り着いた場所にはあの頃のような色がない。ミレディアはよくシエロに向かって笑って、苦笑して、お茶を噴き出して。色んな顔を見せてくれたのは、シエロを信頼してくれていたからだったのに。
いつもミレディアが座っていた椅子に同じように座っても、そこに彼女の温度はない。シエロの頭を撫でた手の温度は、シエロ自身が手放した。それどころか、自分が彼女を殺したようなものだった。
「ミリア」
もう呼ぶなと言われた名前を呼んでも、彼女が咎める声は聞こえない。シエロは懐から彼女が自分へ宛てた手紙を取り出すと、丁寧に封を開けた。
『シエロへ
まずは頼みを聞いてくれて、覚えていてくれてありがとうございます。
もう他の手紙は届けてくれましたか? もし、まだ届けていないようでしたら、配達を先にお願いします。終わってから続きを読んでください。
そして、もう届け終わっているなら、届けてくれてありがとうございます。
大事なことを沢山書いたので、とても感謝しています。お礼に何か渡した方がいいかとも思いましたが、いいものを思いつきませんでした。ごめんなさい。
そして、今の私にはシエロへ届けるべき言葉も分かりません。だから、多分死んでいるだろう私の死に方を反面教師にするといいかと。
私は好きに生きてきましたが、上手くいけば最後は一番選びたくないことを渋々と選んでいるでしょう。けれどまあ、上手くいったらそれはそれでよかったと満足していると思います。
シエロ、貴方も好きに生きてください。私は今まで貴方に誇りを持てとか、弱者を守れだとか、そういう理想論ばかり伝えてきましたが。本当は他人に迷惑をかけなければ好きに生きていいんですよ。
この先の貴方に思いつく限りの幸せがあらんことを!
追伸.今の生意気な貴方とは違って、すごく可愛かった頃の貴方の絵を贈ります』
封筒の中には一枚の小さな絵が入っていた。いつかの幼い日に、ミレディアの屋敷にやってきていた絵師が描いていた一枚には、婚約してすぐの頃のシエロとミレディアが庭で花を摘む姿が描かれていた。
絵の中のミレディアは微笑みながら花冠を作っている、その後でシエロの頭に出来上がった花冠を載せるのだ。よく似合っていますよ、シエロ。そう言って笑った彼女の姿をはっきりと思い出す。
「うわぁ゛あ゛あ゛!!」
けれど!! シエロはそれを殺した、自分で奪い去った! ミレディアが大切にしていたもの全部を踏みにじった! シエロは間違えた、徹底的に間違えて、もう取返しなんてつかない。
視界が滲む、涙で歪んだ視界では前を歩くのも難しい。けれど、シエロが取り出すのはポケットに入れていた刃が大きいナイフだったから、視界が滲んでいても問題がなかった。
「君がいないなら、好きなものはないよ。ミリア」
シエロはミレディアと同じ場所にはきっと行けない。けれど、それでも。今度こそ君を守りたい。
守るどころか、シエロはミレディアを追いつめて、殺してしまった。
「次があったら、そしたら。今後こそ君を守らせて」
そうして、シエロはナイフを心臓へと突き立てた。
シエロ・プラティナの人生はこうして幕を閉じた。
—――――――――――――――
そして、前世の記憶を持ったまま生まれ変わったシエロは、前世と同じような家に生まれて、レクスやマイザにラクシアといった前世の記憶を覚えている人たちと出会った。
シエロは二度と会えないはずの人に出逢えた。だから、前世からの誓いを果たす。犯した罪を償うために、約束したことを実行するために。
シエロ・プラティナは今度こそミレディア・スーパーノヴァを守る。
お読みいただきありがとうございました!
シエロ視点の過去編(前世)はこれで終了です。
次話から今世のシエロ編(ミレディア視点)へ戻ります。
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