シエロ・プラティナの罪 ⑩
舞踏会が終わってから、アンジュへの嫌がらせはぴたりと止まった。ただ、それは違う意味での断絶を表わしていた。シエロは、いやラクシアを除いた生徒会の面々は大抵の女生徒に冷たくされるようになった。
礼を尽くされない訳ではないし、用があって話しかければ対応はしてくれる。けれど、それは必要最低限だ。笑みすら浮かべることすらなく、もし笑っていたとしても視線は糾弾するように冷たい。それはアンジュを含めた全員に向けられた。
唯一女生徒たちと関係を維持しているラクシアは、それは仕方ないねと笑っていた。
婚約を破棄したことで、シエロの生家は当然シエロを叱ろうとした。けれど、第二王子であるレクスが認めたと知ると、渋々と婚約の破棄を許した。
公爵令嬢であるミレディア以上の良縁は望めない。父はシエロにそう言った。
アンジュ以上に魅力的な女性などいる訳がない。だから、良縁など言われてもどうでもいいことだった。
季節が理由ではない冷たさに見舞われた校内で過ごした後、冬休みになった。年越しはいつもミレディアに誘われて、彼女の家で過ごしていた。けれど、今年は何もない。そうレクスに話していると、みんなでレクスの家に集まることになった。
アンジュやマイザ、ラクシアといった生徒会の面々で集まり、華やかな装飾を施した場所で楽しく過ごした。
「まさかレクス殿下が誘ってくれるなんて。嬉しいなぁ」
ラクシアは本当に嬉しそうに笑っていた。アンジュが生徒会に入ってから、ラクシアは今まで以上にレクスやマイザと仲良くなった。前まではどこか距離があったから、本当に親しくなれて嬉しいのだろう。
「あっ、ボクはシエロ君とも仲良くできて嬉しいよ」
にこりと笑ったラクシアは本当に愛嬌がある、シエロはラクシアの言葉に自然と頬を緩ませて頷いた。
冬休みが終わり、年が明けてから。アンジュは学園長に呼び出された。『マリアル・アカデミア』の学園長は表に顔を出さないし、顔を見たことがある人もいない。親しい人も呼んでいいと言われたアンジュは、シエロを含めたみんなに声をかけた。
学園長室で、深い紫のローブで顔の大半を覆い隠した老婆は自分を学園長だと名乗り、アンジュへ告げた。
「救世の乙女よ。時が満ちる、災厄の王が再び世界を見舞う。
そなたが絆を結び、力を正しく使えれば、災厄を封じることが出来るだろう」
「それは、どういう意味ですか?」
アンジュが尋ねれば、老婆はもう一度だけ言葉を続けた。
「絆が足りぬ。このままでは災厄を封じることはできず、全ては滅びる。急げ」
そう言い終えると同時に、老婆は煙のようにその場からいなくなった。
「ええっ!? どういうこと!?」
アンジュは大きく驚いて、レクスも一緒になって騒ぐ。マイザは冷静に周囲を見て、眼鏡の弦に触れた。
「魔法道具の一種で姿を消したのでしょう。この学園には古くから伝わる魔法道具がある。
この水晶か、あるいは壁にかかっている鏡か。どれかは分かりませんが」
「……それで、世界が滅びるというのは?」
もしかしたら本当に『災厄の王』が現れるのかもしれない。背筋がゾっとした時に、ラクシアの軽い言葉が部屋に響く。
「あれ、シエロ君は真に受けてるんだ? 『災厄の王』なんて、古臭い言い伝え、嘘に決まってるよ。魔法道具だってそう。
昔は伝承や予言を信じてたみたいだけど、結局そういうのは全部昔のお偉いさんが権力のために利用した仕掛けさ……愚かな民衆を導くためにね」
「そうだな、国を導く王族はそんな嘘に騙されないぞ」
レクスは自信満々に答えて、マイザも合理的ではないですねと頷いた。
「そうだよね、『災厄の王』なんてそんなのいる訳ないよね」
アンジュがホッとして胸を撫でおろす。レクスは直接、マイザは遠回りにそんな彼女を宥めていた。
けれど、結果的に災厄は形を成した。
世界を滅ぼす災厄は、たった一人の少女の覚悟と命を対価に消滅した。




