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シエロ・プラティナの罪 ⑨

 

 舞踏会の夜、シエロはアンジュをエスコートした。レクスから贈られたピンクを基調とした豪奢なドレスをまとったアンジュは、その場に立っているだけで華がある。レクスがドレスを贈ったことにマイザやラクシアは文句を言っていたが、シエロでさえ彼女に似合うものを自分で見繕いたかったと思ってしまう。


 元からシエロにエスコートされる気もなかったのだろう。赤と黒を基調としたドレスを身にまとったミリアは堂々と会場に入ってきた。


 そして、その舞踏会の始まりの挨拶をする時に、レクスが口を開いた。


「ミレディア・スーパーノヴァ、お前はアンジュの虐めを主導したな?」

「えっ、はぁ。お言葉ですが、殿下、虐めというのは具体的にはどういったものを?」


 赤い瞳を瞬かせたミリアは状況を飲み込みかねるように、レクスへ詳細を問いかける。すると、レクスの隣にいたマイザがまとめていた紙を読み上げた。

 私物の汚損や剥奪に、悪意のある醜聞を広めたことなど。具体的に読み上げられたそれに、そうですかとミリアは淡々と返した。


「それで。この誇り高き公爵家の長子である私が、高々平民の彼女を虐めたからといって、何か問題が?」

「ミレディア! お前は権力を笠にきて、何の力を持たないアンジュを虐めた! その罪を自覚してないのか」


「殿下。彼女を守るという名目で、権力を使ってこの学園の淑女に虐めよりも酷いことをなさっているのは殿下の方では? そして、これは楽しい舞踏会を潰してまでやることでしょうか」

 レクスとミリアが話す様に誰も割って入れない。二人だけの話し声が会場に響く。


「お前のそういうところが傲慢なんだ! だから、シエロもお前を見限ったんだ」

 無表情のまま、赤い瞳がゆっくりとシエロへ向けられた。その瞳の奥には暗い輝きが灯っていた。シエロを導いた手も、輝きも、もうそこにはなかった。


「ミリア、俺は……シエロ・プラティナは君との婚約を破棄する」

「この俺、レクス・セグン・アウルムが両者の婚約を破棄することを認めた!」

「……意思は承知しました。これより先、私を決して愛称で呼ばないように。

 スーパーノヴァ家及びその親戚には私から説明しますが、ご自身の親族へはご自身で対処なさってください」


 レクスは真っ直ぐにミレディアを見る、何もやましいことがないように。シエロはその赤い瞳を見続けることが出来なくて、目を逸らした。


 誰かが泣いている声が聞こえる。それは舞踏会に参加している幾人かの女生徒だった。悔しそうに泣いて、どうして、そう涙を流し続けている。


「私はこれよりこの会場から離席します。ですが、今宵は踊り明かすことを許された日。みなさまどうぞ全てを忘れて楽しい一夜をお過ごしください。

 そして、我が家に連なる者たちへ。泣いてる女の子を放っておかないこと」


 それでは失礼します、そう言ってミリアは……ミレディアは一人で背を向けて会場から出る。ミレディアの言葉に反応した何人かの男子は、泣いている女生徒へ駆け寄ってハンカチを差し出した。

 そして、ミレディアの背を悲しそうに見つめて、一瞬だけレクスを睨んだ。けれど、それを悟られないようにすぐに目を伏せた。


 権力を笠にきていたのは誰だったのか。間違えたのは誰だったのか。そんなのは思い返せば、どう考えたって明らかだったのに。

 この時のシエロはただアンジュと踊ることにだけ浮かれていた。アンジュはレクスや他の生徒たちとも順番に踊っていく。


 アンジュは笑っていた、レクスたちは笑っていた。


 だから、彼女たちがミレディアのために流した涙はただの絨毯のシミになった。


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