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第7話:心はからっぽ

アパートのドアを開けると、朝の鋭い光が東向きの窓から部屋の奥深くまで差し込んでいた。

たった一晩、街をさまよい歩いただけなのに、自分の部屋がひどく見知らぬ場所のように感じられた。

きちんと畳まれたブランケット、彼好みの香りがするルームフレグランス、彼がいつ来てもいいようにと揃えておいたペアのマグカップ。部屋の至る所に、彼に支配されていた「都合のいい私」の残骸が散らばっている。

ケイは靴を脱ぎ、部屋の中央に立ち尽くした。

テーブルの上には、昨夜充電器に繋いだまま放置して出かけたスマートフォンが、黒い画面のまま静かに横たわっている。

彼からのメッセージは来ているだろうか。いつもなら、無意識のうちに飛びついて画面を確認していただろう。彼からの理不尽な呼び出しや、短い命令の言葉に、一喜一憂するために。

Since 1994 lookin' for the FACE

Lookin' for the PLACE

Lookin' for the FACES

Lookin' for the PLACES

私が中学生だったあの頃。1994年にも、大人たちはきっとこの街で、鳴らない電話を見つめながら、自分の居場所を探して泣いていたのだろうか。

時代が変わり、連絡手段がどれだけ便利になっても、人と人とのすれ違いや、心に開いた穴の形は、昔から何一つ変わっていないのかもしれない。

Best of my life... Best of my life...

彼の顔色を窺い、彼に捨てられないことだけを「人生の最善」だと思い込もうとしていた狂気の日々。

ケイはゆっくりとテーブルに近づき、スマートフォンを手に取った。画面をタップすると、いくつかのお知らせ通知に混じって、彼からのメッセージが表示されていた。

『昨日はどこ行ってたの。今夜うちに来い』

気遣う素振りすらない、所有物に対する傲慢な命令。

数時間前の私なら、急いで謝罪の言葉を打ち込み、彼の機嫌をとるために必死に言い訳を並べていただろう。

でも、今は違う。

彼が打ち込んだその冷たい文字の羅列を見ても、心が全く波立たない。恐ろしいほどに、何も感じないのだ。

ケイはスマートフォンの電源ボタンを長押しし、画面を完全にブラックアウトさせた。

それだけでは足りず、壁のコンセントから充電器のプラグを引き抜き、さらにはWi-Fiルーターの電源コードまで乱暴に引き抜いた。

電話の線はずして 体は自由を求めてる。

現代において「電話の線」を外すことは、あらゆるネットワークからの完全な孤立を意味する。

誰とも繋がらない。誰の言葉も届かない。

その絶対的な静寂が訪れた瞬間、ケイの体の中を、今まで感じたことのないような奇妙な高揚感が駆け巡った。

見えない首輪が外れたのだ。

彼からの呼び出しに怯える必要も、誰かの機嫌を窺う必要もない。私の時間は、今この瞬間から、完全に私だけのものになった。体中の細胞が、深呼吸をするように喜びの声を上げている。

ケイは洗面所へ向かい、鏡の前に立った。

徹夜明けの肌。昨夜から着の身着の着の服。

それでも、私は世間一般から見れば、都会で働くそこそこの女に見えるはずだ。流行りのメイクを取り入れ、トレンドの服を着て、誰にでも合わせられる愛想笑いを身につけている。

今どきの性格 スタイル。

傷つかないように、誰の記憶にも深く残らないように、表面だけを綺麗にコーティングした「今どき」の私。

でも、その綺麗な包装紙を一枚一枚剥がしていけば、中には何が入っているのだろう。

心はからっぽ。

彼への依存を断ち切った今、私の中には本当に、何一つ残っていなかった。

夢も、目標も、確固たる信念も、何もかもが空っぽだ。

けれど、その空虚さは、決して絶望ではなかった。空っぽであるということは、これから何だって詰め込めるということだ。汚れた家具をすべて捨てた、まっさらな新居のようなもの。

部屋を見渡す。

彼のために買ったマグカップも、彼好みのフレグランスも、もう必要ない。

全部、捨ててしまおう。

時期だから。

そう、春が来て古いコートを脱ぎ捨てるように。ただ、時期が来たのだ。

自分が誰かに支配されることを許し、愛を乞うだけの惨めな季節は、もう終わった。

ケイはクローゼットから大きなゴミ袋を引っ張り出し、彼に関するものを次々と放り込み始めた。躊躇いは一切なかった。

私は、空っぽの私を、もう一度愛してみたい。

誰かに与えられた価値ではなく、自分自身の足で歩いて見つける、本当の価値を。

BEST OF MY LIFE。

静寂に包まれた部屋の中で、ケイの口元に、いつ以来か分からない、とても自然で柔らかな微笑みが浮かんでいた。

窓の外では、完全に夜が明けきった都会の空が、眩しいほどの青さを広げていた。

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