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冷凍された真夢  作者: 棺之夜幟
二章
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双胎呪女

 和泉という看護師の顔をじっと見ていると、彼女は不快に思ったのか、キッと睨み返した。天井の和泉と彼女とを見比べると、やはり何処か、似通っていて、僕の中で虫が這うような不快感があった。

 

「今日は精神科の先生とお話しをして、お仕舞いですから」

 

 ざっくりとそう言うと、彼女はベッドの隅に手をかけて、僕の上半身を起こした。目の前に簡易の机を置く。ガラガラという車輪の音と共に、香りの薄い食事がお盆で運ばれる。和泉看護師は僕の前にそっとそれを置いて、目を合わせた。

 

「韮井さんから少しだけ、貴方のことを聞いたわ」

 

 唐突に、周囲に聞こえない程度の音量で、彼女は言った。顔にお似合いの、ハスキーな聞き取りにくい声だった。

 

「診察の時には、不眠症で幻覚が見えているかもしれないと言いなさい。決して、奇妙な経験をしているということは言わないで」

「あの、貴女は」

「私は和泉霧子。貴方に取り憑いている和泉恭子の、双子の妹よ」


 成る程、確かに近しい血縁者であれば、よく似ている上に、彼女が和泉という名であることも合点がいく。見下すような瞳が、共通して僕に不快感を与えるのも、そのせいだろう。

 

「診察が終わって、病院を出たら、すぐに葬儀屋に行って。韮井さんに住所は教えてもらっているはずよ。すぐ近くだから、日が昇っているうちに。出来ればお友達も一緒に来てもらって」

「小清水もですか」

「そう、彼、小清水というのね。今後も外を出歩く時は、彼が一緒の方が良いわ。間に合えば私も一緒に行くから」

 

 冷静に、そして真っ直ぐに言葉を発する。一つ一つのことについて、殆ど説明はない。ただ、それだけ切迫しているということだけは伝わった。

 僕は近くにあった手荷物の中から、あの時先生から貰ったメモを取り出す。曰く、それが彼女の言う葬儀屋の住所だったらしい。実際、先生からは、次にまた奇妙なことに遭遇したら、と、念押しされていた。丁度良いとすら思った。

 

「わかりました。この病室ってスマホ使って良いんですか」

「良いわよ。小清水君を早めに呼んでおきなさい」


 はい、と僕が答えると、和泉霧子は少しだけ頬を緩める。物分かりが良いわね、と、ひと言だけ落として、彼女は廊下へと消えていった。僕はすぐに小清水へメッセージを送った。早起きの彼は、数分も置かずに、病院のカフェで待っていると送ってきた。

 朝食を食べると、すぐに他の医師や看護師がやって来た。淡々と実に合理的な動きで僕を精神科まで誘う。排泄や着替えの一切まで、彼ら彼女らは僕の側にいた。昨日よりも男性看護師が傍にいる事が多かった。おそらくは、僕を暴れる可能性もある精神科の患者予備軍か何かと思っているらしい。実際にそうなのかもしれないが、僕は和泉霧子の忠告を咀嚼し、少し疲れている普通の人間として振る舞った。全ては不眠症のせいだと言えるように、ただの患者として挙動の一つ一つを作った。

 神経を尖らせていると、カウンセリングという柔らかい言葉で繕っていた、午後の診察を迎えていた。大きく精神外来と書かれた看板が目に入る。周囲をじっくりと見回そうと立ち止まると、すぐに男性看護師が僕の腕を引いた。僕は思考を巡らせることすら許されず、白い空間に押し込まれる。

 他の診察室よりも幾分広い場所に、ニコニコと気味の悪い男性医師が座っていた。

 

「座ってください。お話ししましょう」

 

 ラフな格好のその男は、僕に向かってそう言った。顔と手に幾つかの傷痕が見えた。

 僕が素直に椅子に座る姿を見た看護師の、ホッとした表情が窺えた。

 

「じゃあ、いくつか質問させてもらえますか。何、難しいことは聞きませんよ」

 

 男はペラペラの薄い言葉を僕に聞かせていく。僕はそれに淡々と、少しだけ危うそうな言葉を選びつつ答えていく。眠れない、女の幻聴が聞こえる、眠りが浅い、色彩のない悪夢を見る。嘘と事実を少しずつ混ぜながら、僕は形容を施す。決して、怪奇的な現象については語らなかった。医師は少し首を傾げながら、それでも笑顔は絶やさずに、質問を繰り返した。

 

「そうですねえ。疲れが溜まっているんでしょう。学内で事件があったばかりですし、感受性が強すぎるのかもしれません。眠りやすくするお薬をお出ししますから、おやすみの一時間くらい前に飲んでください」

 

 お決まりのような言葉を放ち、診断書を書き綴っていく。

 

「もう大丈夫ですよ。熱中症も疲れから来てるんだと思います。用がなければ外に出るのは夕方くらいにして、お薬を飲んでちゃんと睡眠を取りましょう。深く眠れば夢もあまり見ないと思いますよ。暑くて寝苦しかったから、アイスノンを使うのも手ですから」

 

 医師が、お大事にと言うと、看護師が僕の肩を叩く。どうやら警戒心が溶けたらしい。彼らの中で、僕の昨日の錯乱は、疲れだと、一時的なものだったのだと、そう消化されたらしい。

 その後は単純な会計と手続きの連続だった。幸い、思っていた通り、医療費はあまり高くはなかず、薬代もそこまで痛い出費にはならなかった。

 そこそこの荷物を抱え、僕はゆっくりと院内を歩く。少しだけ足が軽かった。日が長くなりつつある。早く動かなければと、急いで小清水を探した。窓際でコーヒーを飲むデカブツを見る。小清水は僕を目視すると、溌剌とした笑顔で腕を振った。ズレた彼の体の後ろに、見覚えのある女の姿を見る。髪を下ろした和泉霧子は、不思議と、美しさよりも、可愛らしさが際立っていた。僕は息を飲んで、少し明るい視界の中に足を踏み入れた。

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