第53話 動く島の正体
すみません、エッセイにかまけてました。
案外反響があって「エッセイどんどん書こうぜ」と私の中の悪魔が囁きますが、あれが書けたのはこの暗黒勇者を書き始めたおかげなのでエッセイに書きたいことはこの作品にぶちこんでいきます。
またいつもの黒い夢。
前回と違い、黒い泥は俺を不快感で包み込む。
魔王は皆闇属性使いと聞く。
闇を思い起こさせるこの夢を見させているのは、やはり魔王なのだろうか?
『失礼だな、俺を魔王と一緒にしないでもらいたい』
やはり現れたか、俺はお前だと言う瓜二つなナニカ。
毎度のことながら、まるで鏡でも見てる気分だ。
魔王と疑われたことがよっぽど嫌だったらしく、不機嫌な顔をしている。
そういえば新たに闇についての伝承を知ったが、お前は〈暗き海底の看守〉なのか?
『それも〈深淵の怪物〉と一緒で俺を元にした伝承に過ぎない。
……二つとも俺が広まるよう仕向けたから、いい線はいってるんだけどな』
なんだって?
なんでわざわざそんな事をしたんだ?
『俺の正体を魔王から隠すためだ』
つまりお前は魔王と敵対してるってことか?
何でだ?
『質問ばっかりしてないで自分で考えたらどうだ?
……まあいいか、教えてやろう』
奴の顔がニマァと笑みを浮かべる。
こうして俺と同じ顔で笑みを見せられると、俺の笑顔は本当に極悪だなと思い知らされる。
『世界を救うためだ』
え?
奴が真面目な顔になり、吐き出された言葉。
新たな疑問が浮かび上がると同時に、俺の意識は沈んでいった。
目が覚める。
どうやら動く島に乗ってから、座ったまま寝てしまっていたようだ。
「パパーおはよー!」
「おはよ、メリー」
俺のすぐ傍で座っていたメリーが元気よくにこにこしながら声を掛けてくる。
寝起きに娘の可愛い笑顔が見れてお父さん幸せですよ。
「おはようクロウ、戦いの疲れが残ってたのよ」
「おはよう! クロウ、今のうちに特訓するぞ!」
「クロウ様おはようのキスでもしましょうか♪」
「クロウさんおはようございます。
シャーリー、無理させてはいけません。あと魔女、黙りなさい」
女性陣に挨拶されて俺も挨拶を返す。
口が縫われたアルヴィナはじーっと突っ立ているだけだ、そもそも自動人形だから挨拶しないけどな。
「へっ、くしゅん!!!!」
デカいくしゃみが出た。
眠ってしまう前にも出たが、ケトゥス退治で海に浸かって風邪でもひいてしまったのだろうか。
「クロウ、大丈夫? こんなところで寝ちゃうから風邪引いたんじゃない?」
アンナが心配そうに聞いてくる。
久々にデレてくれた気がするなあ。
「誰かが噂してるのかもな」
リューカオーさんが自分の娘と俺がどこまで進展したか噂してるのだろうか。
……色々エロエロありましたよ、お義父様。
「風邪だったら大変だわ。クロウ様、私の足をお使いになってお休みになって♪」
座って脚を伸ばしながら、にっこりと笑い太ももをぽんぽん叩くグレース。
日本でいう膝枕みたいなものか。
てか見えそう、短いスカートの中の深淵の先の真実が見えそう。
そしてグレースのことはまだ警戒しておくべきだが、膝枕という憧れのシチュエーションの誘惑がッ!
俺をッ!
悩ませるッ!
「クロウさん、魔女のを使うぐらいなら私のをお使いください」
エリザはいわゆる女の子座りして誘ってくる。
彼女は婚約者だから行ってもいいよね……と思ったが彼女が唇を舐めてるのを見て狙いが分かった。
俺の血を吸う気だろ!!
「私じゃ小さすぎて出来ないわよね……」
やべえ、アンナの魂な宝石が濁り出した。
さっきまで折角デレ気味だったのに!!
「アタシも! 来いクロウ!!」
いやシャーリーよ、君はなんで胡坐をかくんだい。
普通そこはグレースやエリザみたいにするか、NIPPON伝統の正座だろう。
「パパー膝枕してー」
メリーは逆に俺にせがんできた、可愛いなあ。
結局俺はシャーリーのように胡坐をかいてメリーを座らせることにする。
女性陣四人が批難の目で見てくるのが辛い、そしてアンナが羨ましそうな顔してるから後でしてあげるか。
そういえばさっき見た夢の内容を彼女達に報告しなきゃな。
「実はな……」
俺の話を聞いた全員が考え込む。
「ひとまず言葉通り信じるなら魔王ではないんですね」
「〈深淵の怪物〉と〈暗き海底の看守〉でもないなら、何なのかしらね~」
エリザとグレースの復唱どおり、結局のところ奴の正体が全くつかめていない。
「世界を救うのが目的なら勇者であるクロウの味方ってことよね?」
「ダメだ、アタシが考えても分からない」
奴の言ってる事が本当ならアンナの言うとおりだな。
シャーリーは戦ってないと頭回らないから無理しなくていいぞ。
結局現時点での情報だけでは推測すら困難だ。
第一、少ない情報もあいつの嘘かもしれないし――
などと話をしている途中で動く島が減速していく。
「あれ、どうしたんだ?」
どういう原理だかで動いていた島だったが、海のど真ん中で突然動きが止まった。
メリーが海面を覗き込んでる。危ないからやめなさい。
「パパ! なんかくっついてる!」
引き戻そうと近づくと、メリー曰く何かが島にくっついているらしい。
動きが止まった原因もそれだろうか。
「!? なんだこれ!?」
覗いてみたらビックリ。
コバンザメみたいなのがたくさんビッシリとくっついてるじゃないか。
「マズイわね……」
珍しくグレースが顔を曇らせながら唸る。
厄介な魔物らしい。
「遅延鮫っていうのよ、クロウ様。
群れで対象にくっついて動きを止めるの。それだけならまだいいんだけど……」
「まだ何かあるのか?」
グレースは悩ましげな表情を意を決したようなものへと変える。
「レモラそのものは襲ってこないわ、動きを止めた獲物を他の魔物に襲わせておこぼれをもらうの」
「なるほど……でもさすがに他の魔物が気づいて襲ってくるまで猶予はあるんじゃないか?」
「それがないのよ。魔物をおびき寄せる匂いを出すから」
かなり厄介な魔物だった。
つまりこの動かなくなった小島でレモラと、その匂いにおびき寄せられた魔物を倒さなければならない。
「…………」
じっと立っていたアルヴィナがポールウェポンを構える。
敵が来たサインだ。
「見えたわ! 魔鮫の背びれよ!」
目のいいアンナが叫ぶ。
だんだん近づいてくるシルエットは確かにサメの背びれだ。
「人食い魔も来たぞ!」
シャーリーの声を聞き、振り返ってみればマンイーターが大きく口を開いて迫ってきていた。
「一匹や二匹どころじゃないわね、かなり集まってきたわ」
グレースの言うとおり、それぞれ十匹ぐらいはいるだろうか。
さすがにこちらの陣地が狭い小島で、この量を相手にするのは厳しいものがある。
「私が〈氷河の寒獄〉で一気に凍らせましょう」
「それがいいな。詠唱の時間まで俺らが受け持つ」
数が多い分、範囲を広くするのに長めの詠唱をするだろう。
それまで襲い掛かる魔物共からエリザを守る必要がある。
「来たぞ!」
マンイーターが飛び掛ってきた、シャーリーがいち早く反応して避けてカウンターを放つ。
「グォオオオオ!?」
シャーリーの双剣に腹を切られ、マンイーターが苦しむ。
「っ!」
アンナはクロスボウから矢を放ち、フォルネウスをけん制していく。
「〈影の拘束〉!」
「あの女を守るのは気が進まないけど、クロウ様のためなら!」
メリーの十八番の〈影の拘束〉とグレースの茨のドルイド魔法が炸裂する。
両方とも時間稼ぎには持って来いだ。
フォルネウスやマンイーターに絡み付いていく。
「おらああああああっ!!」
何もしないで突っ立ってる訳にはいかないし、なにより男の尊厳が傷つく。
俺も勇者の剣で向かってくるマンイーターを叩き斬って怯ませる。
アルヴィナは跳んできたフォルネウスをポールウェポンで野球の打者の如く打ち返している。
ガゴォン! という鈍い嫌な音がしてフォルネウスは力なく海中に沈んでいく。
「凍て付く氷河よ、怨敵を封じ込め――〈氷河の寒獄〉!!」
ようやく詠唱が終わりを迎えたようだ。
狂戦士と化したヘイドラグを封じ込めた物より、更に広く巨大な氷河が魔物共を凍らせて閉じ込めていく。
まるで巨大な粘生物が食べていってるみたいだ。
そんな光景を見て、戦闘終了! と叫ぼうと思った瞬間である。
「何か近づいてくるわ!! あれは……蛇?」
アンナが見ている方向を見やり、目を凝らしてみると確かに長い身体を持つ巨大な何かが三匹ほど近づいてくる。
「この海域に棲む蛇型の魔物といえば――」
エリザが冷静に呟く。
そしてグレースが真剣な面持ちで後に続く言葉を漏らす。
「海竜しかいないわ」
「海に棲んでる亜竜ってやつか」
俺の返しにグレースはゆっくり頷く。
彼女にいつもの余裕がない分、やはり亜竜といえど竜の子孫というだけあって手ごわいのだろう。
ただ魔獣よりかは楽だろう、もちろん油断は禁物だが。
「シャアアアアアァァァァ!!」
すぐ近くまで近づいてきたシーサーペントは名前の通り蛇の如く細長い胴体で、頭は竜のようだ。
爬虫類の瞳が俺達を捉えてくるや否や、跳びかかってきた。
「ふんぬっ!!」
「うおりゃっ!!」
俺とシャーリー、アルヴィナでそれぞれを受け持って相手する。
メリー、グレースが魔法で動きを止め、アンナが矢を乱れ撃つ。
そしてエリザが魔術の詠唱をしていく。
「シュルルルルル!?」
さすがに竜の子孫とだけあって鱗が硬い。
勇者の剣の切れ味のおかげでがりがり削れて肉まで到達したが、暴れまくるわこちらの足場は狭いわで致命的な攻撃が出来ない。
「雪よ、苦痛を与えたまえ――〈痛き雪〉」
初めて聞く氷の魔術。
その名の通り、シーサーペントたちに雪が降り注ぐ。
「シュシュシュシュルルルル!?」
シーサーペントたちが悶え苦しむ。
どうやら触れると相当痛いらしく、小さい上に量が多くてえげつねえ……。
「全員一斉攻撃!!」
エリザが作ってくれた機会を無駄にはできない。
俺とシャーリーが斬りかかり、
メリーが影のナイフを突き立て、
アルヴィナがポールウェポンを叩きつける。
グレースの茨が絞めつけ、
エリザの〈氷柱の投槍〉が突き刺さる。
シーサーペント達は力を失って倒れ沈んでいく。
フォルネウスやマンイーターよりは攻撃が当てづらかったが、思ったよりあっけなかったな。
「亜竜っていうぐらいだからもっと強いのかと思ったぞ」
「普通はこんなに楽に感じない相手ですが、私達は魔獣と対決しすぎましたからね」
確かにエリザの言うように、魔獣を何度も相手してるから楽に感じるし俺達個々の強さと連携が磨かれているのかもしれないな。
「次が来ないうちにさっさとレモラを倒しちゃいましょ」
「そうだな」
アンナの掛け声を切っ掛けに全員でレモラを倒そうと思った瞬間である――
「!? 小島が揺れてる!?」
動く小島がぐらぐらと揺れ、レモラたちがわらわらと逃げ出す。
ファンタジー世界だからと気にしないでいたが、一体何なんだこの島は!?
全員伏せて振り落とされないようにしていると、何か島から生え出してきた。
――それは巨大な亀の首だった。
こちらを振り返り見つめてきたが、つぶらな大きな瞳に敵意は見えない。
もう何も問題はないと確認したのか首を引っ込めていく。
「島亀……森妖精でも見たことある奴はほとんどいないわ」
博識なグレースもさすがにビックリしている。
俺達が島かと思って乗っていたのは、亀の甲羅だったってことだ。
「見て。甲羅に手足を引っ込めても、水を噴出して移動できてるのね」
「身を守る知恵ですね」
アンナが海中を覗き、俺らにも促す。
エリザの言うように魔物だらけの世界で生きていくための術なのだろう。
「竜の島が見えてきたわ」
アンナの言うように目的地が見えてきた。
竜の島に住む謎の種族――上手く味方につけられるだろうか。
何なんだこの島は!?って自分で書いててドーナツ食いたくなった。




