第54話 竜の島
竜の島の浜辺に到着する。
俺達は島亀から降りていく。
するとアスピドケロンは甲羅から首を出して辺りを見渡した後、甲羅をくるっと回転させて再び元来た方向を進みだした。
「なんでいちいち行き来してんだ??」
「一箇所に居続けてると狙われるからじゃないの」
シャーリーの疑問にアンナが若干呆れ気味に答える。
やっぱこの二人は喧嘩するほど仲がいいんじゃないだろうか。
今もなんか口喧嘩し始めたけど。
「甲羅に篭って、一箇所に居座らない。究極の身を守る術ね♪」
「どこかの誰かさんは一箇所に留まっていましたね」
今度はエリザとグレースが火花を散らし始めた。
それでいてお互い笑顔だからすっげえおっかねえ。
巻き込まれないうちに距離とりたいけど――
「クロウ!! この狼女が!!」
「クロウ!! このチビが!!」
「クロウさん!! この魔女が!!」
「クロウ様!! この鬼女が!!」
俺中心に集まったからこうなるんだよなあ、俺のハーレム願望を満たしてくれるから仕方ないっちゃ仕方ないけどよお……。
メリーはすでに我関せずと退散済みだし、アルヴィナはガチ戦闘にならないと助けてくれないし。
グレースはまだ信用できないがプロポーションは眼福の一言に限るんだよな……。
彼女らの仲裁を終えて、島の詳細を観察することになった。
浜辺にはヤシの木らしいものが生えており、心なしか人魚の集落より暑い気がする。
浜辺の向こうはジャングルで、その向こう側は大きな山だ。
「見たこと無い植物がいっぱいね……ふふふ」
アンナが悪そうな笑顔でうきうきしている。
どうせ毒性のある植物が見つからないか期待しているんだろう……。
「暑いいいいいいいいいいいいいいいいい」
「シャーリー、暑いって言うと余計暑く感じるぞ」
北方出身のシャーリーは暑さに弱い。
それでもある程度の体温調節で適応できるんだからファンタジーなチートすぎるよなあ。
「さすがに竜の島については詳しくないから進んで見ないと分からないわ」
ご長寿……なんでもないです、グレースでも未知の部分が多いようだ。
住んでいる種族だってよく分かってないぐらいだし。
だが――
(エリザ、グレースが嘘ついてる素振りは?)
(ないと思います、ことクロウさん絡み以外では特に怪しい気はしませんね)
(私も同感だわ)
(なんかよく分からないけど、今のグレースはおかしくないぞ)
魔獣ケトゥスのマナから手に入れた伝心念話の能力を使い、婚約者勢とグレースの様子を話し合う。
結果、エリザの洞察力とアンナの観察力とシャーリーの本能と俺の勘が白だと結論づけて能力を止めた。
本当に狙いが分からないんだよなあ。
分かりやすいシャーリーを見習って欲しい。
「…………」
突然アルヴィナがぴくりと動き、その他全員が警戒状態に入る。
立ったままの彼女が微かに動く、それは敵の出現を意味する。
「……あれね」
アンナがいち早く察知する、遠くに翼を広げた影が見える。
恐らくあれは――
「飛竜――」
この浜辺からでも見える巨大なソレは山の向こう側へと消えていった。
発見されていたら間違いなく戦いになっていただろう。
そうすればいくら俺が勇者であり数の利があろうと、空を飛ぶ利を持つ相手と戦うのは面倒だっただろう。
「ええい! アタシと勝負しろー!」
「見つかるから黙っててくださいシャーリー!」
「ほんっとうにバカね……」
……婚約者勢が騒がしすぎてマジで見つからないか心配になってきた。
結局、浜辺にあった大きな岩陰でしばらく休憩がてら身を隠すことにする。
「パパ、見張りするから肩車して!」
メリーがくっついてきて小声で肩車を要求してくる。
すると反対側にアンナがくっついてきた。
「わ、私の方が目がいいから見張りに適任よ」
……顔が薄っすら赤い時点で肩車して欲しいだけな気がしますよ。
「あらじゃあ私もクロウ様にベッタリさせてもらうわ♪」
グレースまでくっついてきてそ、その……胸が当たっています。
「魔女! クロウさんから離れなさい!」
エリザがグレースを引き剥がしにきたのだが、結局もみくちゃになっているうちに俺とくっつく形に。
「ア、アタシも!! あ、暑い……」
シャーリーも参戦しに来たがおしくら饅頭状態のため、この島の気温とお互いの体温のせいでものすごく暑い。
我慢できずに、俺は思わず言ってしまう。
「暑いから一旦離れよう……」
結構騒いでしまったが幸運なことに、魔物にも亜人にも見つかることは無かった。
「すみませんクロウさん、もう少しで皆を危険に晒してしまうところでした」
いつもは冷静なのに思わず熱くなってしまったとエリザが謝ってきた。
グレースが煽ろうとしていたのでアイコンタクトで止めておく。
ちょっと口を尖らせた拗ね顔が可愛らしくて不覚にもドキッとした。
島の探索を開始する。
謎の種族に早いところ会いたいところだが、敵対してくる可能性もゼロではない。
そうなったときの隠れ場所が必要だ、まずはそれを見つけなければならない。
浜辺は陽射しが暑く、ジャングルの中に入ってしまえば涼しいと思っていた――時期が私にもありました。
蒸・し・暑・い!!!!!
「暑い……死ぬ……」
特にシャーリーがやばい。
汗がだらだらと垂れ流れてて服が透けててやばい。
どうしてもチラチラ見てしまう。
「ク・ロ・ウ?」
デレアンナがキレアンナになってしまった。
無表情という最上級の怒りが俺に向けられている。
「さすがにこのままだとシャーリーが参ってしまいますね――冷えよ、〈冷たき空気《|クールエア》〉」
エリザが威力を極端に抑えた氷魔術を唱えてくれた。
おかげでかなりマシになった。
「た、助かる」
「お礼はいいですから騒ぐのはやめてくださいね。
無闇な戦闘は避けるべきです」
いつも喧嘩と嫉妬が渦巻くパーティな分、仲間らしい会話が繰り広げられていて微笑ましいな。
「パパ! 罠がある!」
メリーの声で全員が緩んだ気を引き締めなおす。
アルヴィナは敵の襲来にのみ反応するようで、こういった罠の察知は出来ない。
メリーの元に集まってみると、木を削って組んだ罠が確かに設置されていた。
しかもまだ新しい。
「亜人の上位種でなければ、謎の種族の仕業に違いないですね」
「けっこう頭いいってことだね!」
エリザやメリーの言うとおり上位子鬼みたいなのでないなら、俺達が協力を求めて探す種族たちが設置したことになる。
「にしてもデカいな」
特筆すべきはその大きさである。
馬でも捕まえる気なのだろうか。
「――何かいる」
暑さに参っていたシャーリーが急に真剣な顔になる。
鼻をくんくん動かしてるあたり、何かの匂いを嗅ぎ取ったらしい。
アンナが辺りを見回しながら耳をすましている。
「クロウ様、あれ」
グレースが小声で指さす方向を見ると見たこともない動物だか魔物がいた。
シルエットを見る限りだと馬なのだが俺の知ってる馬や、夢馬のユメとはかけ離れている。
胴体は鱗が生え、蹄も二つではなく三つに分かれている。
尾はトカゲのようで、顔は竜みたいだ。
アレだ、中国の麒麟を西洋風にしたみたいな感じ。
と、こちらに気づき警戒してくる。
俺が勇者の剣を抜こうとするとアンナがそれを制した。
「魔物じゃないし、逃げ出してもこちらを襲う気はないみたいだわ」
肉食獣でもなければ魔物でもなかった。
危ない生き物でないと分かり、全員が少し緊張を緩める。
向こうも緊張を幾分か緩めたが、未だに警戒し続けている。
お互い相手が何し出すか分からないからな、当然の状態だ。
「もう大丈夫だわ」
動物とある程度心を通わせられる賊妖精と野妖精の持つ能力。
こういう温和な相手だと非常に有効だ。
敵意剥き出しだと、人同士であってもコミュニケーションできないからな。
――と思った矢先、再び西洋麒麟の様子がおかしくなる。
全員極度の緊張感をみなぎらせる。
「! 揺れてる!」
シャーリーの言うとおり、地面が一定感覚で微かに揺れている。
グレースの胸もアニメみたくばいんばいんと揺れるのではなく、微かにふるふると振動しているのが――ってそんなこと気にしてる場合じゃない!
大きな何かがこちらへ向かっているようだ!!
麒麟モドキはすかさず逃げ出す。
俺らは派手に逃げず、近くにあった木に登ってこんもりと茂った葉の中に身を隠す。
エリザはいつも通り俺がお姫様だっこした。
今回はさすがの俺も手を出さなかったが、エリザの目が首筋に注がれていたような気がしてならない……。
「なんかヤバそうな奴の匂いがする」
「あら奇遇ね。私も嫌な予感がするわ」
本能シャーリーと知的グレースの意見が珍しく一致する。
ということはかなりヤバいんじゃないか。
「音の大きさからしてかなり大きいわ」
アンナの耳が謎の巨大生物の足音を捉えた。
さすがに魔獣よりマシだと思いたいが、ここは亜竜が暮らす謎の島だ。
油断はできない。
「パパー、大きな影が近づいてる」
「影?」
メリーが影の精霊シェイドゆえに何かの影を察知したらしい。
「まさか……」
「どうしたエリザ?」
エリザがゴクりと唾を飲み込む。
「飛んでいるワイバーンの影――」
全員が押し黙って冷や汗をかく。
冗談じゃない。ただでさえデカい何かが迫っている中、空を飛ぶ巨大な奴が現れたとか洒落にならない。
「ここじゃ見つかるわ」
「そうね、空を飛んで獲物を探すから目は良さそうだわ」
アンナの意見にグレースが頷く。
何にせよ、ここは安全ではない。
また降りてこそこそ進んでいく作戦をとることにした。
熱帯植物の間を通り抜けていく。
アンナが物惜しそうな目で有毒性の物を判断してくれて避けていく。
さすがに採取してる場合じゃないからな。
メリーは久々に黒猫姿になって先行して様子を見に行ってくれている。
アルヴィナも今すぐ戦闘行動に移るほどの様子は見られない。
「!! まずいわこっちに向かってくる!!」
「さっきの匂いが混じってるから二体同時に来てるぞ!!」
アンナとシャーリーが突然叫ぶ。
どうやら最悪の事態が起きているようだ!
「走るぞ!!!!」
俺の掛け声と共に全員が走り出す。
エリザを抱えて、すたこらっささすることにしよう。
(パパー!!)
(どうした!?)
先行してたメリーから能力ではなく脳内会話が飛んでくる。
珍しく慌てた声だ。
(この先、砂浜だよ!!)
……隠れる場所ないじゃないか。
「ここを抜けたら砂浜らしい!!
戦うぞ!!」
「分かったわ!」
「了解しました」
「おう、やるぞー!!」
「またいいとこ見せてあげるわ、クロウ様♪」
全くもってたくましく頼もしい女達である。
アルヴィナもポールウェポンぶんぶんぶん回してくれるしな。
ジャングルを抜けて砂浜が見えてきた。
俺達が向きを反転させるとそいつらが陸と空に姿を現した。
「飛竜と地竜に違いないわ」
グレースが冷徹に判断したそれらはまさしく竜の子孫であった。
ワイバーンは大きな二対の翼を広げながら、俺らの上空をトンビみたく先回している。
頭から二本の角が後ろに向かって生えており、尻尾はケルベロスのようにしなやかそうだ。
一方ドレイクは巨大で、ワニとトカゲが合体したような姿だ。
口からのぞく牙は俺らの肉を引き裂かんと並び、太い尾はまるで釘バットの如く棘が生えている。
「っ!! 後ろから不自然な波の音がするわ!!」
アンナの声で振り返ると三体目の竜が姿を現す。
「海竜まで……」
エリザの呟くとおり、海原で戦った奴らより遥かに大きい主のようなシーサーペントだ。
「「「ガアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!」」」
呆気にとられる俺達をよそに、陸海空の雄たけびが轟いた。
なんとなくヨーロッパ伝承の亀に乗って竜の島に行くという流れを決めていたが、気づいてみたら完全に浦島太郎だった。




