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救世の暗黒勇者(リメイク前エタ)  作者: 墨沼
第一章 この世界で生きるために
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第23話 狂戦士の魔剣



「グオオオオオオオオオオ!」


異形の狂戦士が迫ってくる。

体格がデカいだけに迫力がすごい。



振り下ろされた魔剣〈真の翼(トゥルウィング)〉を避ける。




――ズガアアアアアアアン!――




地面が割れた(・・・・・・)

なんという威力だ。

当たったら一溜りもないな。

ソーロルさんはどうやって致命傷にならずに済んだんだこれ。



「グウウウウウウ」


こちらに振り向き、忌々しげに唸る。

まるで蚊を潰そうとしている人間のようだ。

存在が鬱陶しい、さっさと潰されろ。

まるでそう言ってるかのようだ。



「ガアアアアアアアア!」

「うおっ!?」


一刀両断できなかったためか狂戦士は魔剣をメチャクチャに振り回し始めた。

本来なら隙だらけで攻撃のチャンスだ。


だが相手は只者ではない、魔剣に取りつかれた戦士だ。

剣筋がメチャクチャなくせに一切隙がないのである。

本来なら腕が千切れてしまいそうな動きは、呪いで肥大化した腕には関係ないらしい。

嵐だ。

斬撃の嵐が俺に襲い掛かる。


一度でも受けてはいけない。

一度受けたら瞬く間に細切れにされるし、勇者の剣で受けても防御に徹することになる。

監獄冥府タルタロスでの軍団死塊レギオンを思い出す。

反撃の隙がないのだ。


ゆえに俺は避け続ける。

左に右に。

時には飛び跳ね、時にはしゃがむ。

その度に地面は抉れ、周囲の木々は傷つけられる。



魔剣を振った風圧が俺の体を撫でた。

まさしくそれは死の嵐がもたらす風だった。

嵐は俺を追い続ける。

俺の身を切り刻む代わりに森に傷跡を残していく。



相手の体力が尽きそうな雰囲気は微塵も感じられない。

それも魔剣の呪いなのだろう。

ならば回避し続けた先に待っているのは、体力が尽きた俺が成す術もなく蹂躙される光景だ。




――立ち向かっているのが俺だけならば。




「後ろががら空き!」



伸びた俺の影が狂戦士の後ろに回り込み、メリーが具現化して黒い短剣を首元に刺し込もうとする。



「グルアアアアアアア!」


だがそれを許すはずもなく、狂戦士はメリーを振りほどこうと身体をめちゃくちゃに動かす。



「――っ!だったら特訓の成果見せてあげる!!」


剣術の特訓中にメリーは俺の影から離れている。

その間に魔法を使って色々試行錯誤している様子が伺えた。

そんな彼女の隠し技が遂にお披露目となったのだ。


メリーの身体が煙のような闇になっていく。

ケルベロスやナイトメア戦で見せた霧状の形態だ。

だが今回はそれで終わらなかった。




「〈燻り狂う顎に御用心(バンダースナッチ)〉!!」




突如、黒い霧から牙が生えて狂戦士に突き刺さる。

バンダースナッチ、俺がメリーに話したアリスの物語に名前だけ出てくる怪物だ。

やたら食いついてきたので同じ作者の別の詩での描写も教えたのだが、霧形態を変化させるアイディアになったようだ。


ガジガジという効果音が聞こえそうな勢いで咀嚼を繰り返す。

狂戦士は一方的に噛み砕かれて、思わずといった風で立ち止まる。



「うおおおっ!!」


俺は意を決して狂戦士に近づき、勇者の剣を振り下ろす。


肉を切り裂く感触――気持ち悪い。

そして常位を逸しているとはいえ相手は人だ――気持ち悪い。



だが俺はそんな気持ち悪さより、歩く災害とも言える目の前の敵を倒すことに集中できた。

ここで止めなければ後ろは賊妖精(ボギー)の集落だ。

皆の顔が浮かぶ。

マックスさん、ジャックさん。

それに一緒にばか騒ぎした男衆に、性別なんて関係ないとばかりに強気で集落を守る女衆。

無邪気な子供たち。



――そしてアンナ――



無差別に剣を振るうこいつを行かせる訳にはいけない。



しかし狂戦士も斬られているばかりではない。

視界をメリーに奪われているにも関わらず、魔剣を振り回して妨害してくる。

必死に避けながら勇者の剣を振るが、向こうの妨害のせいで致命傷を負わせることはできなかった。



と、魔剣が禍々しく赤く輝いた。

魔剣の更なる魔力の高まりを感じて俺は剣を構える。

何か来る、という漠然とした直感が俺に警鐘を鳴らしていた。

そして、それは俺には予想できないものであった。




――ギュイイイイイイイイイイン――




剣の刃が回転しはじめた(・・・・・・・)




電動鋸チェーンソーなんて聞いてねえぞ!!」




幻想的ファンタジーなこの世界観に似合わぬ魔剣の挙動。

回る魔剣の刃によって引き起こされた風圧がメリーを襲う。


「きゃあっ!!」


食い込んでいたはずの牙が外れて霧状のメリーが吹き飛ばされる。

そんなメリーに追い討ちはせず、狂戦士は俺目がけて突進してくる。


メリーは俺の影から生まれた精霊だ。

ある程度ダメージを負っても俺の魔力で回復することができる。

それを本能的に悟ったのか俺をターゲットにしてきた。

もちろんメリーといえども魔剣の呪いを受けたらタダで済まなそうだが。



いくら刃が回転しても、魔剣が振るわれる速度が上がった訳ではない。

俺は緊張はしていても攻撃は難なく避けたのだが――



「うおっ!?」




俺が避けた先にあった大木が薙ぎ倒されて俺を襲う。

魔剣の斬撃を避けるならば木で押しつぶさんとばかりに。



なるほど。

ソーロルさんも魔剣自体は回避したのだろうけど、倒された木やその枝を避けることが出来なかったのだろう。


大木の枝が俺の頬を撫でる。

痛みが走る。

血が出ているのが見なくても分かる。

ただでさえ悪人面なのに、さらに凶暴さが増してしまっては困る。

……ボギーたちには好評な予感はするが。



余裕がないはずの状況でも下らない思考が一瞬通り過ぎる。

それは一筋の突破口が見えたからだ。



周りの木々が倒されている。

この状況で使わない手はない。




「〈獄炎の吐息(ヘルフレイムブレス)〉!!」




地獄の炎が勇者の剣を持たず手ぶらな左手から放出される。

森の中だと山火事になってしまう可能性が高いため制限されるが、向こうがお誂え向きに開けた空間にしてくれた。



ベルンの狂戦士は骨をも焼き尽くす炎に覆われる。

高温の炎の熱波がジリジリと俺に迫ってくる。

余波を受けている俺ですら呼吸するのに精一杯なのに、炎を直撃していて無事なはずがない。




そんな俺の予想とは裏腹に炎を振り払う赤い剣閃。




「ガアアアアアアアアアアアア!」


先程よりも大きな叫び声をあげながら現れる狂戦士。

体のところどころに火がついている、全く効かなかった訳ではなかったようだ。

しかしそれは文字通り、奴の怒りに火をつけただけだった。





打つ手なし、そう思った時に英雄ヒーローはやってくる。





「ヒャッハアアアアアア!騎兵隊の到着である!!」



首を抱えた首無し騎士(デュラハン)のアルフォンスさんによる、最高のタイミングで文字通り横槍が入れられた。



――ガアン!――



馬上槍ランスが狂戦士に直撃したが、貫通せず鈍い音を経てて弾かれる。

激情したせいか、先程より皮膚が硬化しているようだ。

なんて厄介な魔剣だ。



「む、硬いのう――よし、今である!アルジー!!」



鉱妖精デュルガーの老人の名を呼ぶアルフォンスさん。

すると――




――バッコオオオオン!!――




地面が消えた。

いや陥没したのだ。

思わぬ事態により、回避する間もなく狂戦士は穴に嵌った。



「ハッハー!馬鹿め、地中への注意が疎かじゃったな!!」



人間ヒューマンの背丈ほどもある大きな刃の鋭いシャベル――彼にとっては巨大なそれを携えて、ベルンの狂戦士が嵌るのと入れ替わるようにアルジーさんは現れた。

前線は引退して鍛冶一筋なのかと思ったが違ったのか。

トンネルを地中に掘って敵の足元に空間を作り、狂戦士の体重に耐えられなくなった地面が陥没したようだ。

彼のゲリラ戦術は未だに衰えていないらしい。

シャベルを振ってガンガンと動けない狂戦士の頭に打ち付けている、エグい。



「グオオオオオオオオオオ!」


雄叫びをあげながら落とし穴から脱出するベルンの狂戦士。

だがそれはいつの間にか張られた無数の細い糸に体を絡ませてしまった。




「招かざるお客様、お静かにお願いします」




蜘蛛人アラクネのメイド、レリーチェさんが張ったのだ。

僅かな時間で設置された二重の罠に俺は呆気にとられた。

俺だったらもう降参だ。

しかし奴は違う。



「ガアアアアアア!」


糸を引きちぎって抜け出したのだ。

だが隙は与えんと上空から小さな影が迫る。




解体解体バラバラバラバラ解体解体解体解体バラバラバラバラバラバラバラバラアアアアァァァァ!」




鉈と斧を高速で振り回すボギーのジャックさん。

血走った眼は見開き、鬼のような形相だ。

相手を切り刻まんとする斬撃は、同じく魔剣の斬撃と打ち合う。


「ガアアアアアアアア!」


ジャックさんの言葉に呼応するかのように叫ぶ狂戦士。

荒れ狂う2つの斬撃の嵐がぶつかり合っていた。




「魔剣持ちと聞いて飛んできたが、獣化までしてるとは厄介な相手であるな」


打ち合いを見ながらアルフォンスさんは狂戦士の挙動を一切見逃さんと槍を構える。


獣化。

どうやら二足歩行の熊になっているのは、あくまで魔剣の呪いが引き出しているようだ。



「フン。魔剣じゃろうが獣化じゃろうが相手がなんであれ、使える手は全て使うまでよ」


戦意を一切下げずに狂戦士を睨みつけるアルジーさん。

どんな手を使って戦う、そうやって彼は今まで生き残ってきたのだろう。



「後ろはボギー達の集落に館、撤退はできません。どのみち見逃してくれるような相手ではないですが」


レイチェルさんはあやとりのように糸を指に絡めてながら、冷静に隙を伺っている。

ボギーたちもいるが、特に主であるエリザ様が住まう館に近づけたくないのだろう。

それに、ただでさえボロボロな館がさらに風穴を開けられるのは避けたい。

たとえボロくても我らが反帝国軍の本拠地なのだから。



三人が話している間に敵に変化があった。

すぐさま臨戦態勢に入る。

剣戟の中、更に怪しく輝く魔剣トゥルウィング。

刃の回転数が更に上がっていき――




魔剣から衝撃波が生み出された。




「ガァッ!」

「ぐっ」

「クソッタレが!」

「――っ!」



四者四様に吹き飛ばされる。

ジャックさんは吹き飛ばされ宙を舞い、

アルフォンスさんは槍を前面に構えながらもジリジリと押され、

アルジーさんは吹き飛ばされて木に叩きつけられ、

レリーチェさんはスカートを抑えながらも後退する。


俺の影として戻ってきていたメリーは吹き飛ばされないよう俺に〈影の拘束(シャドーボンド)〉を放って地面に張り付けてくれている。




――突如、悪寒が俺を包み込む。




狂戦士の見えてるんだか見えてないんだか分からない白目が、こちらをギロリと睨みつけている。

他4人と違い距離をとらなかったせいで目を付けられてしまったらしい。



その巨体からは想像できない速さで迫る狂った獣。



「メリー!」

「パパ、解除したよ!」



〈影の拘束〉が解除される。

しかしそれはどうやら奴には十分な隙だったらしい。




目の前に斬撃の嵐を巻き起こす魔剣が迫っていた。




「クロウ!!」




アルフォンスさんの呼び声がまるでやまびこのように木霊する。




避けられない。




剣での防御も間に合わない。




このままでは細切れになる。




俺はどうすれば――




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