テンタ・モードン4-2
獣人族の女は、時折目に見えないほどの速さで動き、魔獣達の攻撃を躱しながら、避けきれないと思った場合に槍で迎撃しているのだろうが、それだけでこちらの魔獣達が倒されて減っていく。
そんな動きがいつまでも続くわけが無いと思っていたが、いつまで経っても疲れた様子を見せない。
エルフ族の女にはこちらの攻撃がほぼ届いていない。物理攻撃も魔法攻撃も、目に見えない壁でもあるかのように、当たる直前に弾かれたり威力を落としたりしている。もしかして、話だけには聞いたことがあるが「風の盾」を使っているのか?そんな高度な魔法が使えるのか?
しかも、小さな土の塊を、いや、あれは大きな塊を土から取り出して、小さく硬く、細長く円錐状に圧縮しているぞ。それをいくつも自分の周囲に浮かべて、次々と放って来るので、これにも俺様の魔獣達が殺られている。それでいて魔力量の残量を気にしている様子もない。
決して魔獣達の攻撃がこの二人に届いていないわけではない。獣人にもエルフにも攻撃が当たることもあるのだ。なのにダメージがあったようには見えない。痛みを堪えて戦っているような素振りは無い。あれは、何ら痛痒を感じていない者の動きだ。
もしかしてあいつらは、かなりの高ランクハンターなのか?
もしかして国が、俺様や魔獣達のことを知って、こいつらを差し向けて来たのか?
いや、あり得ない。
これまで移動中も村を襲う時も、周囲にも気を付けてきたので、目撃者は全て始末できている筈だ。
あいつらにしても、エルフは長命なので、見た目より歳がいってる可能性はあるが、獣人族は見た目が歳を大きく裏切ることはない筈だ。
ならば、何としてもこいつらを倒す。
魔獣達は、もう50匹以上あいつらに殺されたと思われるが、まだ主力の魔獣達は攻撃に加わっていない。
「行け!」
獣人の周りを多くの魔獣達で囲み、魔法に長けた大猿が「水魔法」で大量の水を飛ばして、その獣人の周りを水浸しにする。それを氷狼が凍らせ、周囲一帯を滑りやすくして獣人の機動力を奪う。
森に棲む魔物や魔獣は、自分たちの住処に影響を及ぼさない為か「火魔法」を使うものが殆どいない。
その代わりか、「風魔法」を使えるものが多く、住んでいる環境によって「水魔法」か「土魔法」を併用している。
空を飛ぶ魔物は、身体が大きくなると自らの羽ばたきのみでは浮揚できないため、「風魔法」を併用して浮いたり飛んだりしている(極稀に「重力魔法」を使う魔物もいるらしいが)ことから、殆どが「風魔法」による攻撃が使える。
そんな魔獣達が、四方八方から獣人に魔法を撃ち込む。
避けたり刺突撃で相殺したりしているが、踏ん張りの利かない氷の上では、攻撃魔法の多くを被弾している。
それでも魔法によるダメージをほぼ与えられていないようだ。よほど「魔法防御」が高いのだろう。
しかしダメージが通っている魔法もある。一定以上の攻撃力のある攻撃魔法は効いている。少しずつではあるが、獣人の傷が増えていく。
一方のエルフに対しては、大ネズミや狼達の攻撃が届かず迎撃される中、その間を縫って、防御力が高く身体が大きい大猪と岩トカゲが、高速で突進して交互に体当たりを繰り返す。
エルフの「土魔法」による攻撃をその防御力で軽減しながら、「風の盾」をその質量で突破し、こちらもエルフに少しずつダメージを与えていく。
その間に爪長灰色熊が大きく回り込み、エルフの意識が完全に大猪と岩トカゲに向いてしまった隙をついて近寄り、エルフを後ろから全力で殴りつける。
よし!今のは効いたようだ。「治癒魔法」を使っているのか、「土魔法」による攻撃が止んだ。
さあ畳み掛けるぞ!と思った途端、二人が一瞬顔を見合せたと思ったら、急に俺様に背を向けて走り出した。
ヤバい! 逃げる気だ!
獣人は凍って滑る地面の上を止まったり方向転換しようとせず、真っ直ぐ自分の行く手を塞ぐ魔獣達を走る勢いのまま体当たりで吹き飛ばし逃げていく。魔獣達の魔法が当たってもお構いなしだ。
一方のエルフも、行く手を塞ごうとした大猪に対し、先の尖った大きな円錐を作った。よく見ると鈍く輝いている。もしかして土ではなく金属なのか?それを放たれた大猪はひとたまりもなく、動かぬ肉塊となった。そのままエルフも走り去る。
「追え!!」
もう既に100匹を切ったであろう俺様の魔獣達が全力で追う。
俺様も犬の背に乗って一緒に追う。
二人とも逃げ足が異常に早かったが、その内体力が尽きるだろうと思っていたら、案の定、エルフのスピードが落ちてきた。
これで捉えたと思ったら、獣人がスピードを落としてエルフの後ろに回り込み、エルフを抱き上げて再びスピードを上げた。
信じられるか?人一人を腕で抱き上げたまま高速で走り、それでいて、いつまで経ってもスピードが落ちない。
魔獣達も全力で追っているが、引き離されることはなくても、追い付くこともできない。
このままでは追いつけない。
そう思った時、俺を乗せたままの犬が速度を上げて群れからとび出す。もう少しで二人に追い付けるという所で立ち止まり、鋭い爪の生えた前肢を振り上げ、斜め下に下に薙いだ。もう片方の前肢も同様に振り下ろす。
これは「風魔法」の強力なエア・カッターだ。
獣人族の両足のふくらはぎに数本の赤い線が走ったかと思うと、その皮鎧の背中部分にも数本の線が走る。
獣人は走ってた勢いのまま前方に倒れ、その腕に抱かれていたエルフも前方に放り出され地面を転がる。
獣人の背中の傷は、皮鎧のおかげか大したことが無いように見えるが、足の傷は結構深そうだ。もう逃げることは出来まい。
やっと追い付いた魔獣達が二人に迫り、俺も犬の背から降りて二人に近付く。
そして、起き上がった二人に問うた。
「お前達は一体何なんだ?」




