アルト2-3
私は後ろを振り返って確認する。
「何だ? 私達に何か用か? つまらない用事で話しかけてきたんなら、殴るぞ」
「もう殴ってんじゃねえか!」
見ると、私達から2M程離れたところで、横向きに倒れ自らのであろう吐瀉物にまみれ腹を抑えている男と、倒れた状態で顔面を抑えて転がりまわっている男の傍に、今私に文句を言ってきた男が立っていた。その男の顔を見る。人間族のようだ。
「ひっっ!!
いや・・・、あの・・・、見たところ、お二人ともハンターになったばかりの新人・・様のようにお見受けさせていただきやして、いえ、まして・・・。
よかったら、ハンター経験の豊かな俺達、いや僕達がいろいろ教えてやろうかと、いえ、差し上げようかと思いまして・・・」
「要らん! 失せろ!」
「はっ、はひいぃぃぃ」
その男は、倒れた二人の襟首を掴み、引き摺ったままギルドから出て行った。
「アルト、ギルドでの喧嘩は良うないよ。特に、口より先に手が出るんは直さんと」
「喧嘩なんてしてない。注意しただけ。
それより、依頼、依頼」
マールがお説教し始めたので、否定しておく。マールは話も長いが、お説教も長いのだ。改めて掲示板を見ていく。
マールはまだ何か言いたそうだったが、肩を竦めた後、掲示板を見始めた。
大きな掲示板に貼られた依頼書は4級や5級のハンター対象のものが殆どで、3級や2級対象のものはとても少ない。
少なくてもあるにはあるんだが、依頼料は良くても、手間と時間がやたらかかるような内容のものばかりだった。
「パス」
「そうやな。少なくとも2~3日かかるようなもんばっかで、とても半日で終わるようなもんは無いな。
しゃあない。今日も森の奥で狩りをして、良い肉と良い素材を取って来るか」
「あっ! マールさ~~ん! アルトさ~~ん! ちょっと、ちょっと!!」
依頼は受けずに狩りに行こうと思ったところに、3級以上専用の依頼受付カウンターにいる女性のギルド職員に声を掛けられた。聞こえなかった振りが出来ない位の大声で。
目ぼしい依頼が無かった場合、今日こそは彼女に見つかる前にこっそりギルドを出ようと思ってたのに。
「ようウチ等がおるん、わかったな」
「ギルド内であれだけの騒ぎを起こしておいて、何を言ってるんですか!」
マールが冷たい目で私を見る。
注意しただけだもん。周りが勝手に騒いでるだけだもん。
「それより、例のギルドからの依頼、受けてくださいよ~。カイデン支部登録の3級以上のハンターは結構いるのに、誰も受けてくれないんですよ~」
そう。ここのところ毎日、この受付嬢にこの依頼を受注するよう頼まれている。
この受付嬢、人間族なので、見た目から判断するとまだ10代後半。なのに3級以上の依頼受付カウンターを任されているということは、余程能力が高いんだろう。
その彼女をしても、人口が多いことから3級以上のハンターも多いと思われるこのハンターギルド・カイデン支部で、2週間以上引き受け手を見つけられていない依頼だ。
ギルドからの、と言うよりは国からの依頼なんだろう。
ここ半年ほどの間に、このダフト王国内の6つもの村が全滅。当初、原因は魔物等の暴走だと推測されていたが、いろいろとおかしな点が指摘され、現在では原因不明とされている。
殺された人の遺体から、間違いなく魔物等に殺されているのは明らかなのだが、襲われた村の住人や、最近では警備を引き受けていたハンターも、全員が殺されているため、何が起きたかを正確に把握している者がいない。
また暴走は、例えば何かから身を守るために自分のテリトリーを捨てて逃げなければならないなど、魔物等も理由があって必死で移動するものだ。なのにこの件では、魔物等は人を殺した後、言葉は悪いが、食事をしているのだ。つまり、移動する先に村があったから襲っただけではなく、襲った後で殺した人を喰っている余裕があったということだ。しかも、1種類や2種類ではなく、様々な魔物や魔獣の歯形の跡が見つかっていると言う。もしかしたら、人を喰うために村を襲ったのではとの説もある。
さらに、これまでの暴走では、移動する魔物等の群れを、遠くから偶然でも見た者が必ずいたものだが、今回、村を滅ぼすほどの魔物等の移動を観測した者が一人もいない。
最後に、暴走だとしたら発生件数が多すぎる。前回暴走が観測されたのは4年前で、王都近郊の森からだった。この時も原因不明だったが、他の地域に波及するなんてことは無かったらしい。それが今回は、広いダフト王国で、一つの地域に偏ることなく、半年の内に6回も発生するのは不自然極まりない。異常気象による食糧不足もなく、超危険な魔物の他国からの流入も観測されてない状況で。
ただ、被害にあった村の周辺では、いつもより魔物等の数が減っているような気がするとの報告が、ハンターから当地のギルドに上がってはいるらしい。




