マール2-5
「じゃあ、ちょっと失礼します」
と言って、ファルがドア(?)を開ける。
そこから見えたのは、見慣れた、腰掛けて用を足すタイプの便器。
その中に入っていくファルを、ウチ等は茫然と見送る。
しばらくしたら、ファルが出てきた。
服も、さっきまで着てた作業着から、綺麗な服に着替えてた。
「これ、誰でも使えるん?」
思わず食い付いてしもた。
狩りの最中の排泄は、ハンターにとって切実な問題や。
特に、ウチ等のような女性ハンターにとっては、大問題や。
狩りをするような場所には、当然、トイレは無い。有る筈がない。
だけん、絶対に他人の目が届かんような場所、森の奥や、背の高い草木の茂みなんかを探して、魔獣共がおらんのを確認して、感じられる範囲で周囲に魔獣共の気配が無いんも確認して、「魔物、来るな~、来るな~」と念じながら、可能な限り手早く済ませて、水魔法で手を洗うて、急いで仲間の所に戻る。
これがどんだけ大変か!
いつも、そんな苦労をしよるウチ等の前で、ちゃちゃっと「土魔法」(やと思う)で、いとも簡単げに、完全な個室のトイレを作ってしまいよった。
「ええ、誰でも使えますよ。
あ、ただし、水は自分で「水魔法」で出して、流してもらうようになります。
それと、紙は持ち込みになります。お持ちでなければ、僕のを使ってください」
「これ、強度はどんなん?」
「ああ。ここで出る魔獣等では、このトイレの壁を突破することはできないと思いますよ。
それに、地面の下もしっかり固めてるんで、岩モグラでも手は出せません」
そう言いながら、ファルはトイレの入り口の扉や側面の壁をノックするみたいに拳で叩くが、殆ど音がせん。よっぽど硬いみたいや。
「このトイレ、使わせてもろても良え?」
「良いですよ」
ウチはドアを開けてトイレに入る。
ご丁寧に、内側から鍵がかけれるようになっとんで、鍵をかけて、改めて内部を見回してみる。
薄い茶色の壁と天井に囲まれた広めの個室に、見慣れた腰掛け式の白い便座。
他人の目も、魔獣共の脅威も気にすることなく用を足したら、「水魔法」で出した水で流してしまえて、臭いも戻ってこない。
後は扉近くの壁に設置された手洗い場で手を洗たら、すっきりさっぱりや。水はやっぱり自分で出さないかんけど。
トイレから出ると、アルトが入れ違いに入っていった。しばらくして出てきたアルトも、とてもすっきりした顔をしていた。
「じゃあ、トイレを片付けますね」
ファルがトイレに手を向けると、あれほど頑丈やったトイレの壁が、天井が、ドアが、まるで溶けるように崩れていき、すぐに洞窟の床に戻った。多分、一度目を離すと、もうどこにあったか分らんやろな。
「置いとったら良えのに。もったいない」
「いやぁ、邪魔になりますし。それにこれ位なら何時でもすぐに作れますから」
家にあるような水洗トイレ(水は自前やけど)を「土魔法」で再現するんが、簡単なわけあるか! と心の中でツッコんでたら、ファルが続ける。
「これはサービスです」
ファルがウチ等2人に掌を向ける。
さっきまで汗や土に塗れて身体がべとべとしてたんが、急にさっぱりしたんが分かった。
いや、それだけやない。服(防具)まで綺麗になっとる。洗濯しても落ちなんだ染みまで無くなっとる。何やこれ?もしかして「浄化魔法」か?この子、どんだけ魔法使えるんや?
アルトも綺麗になったんが嬉しいんか、ニコニコしとる。槍までピカピカや。
「ところで、この迷宮のことはギルドに報告しますか?
それだったら僕は、明日からここには来ないようにします。
ここに来てるのが家族にバレるのはマズいんで」
ファルが心配そうな顔で訊いてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・
アルトも難しい顔をして悩んどる。
いっぱい助けてくれたファルのために黙っといてやりたいけど、ハンターとしてはギルドに報告するんが義務やしなぁ。
ここまで見る限り、ファルはハンターとしても十分すぎるほどの強さがあるけん、狩りが出来んのはもったいないし。かと言うて、未成年が狩りをしとんを放っとくんもなぁ。
あーっ、困った。どないしょ?
それにしても、トイレと浄化魔法、羨ましいなぁ。あったら狩りが格段に快適になるやろなぁ。良えなぁ。
そんなことを考えながらファルの顔をもう一度見た時、フッと頭に浮かんだことをそのまま口にしてしもた。
「ファル。 ウチ等のパーティーに入らへん?」




