マール2-1
ヤバい。油断してた。
倒した思てた狼が生きとって、腕に噛み付かれただけやなく、その勢いで地面に転がされた。
右腕に激痛が走る。
狼はウチの腕を喰い千切ろうとしとんか、牙を深く喰い込ませたまま、倒れたウチの上半身を前肢で押さえて、何度も強く後ろに引っ張ろうとする。
ウチは掌を上に向けた状態で左手をゆっくりと伸ばして、狼が一旦後ろに引く力を抜いて、少し私の方に戻ってきたタイミングで、狼の腹に左手をあてて、ウォーター・アローを上向きに放った。
腹を貫かれた狼は、すぐにウチの右腕を放し、力なく倒れた。
極度の緊張状態から解き放たれたウチは、何も考えることが出来んで、しばらく仰向けに寝転がっとった。
そういえばアルトは?
「アルト、大丈夫?」
ウチは急いで寝返りを打って、手をついて立ち上がろうとしたけど、右手に激痛が走り身体を支えることが出来んで、もう一度地面に転がる羽目になってしもた。
見たことない少年が駆け寄って来る。
ダークブラウンの髪、白い肌に青い瞳。人間か?まだ成人はしてないように見える。
アルトも後ろから付いて来よるけど、誰や?こいつ。
「あんたは何や? 魔物か? 人か?」
「人間です。怪我を治療します」
そう言うと、少年は何かをちょっとだけ考えた後で、多分高度な魔法を、しかも複数かけてきた。
ウチもアルトも治癒魔法・小は使えるけど、こんな早さで、完璧に傷跡も残さず直せるもんではないで。
しかも、深く噛まれとったけん結構血も付いとったし、転がされとったけん土とかの汚れも結構付いとったんやけど、服も身体も、まんでがん綺麗にしてもろたみたいや。
ホンマ、何なんや?こいつ。 アルトが後ろで羨ましげな顔しとるけど、何でや?
「怪我を治してもろとってこんな事言うんもなんやけど、君は一体何なんや?
今、何かすごい魔法を何個か使たみたいやけど、何したんや?」
「とりあえず魔獣等が来ないところへ移動しましょう。話はその後で」
そら、そうやな。仕方ないんで、黙って付いて行く。
一番近くの、細長くて高い柱みたいなのに向こうとるみたいや。
しばらく歩いて、石?の柱?みたいなのに着いた。
周囲に魔獣共の気配も無い。
とりあえず、喉がカラカラなんで、水を飲む。アルトも一緒や。
もう一度右腕を見てみる。
どこ噛まれとったか分からん位に傷跡は残っとらんし、かなり失血したはずやのに、ここまで歩いて来て、ふらつくことも無かった。
ここまでの戦いで結構魔法使たけん、魔力量の残りが大分厳しいなっとる。この少年がおらなんだら、多分ポーションで傷を塞いどったと思う。
ポーションは体表から傷を塞ぐだけで、深い傷の内部は完治せんし、出血した分の血液の補充は当然無い。
それに対し治癒魔法は、傷の程度に応じたレベルの魔法をかけといたら完治するし、失った血液も補充してくれる。
とは言え、あんな速さで傷が治るんも初めて見たし、血液の補充も失った分全部が一遍に戻るとは思わんかった。狼達と戦う前より調子が良え位や。
一体、この少年は何者なんや?
そう思て少年をチラチラ観察しとると、少年がウチの顔をボーっと見とるんが分かった。
ふふん。ウチに見惚れとるな。
そら、そうやろ。ウチはエルフ族の中でも綺麗な方や。と、自分では思とる。
とか考えとったら、少年の視線がウチの胸の辺りに来た。
成人前の少年とは言え、10歳はとおに超えとるやろから、綺麗なお姉さんに見惚れるんはしゃあない。ウチも罪作りな女や。
「君はなかなか、エッチな子やな」
お色気たっぷりに言うてみた。
すると、少年の目が泳いで、またウチの方に戻ってきた。
いや。ちゃう。こいつ、アルトの胸と私の胸を見比べよった!
「何か、失礼な事考えとんちゃう?」
ウチかて人並みに胸はある。いや、他の人よりちょっとだけ大きい筈や。細身やけどナイス・バディな筈や。
やけど、アルトと比べられたらアカン。一気に可哀そうな子になってまう。
アルトは、胸とお尻は大きいけどウエストは細いという、女のウチから見ても、ボン・キュッ・ボンを体現しためっちゃ良え女や。
そやけど、あからさまに見比べられたらヘコムで。
いかん。これ以上考えたら、暗黒面に落ちてまう。切り替えるんや、ウチ!
「ところで、君は何なんや?
因みに、ウチはマール。
歳は15。
王都から来た3級のハンターや。
そんで、」
私が掌でアルトの方を指し示す。
「私はアルト。
歳は同じく15歳で、私も3級のハンターだよ」
あれ?
アルトが男と話すときは、いつもつっけんどんな感じやのに、今日はマイルドな・・・、いや、笑顔まで見せてえらい可愛らしい。
どしたんや?アルト。




