ファルーサ・カイデン3-1
あれから一か月が経った。
これから敵の攻撃を寄せ付けない、つまり痛み無しに、強く豊かなハンターになるための一歩を踏み出すところだ。
この一か月はそのための準備をしていた。
怪我をした翌日の夕方には、痛みも悪寒等もすっかり無くなっていた。
「生命力量回復速度向上4」と中級(だったことは後から知った。結構な高級品)のポーションを使って丸一日で治ったということは、それらが無ければ、一体どれ程の期間痛い思いをしていなければならなかったのか?考えただけでゾッとする。
ポーションも、中級ともなればかなりの効果がある。俺のスキルや治癒魔法とは異なり、失った血までは回復してくれないが、結構深い傷口でも塞いでくれるのである。とりあえず止血のために塞いでいるだけで、治癒したわけではないため、動くと傷口が開くこともよくあるらしい。
そのため、痛みが消えていても、怪我が治っていても、家族は、特にお母様達は俺が動くことを許さず、一週間ベッドで横になっていなければならなかった。
それならばと、俺はその間、本を読んで知識を得ることにした。そのため、痛みが無くなったのを幸いに、家の図書室に本を探しに行こうと思って部屋を出たところで、丁度仕事から帰ってきたセリスお母様と鉢合わせした。いや、セリスお母様としては、いつも通り俺を構いに部屋に来ただけなんだろうけど、そこで医者に安静と言われている俺が歩いているのを見つけた。
お母様達は3人とも俺をとても可愛がってくれるが、その分、お説教も3倍になるのである。セリスお母様を始め、セリスお母様から話を聞いたマリアールお母様とボニータお母様からも別々に怒られ、ベッドから出ることは出来なかった。
そうなると、字が読めるフットマンかメイドに頼んで本を持ってきてもらうことになるのだが、今俺が知りたいのはこの国とカイデン領の社会制度と現状、歴史。そしてカイデン領内でも、この家近辺で出てくる魔獣や魔物の種類。
前者については、ハンターと言う職業に俺は本当になれるのか?なれるのであれば、どこでどのような手続きをするのか?ハンターと言う職業は社会的にどう見られているのか(要は、なりたいと言った時に、家族に反対されそうかどうか)?そして、歴史上、最強と語られるハンターはどれ程の強さだったのかと、最強と語られる魔獣等は(絶対会いたくはないが)どれ程の強さだったのか?
後者については、今後守りを固めるにしても、何に備えておかなければならないのか?そのために何のスキルレベルを上げておかなければならないのか?それらを知らなければならない。要は、もう二度と今回のような痛い思いはしたくないのである。
しかしながら、10歳の子どもがそんなことを知りたいと急に言い出したら、誰でも不審に思って、周りに相談、いずれは家族の耳に入って何のつもりかと問い詰められるだろう。
そのような事態は避けたいので、部屋に来たメイドに、魔獣等の図鑑を見てみたいので、取ってくるように頼んだ。一応、この近辺で魔獣等から身を守るために気を付けなければならないことを知るためだと、聴かれてもいないのに言い訳をしたら、しばらくして執事が魔獣等の図鑑と、カイデン領内での分布をまとめた本を届けてくれた。ついでに、しっかり勉強して、今後危ないところには近付かないようにと言われた。子どもらしく、「はーい」と可愛らしく(意識したわけではない)返事をしたら、ニコニコしながら部屋から出ていった。
何種類かの図鑑を見て分かったこと。それは魔獣と魔物の違いで、図鑑によって分類の方法に差があり、それを小難しく解説してくれているのだが、どの図鑑にも「なお、一般的には」という尚書きが必ずあり、その後はどれも「四足歩行をするのが魔獣、それ以外が魔物と解されている」とあった。じゃあ、その一般的な解釈だけで良いじゃん!
他には、魔獣も魔物も、他のもの(同種族を含む)を倒すことによって、SPを得て強くなっていくが、無駄死にをしないために彼我の実力差には敏感で、強い敵からはさっさと逃げるらしい。なので、街や家の中で小さな虫やネズミ等の小動物と遭遇しても、向こうが逃げていくとのことである。もし倒せたとしても、獲得できるSPは1にも遠く満たないらしい。
怪我をしてから一週間後に、やっと家の中に限っての歩行許可が出た。これで、自分で歩いて図書室に行って、好きな本を読めるようになり、ある程度のことが理解できた。子爵とはいえさすがは貴族のお屋敷だけあって、図書室にも結構な蔵書がある。全部読めればかなりの知識量となるのだろうが、如何せん10歳では知らない文字が多く、読める本は限られていた。
そのような中で知り得た知識。
まず、ハンターについて。
成人がハンターギルドに行って登録申請すれば、誰でもハンターになれるらしい。
登録後は6級から始まり、実績を積むことによってランクが上がる。4級になれば一人前と認められ、3級ともなれば経済的に生活に困ることは無いとのこと。その分、危険な仕事が増えるのだが、それをこなせるだけの実力があるからこそ、そのランクなのだろう。
3級なら間違いなくなれるだろうと思われるほどの実力を、成人するまでの5年間でつけておけば、ハンターになりたいと言っても、家族の反対も然程強くは無いだろう。
怪我をしてから二週間後に、我が家の敷地内であれば好きに過ごしてよいこととなった。外には遊びに行けないが、日常生活は戻ってきた。
これまでは、午前中に2時間程家庭教師から勉強を教わっており、読み・書き・計算を日替わりで習っていた。勉強は好きではなかったが、一日は24時間もあるらしく、その勉強の時間、そして食事の時間、お風呂の時間、寝る時間以外は何もやることがなく暇だったので、とりあえずやるべきことはやるという理由で、勉強の時間を嫌うということもなかった。
午後は自由時間だったが、10歳からは午後に武術の時間が1時間加わる。剣術、槍術、弓術、体術を日替わりで習い1日休み。1週間は10日なので、どれも週に2回ずつ。本来であれば、俺が領軍の訓練所に出かけて行って教えてもらう予定だったのだが、10歳になった途端に怪我をしたため、まだ1度も行けてないし、まだ外出も許可されていない。
そこで特別に、各武術の教官やその補佐クラスが、屋敷まで教えに来てくれることとなった。
さすがは三男とはいえ、領軍のトップである領主の息子。他では考えられない特別待遇である。
教えに来る方は、領主の息子である俺がハンターを目指しているなんて思いもしないだろうから、親に言われて渋々武術を習っている子どもに適当に型だけ教えておけば、昼食後の腹ごなしにもなると考えているだろう。
俺としては武術の基礎は習っておきたいし、痛い思いはしたくないので、願ったり叶ったりである。
そうして始まった武術の時間は、正に思っていた通り、武器や身体の使い方といった基礎講座と、型の練習や素振りばかりであり、痛い思いはせずに済んだ。
また、好きではなかった勉強の時間も、読み・書きの能力に不足を感じていたことから身が入るようになり、また教材に使っていた、これまでは興味を持てなかった歴史の本が徐々に理解できるようになっていくことが嬉しかった。




