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ベルーサ・カイデン1-2

 ファルに甘いのは妻達だけではない。他の子ども達も大甘だ。

 長男も次男も、しょっちゅう出かけた先で、ファルへのお土産としてお菓子や本、玩具などを買ってきている。

 長男は「ファルを次期領主に」と何度か言って来たし、それを聴いた次男は「それならば兄上がファルの補佐をお願いします。私は商業ギルドで商売の勉強をします」と言い出す始末だ。

 長女は、ファルが0歳児の時から、暇があればファルに話しかけて、言葉を覚えさせていたし、それを見ていた次女は、時間のある限りファルを抱っこして絵本を読み聞かせ、文字を教えていた。

 こうやって家族みんながファルを構っていたので、私の仕事にたまに空きができた時も、ファルと話すこともままならなかった。

 しかし、家族みんながファルに愛情を注いで構い倒したおかげか、ファルはとても頭が良いらしい。

 時々意味不明なことを言うらしいが、その言葉を周囲の者がよくよく吟味してみると、思わぬ発明品に思い至るらしい。

 車椅子が、まさにその発明品である。

 ある時、長男が足を怪我して歩けなくなったが、政務を勉強中である長男としては仕事を休むわけにはいかない。

 そんな時に、ファルが言ったのである。

「椅子に車輪を付けて、誰かが押してあげれば、お兄様はどこにでも行けるんじゃない?」

 その言葉からヒントを得た者がいた。

 椅子の形状、車輪の大きさや数、それを押すための取手、止めるための制動装置。

 様々に研究・改良がされるうちに長男の怪我は完治していたが、その成果としてできた車椅子は、足を怪我した時の一時的な補助用具としてのみではなく、足の不自由な人の長期的な介助用具としても使われ始めている。

 先日も、我が領で、と言うかわが国で初めて開発された新型の鉄道車両のお披露目会に、ボニータがファルを連れて行った時、ファルが線路の要らない小さな車両に言及したらしい。

 うちの家族は、ファルの何気ない言葉を聞き逃さない。

 ボニータはそれを聞いた時、王都やそこまでの要所に物資の積み下ろしをするための施設を作って、そこから、その線路の要らない小型車両で必要な物資を必要とするところに細々と届けることが出来れば、物流に革命が起きるのではないかと思ったそうだ。

 ただし、蒸気機関はそんなに小型化出来ないだろうと思い、買い与えた鉄道車両の玩具で遊ぶのに夢中になっているファルに、その小型車両はどうやって動くのか訊いたそうだ。

 ファルからの答えを期待していたわけではなかったボニータに、それでも遊びながらファルから返事があった。

「電気とかが使えるんじゃない?」


 電気とは、キスナ国で発明(発見?)されたエネルギーで、私には詳しく解らないが、銅のコイルの中で磁石を回すと発生するらしく、それによって生み出された電気によって明かりを灯すことが可能だ。

 その電気を安定的に生み続ける技術もキスナ国で開発され、我が国にもそれが輸入されたことにより、街灯や、裕福な家では部屋の照明にも用いられている。

 キスナ国では、この電気を動力として利用する技術を開発しているとの噂も聞こえてきている。

 ボニータは家に帰ってくるなり、マリアールとセリスを招集し、その後で私や長男、次男の事を忘れていたのに気付いて私達も呼び出し、ファルの言ったことを伝えた上で、我が領の工業ギルドのギルド長を(私の名で)呼び出した。

 領主である私からの密命(とボニータが言っていた。私は何も言ってないぞ!)を受けた工業ギルド長は、可能性を調べるので1日欲しいと辞去していった。

 次に工業ギルド長が来たのは翌日の早朝。

 何かの嫌がらせかと思ったが、もの凄く興奮した様子だったので、家の中に通し、妻達も呼んで話を聞いた。

 工業ギルド長によると、理論的には可能らしい。

 この場で、我が領における、電気を動力とした小型車両開発のための研究が決まった。

 荷運びに使役する魔獣の負担を軽減し、より多くの物資を運搬するための物流の革命を起こす。

 その時にいた者達は、もの凄いテンションで、しかし小声で、このように誓い合った。

 それにしても、ファルって本当にすごいのかな?

 子どもならではの無邪気な思い付きなんだとは思うが、実現すれば世界が変わるぞ。


 なお、ファルの身体能力に関しては、決して高くないと思われていたのだが、これもよく分からなくなってきた。

 ある日、ファルの剣の練習を見ている領軍の兵士が、ファルは天才だと私のところにすごい勢いで報告に来た。

 詳しく話を訊くと、剣の素振りで、尋常ならざる鋭い振りを連発したのだそうだ。

 しかし、次の練習からは、そのような鋭い振りは一切見られなくなったとのこと。

 ああ、残念だが、やっぱりファルは身体能力には恵まれていなかったか、と思っていたある日、ファルの体術を見ている兵士が、練習後にブツブツ言って悩んでいた。

 どうしたのかと問うと、ファルの拳による突きも手刀も蹴りも、どれも素人相手でも当たりそうにない程才能は感じられないのだが、組手をしていて、こちらの攻撃も全て逸らされたり躱されたりして、全くファルに届かないので、どう評価してよいか分からなくなってきたとのことだった。

 そのため、ファルの身体能力に関しては、現状、よくわからないとしか言えないのである。


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