ファルーサ・カイデン5-1
3の月になった。
昨年の12の月になった頃から本格的に寒くなり始め、年が明けて1の月と2の月は大変寒かったが、「低温耐性」のある俺には何ともなかった。
今は3の月になり、暖かい日も増えた。
そんな中、今日は体術の練習だ。
俺の形の練習を見ているだけじゃあ寒かったのか、先生役の領軍の兵士が、12月頃から組手を始めた。
「体術」も今はレベル5「敵単体に対し拳撃または蹴撃による衝撃波を飛ばし攻撃する」まで上げているので、気を抜くと、相手が子どもだと思って気を抜いている先生を倒してしまうような攻撃になってしまう。
そのため、形も組手も、気を抜かずに弱いふりを続けなければならなかった。
ただ、最近先生が、練習が終わった後に一人でぶつぶつ言っている。
前から何を言っているのか気になっていたので、今日は気付かれないように少しだけ近くに寄って、耳をそばだててみる。
「何故だ?
俺の攻撃が全く当たらない。いや、当たったことが無い。
ファル坊ちゃんの攻撃は全然なってないのに、防御だけ完璧なのか?
いや、そんな事あり得ない。
・・・・・
じゃあ、やっぱり俺の攻撃がなっていないのか?ダメダメなのか?
領軍の中では体術最強と言われていたのは嘘だったのか?
いや、それでも領軍の中に、体術で俺より強い奴はいない。
じゃあ、何故だ?」
と言うような事を、繰り返しブツブツ言っていた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、10歳の子どもが「体術5」を持っているなんて言える訳もなく、そっとその場を離れる。
さあ、森にSPを稼ぎに行こう。
昨日はボニータお母様にお出かけに誘われたので、森には行けなかった。が、不満は無い。
と言うのも、昨日は領都カイデンと王都ダフトを結ぶ鉄道の、新型車両のお披露目式があり、商業ギルドのギルド長であるボニータお母様が俺の席も用意してくれてたおかげで、かなり近くで新型車両を見ることができ、大変満足できた。
因みにこのカイデン領、隣接国である獣人族が治めるキーフィア国、エルフ族が治めるシルクトレーテ国、そしてドワーフ族が治めるキスナ国へ通じる街道の交わる地であり、多くの人族や、そして物、金、情報が集まる上、人間族の治めるダフト王国王都ダフトへと街道の通じる唯一の地であることから、国王からの信用度が窺えるというものである。
逆に言えば、国内のみならず、国外からカイデン領に集まる物資を王都ダフトに送り続けなければ、王都ダフトに住む100万人を超える人達が生活できない。
もちろん、王直轄領の中には王都以外にも町や村があり、その周囲には穀倉地帯やそれ以外の農地が多い。
また王直轄領は、東西方向で見れば我が国の中心付近で、南に突き出すような形になっていて、海に面している部分が多い。そのため、沖合には大型の海棲の魔物がいるため、海運はおろか漁も出来ないが、近海では中・小型の魚介の魔物が獲れ、王都の住民の腹を満たしている。
しかし、王都の住民全員の生活を支えるには全く足りないのである。
そのため、昔から我がカイデン領は物資を集めて、王都に送り続けてきた。
方法としては、「その他」の「使役」スキルでテイムした馬や牛、走竜等、運ぶ物の大きさや重さ、急ぎ具合によって様々な魔獣等が牽く荷車によって運んできた。
我が領では多くの運送会社に出資し、育て、物流網を構築するとともに、「使役」スキルの獲得を推奨、スキルのレベル毎に獲得に対する一時金を支給するなど支援し、「使役」スキル持ちを増員し、スキル持ちは運送会社に厚遇にて雇われた。
そのようにして物流量が増えるにつれ、我が領の人口も増えてきたらしいが、最終的に様々な物資が集まる王都の利便性が上がるにつれ王都の人口も増え、我が領から王都に送らなければならない物資も増えてきた。
従来の方法ではもう限界。
そんな時にキスナ国で開発され普及し始めていた、蒸気機関を動力とする機関車による鉄道輸送に目を付けたのが、先代カイデン子爵であった。と言うか、当時、先代の補佐をしていたお父様と結婚したばかりのマリアールお母様と、次いで嫁いで来た我が領最大の商家の長女であったボニータお母様であったらしい。
機関車、貨車、レールと言った初期投資は大変だが、それを超える価値を持つ利権が手に入ると、二人は先代を説き伏せた。
そしてマリアールお母様はお父様と先代と共に王都に出向き、輸送手段大幅拡充のための鉄道の導入について、王様を説得した。先代もお父様も、その場にはいたが口を挟むことは出来なかったと聞く。
一方、ボニータお母様は当時の商業ギルド長と工業ギルド長を説き伏せ、我が領を、我が領と王都を結ぶ鉄道の整備拠点とすることとした。また、その勢いで王都の商業ギルドと工業ギルドを強襲し、話には聞くが見たことのない新技術の導入を渋る両ギルドに対し、資金は全てカイデン領が出し、その後の利権もカイデン領が全ていただくこととなったらしい。
そして、街中の用地買収も含めて約10年でレールを敷設し、俺の生まれたころ(10年前位)に、貨物専用として鉄道の運用が始まったとのこと。
これにより、荷物を満載した荷車を魔獣等に牽かせて3~4日かかっていたものが、荷物を持たない人一人だけを乗せた走竜を乗り継いで休みなしで走り続けたのと同じ、朝我が領を出て夕方に王都に着くという短時間で、大きくて重い荷物を大量に運ぶことが可能になった。
ただし、最初はキスナ国から技術者を招聘し、車両を購入した後、パーツで輸入してから領内で組み立てると言うことをやっていたらしい。
その内、領の者で車両の整備をしていくうちに車両の構造にも明るくなり、車両の組み立ては自分達で出来るようになった。
その頃から、自分達での車両の開発を始めたらしい。
最初のころは、どうしてもキスナ国の車両の性能に追いつくことが出来なかったが、何年も試行錯誤を重ね、やっとキスナ国産の車両と同程度の車両を開発できたとのことであり、そのお披露目式が昨日だった。
今後は、蒸気機関に代わる新しい内燃機関を開発し、キスナ国の物よりより早く走り、より安価に製造でき、より燃費の良い車両を開発し、これまで単線だった線路も複線化して、輸送量の大幅な増加を目指す、とボニータお母様が言っていた。
「頑張って車両を小さくして、線路が無いところでも荷物が運べるようになると良いね。そしたら、駅から離れたところにも荷物を届けられるよね」
何となく思ったことを話すと、暫く俺の顔をじっと見ていたボニータお母様が、新型車両を模した玩具を買ってくれた。
大人のような考え方をしているが、俺は10歳の子どもなので、嗜好は身体に引っ張られる。なので、玩具は単純に嬉しかった。この後、ボニータお母様に色々話しかけられていたような気がするけど、玩具に夢中でよく憶えていない。




