アウトゥイ・ウィアーズ1-1
俺は、この大陸に来てから撒いた種の内の1つから、芽が出ていることに満足していた。
多くの仲間が上からの命により、過去から現在までこの大陸目指して旅立ったし、今後も続くと思われる。
海にも凶悪な魔物が多く生息していることから、幸運にもこの大陸まで辿り着ける同胞は極少数だと思われるが、それでもこの大陸の各地で任務を遂行していることだろう。
さて、いくら種を撒いても、殆ど芽も出ずに終わる中で、「取り敢えず」程度の軽い気持ちで撒いた種から芽が出た。
期待を込めて撒いた種が全て期待外れだったので、この種にも期待はしていなかったのだが、世の中そのようなものなのかもしれない。
この種、と言うか、この男を見つけたのは、もう10年位前になるか。
王都ダフトの中ではあまり質の良くない、安い酒場で泥酔し、管を巻いていた。
「その他」の「念話」スキルを使ってみる。俺は「念話4」まで獲得しているが、「念話2」で「他人の感情が何となくわかる」ようになる。
この男の感情を探ってみると、大層お怒りの様である。
少し興味がわいてきたところに、この男から離れた席で飲んでいる男達が「あいつ、また悪酔いしてるぜ」みたいに話しているのが聞こえてきたので、その男達に大銅貨をそれぞれ握らせ、世界全体に不満があるかのようなあの男の事を訊いてみた。
この男達もあの男の事をよくは知らないらしいが、よくこの酒場に来て、強くもないのに1人で安酒を飲みながら、いつも独り言で不満を呟き続け、つぶれる寸前でフラフラしながら帰って行くらしい。
周囲の客にあたるわけではないので、店の雰囲気を少し悪くするだけで、常連客にとっては特に気にしなければならないような者ではないらしい。
ただし、いつも似たようなことをボヤいているので、常連客は大雑把には状況を把握しているらしい。
この男の姓はモードン。名まではわからないらしい。
以前、王国軍にいたがクビになったらしく、まずはそこに大層不満があるらしい。どうも、自分を特別な才能を持った凄い人間だと思っているらしく、周囲の連中は見る目のない馬鹿ばかりだと思っているそうだ。それで毎日深酒を始めたらしい。
それでも仕事をしなければ生活は出来ないのでハンター登録をしたものの、ソロでは大した成果を上げることができず、自分より下(だと思っている)の連中が多く稼いでいるのを見て、依頼を受けることが少なくなり、より酒浸りになるようになったらしい。
これに耐えられなかったのが家族で、生活費を稼いでくるどころか、酒代に浪費するばかりで、ついには家族にも見放されたが、それでも「今まで養ってやったのに、自分達のことばかり考えて、恩も返さない恥知らずが」と、これにも大層不満があるらしい。
俺はあの男に益々興味を持ったが、こちらのテーブルで男達から情報収集をしていたのを見られていたら、今話しかけても警戒されるかもしれない。時間は十分にある。そう考え、話をしてくれた男達に礼を言って、俺は店を出た。
例の酔っぱらいの男は、俺のことをすぐに忘れてくれるだろうが、店の人間はしばらく憶えているかもしれない。商売人は、結構人の顔を憶えているものだ。
そう考え、1か月位後に王都に来た際、似たような時間にその店に行くと、・・・居た。1人で飲みながら、また管を巻いている。
俺は敢えて、その男の隣のテーブルに座り、しばらく1人で飲んだ後、男に話しかけた。
「私に酒を奢らせてもらえませんか」
「何だ、テメーは?」
「いきなり、申し訳ありませんでした。
私はアウトゥイ・ウィアーズと申しまして、商人でございます。
あなたの話が聞こえてしまったのですが、実は私も王国軍には、少々腹に据えかねることがございまして。ちょっと、私の話を聴いてもらって良いですか?
大将。私とこのかたに酒のおかわりを!」
「・・・・・?」
「いや、私は王国軍相手に商売をしていましてね。いつもいつも横柄な態度で、無理な価格や納期ばっかり言ってきて。
納品した商品についてはありもしない欠陥を指摘してさらに値引きさせられて。あれ、きっと、担当者の懐に入ってますよ。全部。
それで、少し前に、ちょっとだけ値引きを渋ったら取引停止だ、違約金だ、と騒がれて。
さらに賄賂まで要求されて。王国軍から取引停止を喰らった店だとのレッテルを貼られて、王都で商売できなくなっても良いのか、と脅されたんです。
全く、王国軍にはろくでもない人間がいますね!」
と、架空の話を並び立て、憤っている振りをした。
「そうだろう!あいつらは何もわかっちゃいない馬鹿ばかりだ!俺様をコケにしやがって!いつか後悔するぞ!お前もそう思うだろ?」
話にのってきた。
「当然でしょう。王国軍があんなんじゃ、この国は大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけがないだろう!王国軍だけじゃない。ハンターたちも大して強くもない奴らばかりだ!なのに俺様を馬鹿にしやがって!ギルドの奴らも、この俺様を全然尊敬しない。どころか、話さえ聴きやがらねぇ」
「あなたも相当ひどい目にあったんですね。一体何があったんですか?良ければ聞かせてください。
すみません、大将!酒をもう一杯ずつおかわりください!」
適当に話を合わせながら、男の愚痴を聴くふりをして、その後も酒を飲ませ、男の情報を集めた。




