世界の成り立ちとスキルー1
俺がまだ小さい頃(今も10歳だが)に、お父様やお母様達が俺を寝かせるために聞かせてくれたお伽噺が、最近我が家の図書室で我が領、国、そしてこの世界の歴史を(難しい文字を使っているものを除き)読んで、史実をもとに作られた話だったことを知った。
本によって内容が若干異なるが、概ね次のような内容になる。
約5,000年前、この世界は今と同様に人間族、獣人族、エルフ族そしてドワーフ族がいて栄えていた。
今と異なるのは、魔族もいたことである。
身体能力も魔力も極めて高く、寿命も長い代わりに、繁殖力が極めて低く、その数が他種族と比べて大変少ない魔族であったが、他種族を見下し、交わることを好まなかった魔族は、小さいながらも一つの国を形成していた。
ある時、その魔族の国を、さらに抜きん出た力で統べる魔王が現れた。
その魔王は、魔王軍を組織し、魔族の国のみならず、世界の全てを支配することを目指し、他の種族が暮らす村、町、そして国を攻撃し、蹂躙していった。
当然、他の国の国王等統治者達も自国を守ろうとしたが、もともと強い力を持つ魔族たちが、他種族の者たちを殺すことによりSPを稼ぎ、それによってさらに強化され、さらに多くを殺すと言った悪循環が続いた。
この魔王軍の、種族も老若男女も問わない侵攻・虐殺により、この世界はたった2年で、人族は多くいた人口の3分の1を失うこととなったらしい。
しかし、一つの種族が、武力によって他の種族を虐げこの星の魂の量を勝手に減らすことを、神様(きっと俺が転生する時に休暇を取っていた、この星担当の低級神様)は許さなかった。
他人を思いやる優しい心と、窮地でも折れない強い心を併せ持った人族の若い男に、強い力と「勇者」の称号を与え、魔族との戦いに送り込んだのである。
勇者は魔王軍の侵攻を受けている地域を回り、たった一人で戦い続けた。
時には苦戦を余儀なくされることもあったが、与えられた強いスキルで順次魔族を打ち破り、そこで得られたSPでさらに身体を、力を、魔法を強化され、時間は要したが、次第に魔王軍を押し返していった。
神の遣わす勇者とはいえ、たった一人の勇者に対し、最初、殆どの人族が何の期待もしていなかった。 それ程、魔王軍の力は強大だった。
しかし勇者の活躍は、やがて人々の知るところとなり、行く先々で歓迎されるようになった。ほぼ全ての人族の期待を一身に受け、大変な重圧を背負いながら、それでも勇者は一人で戦い続けた。
何年かを要したが、勇者は魔王軍の幹部を討ち取り続け、遂には魔王の居る魔族の国に、そして魔王の城に辿り着いた。
数日に亘る激闘の末、遂に勇者は魔王を倒した。
それを知った人族は、やっと自らも残った魔族と戦い始めた。
魔王を失った魔族は、人族の軍に圧され続け、やがて散り散りに海に逃げていった。
魔族は居なくなり、世界に平和が戻った。
神様は、何年もの間、世界のあらゆる場所を回り、たった一人で戦い続けた勇者を労い、その苦労と功績に報いるため、どんな望みでも一つだけ叶えようと、勇者の夢の中で問いかけてきた。
これに対し勇者は、望んで止まなかった平和な世界が訪れたので、これ以上は何もいらないと、何かを望むことは無かった。
神は、急いで結論を出す必要はないのでゆっくり考え、何か自分ではどうにもならない願いが出来たら、その時に改めて願うように告げた。
この神託に関しては、少し後に勇者の妻が、勇者から聞いた話として周囲に知らされた。
そう、勇者は、魔王討伐までの間に出会った、身の回りの世話をしてくれた女性と、暫く後に世界中の人からの祝福の中で結婚した。
ここまでが子ども達が、親から聞かされるお伽噺である。
しかし、歴史には続きが記載されている。いや、ここからこそが、今のこの世界の成り立ちに深く関わる重要な話なのである。
その後勇者は、どこに行っても、人々に熱狂的に迎えられた。
人族の国の統治者達は、自分は勇者と誼を結んでいると国民にアピールするため、競って勇者に招待状を送った。
勇者は妻や生まれた子どもと共に静かに暮らしたかったのだが、各国の統治者たちの立場を気遣い、全ての招待に応じていった。
どの国に行っても、勇者は民衆に熱狂的に出迎えられた。
勇者こそ、この世界の救世主であり、勇者さえ居ればこの世界は安泰だと、世界中の人々が口にするようになった。
最初は各国の統治者達や権力者達も、民衆と一緒になって、勇者を讃えていた。
しかし、自分の保身を最優先とする者や自分の利益を最優先とする者、つまり後ろ暗いところのある貴族等権力者達が、次第に勇者に対する疑念を募らせていく。
「いつか民衆の依頼を受けた勇者が、自分達のやっている(悪い)事を暴きに来るのではないか」
「いつか民衆が勇者を立てて、自分を排除するために蜂起するのではないか」
「その時自分に、勇者に勝つ術はあるのか」
自分の欲望を満たすため、貴族という立場を笠に着て好き勝手やっている権力者ほど、わが身可愛さ故に疑心暗鬼になった、いや、正確に言えば、ありもしない未来に対する恐怖心に囚われた貴族達は力を合わせ、立て続けに国の統治者に対し、勇者に関する根も葉もないデマとともに、勇者に対する疑念を刷り込んでいく。
「あの勇者は、人民を扇動し、この国を乗っ取ろうとしているのだと思われます」
「このままでは、国民が全て勇者の操り人形になってしまいます」
国の統治者達にも後ろ暗いところはある。綺麗事だけでは一国を統べることは出来ないのである。
国の統治者達も次第に不安になり、自身の信用する周囲の貴族達に話を聞いてみるが、もうその頃には、勇者への恐怖に囚われた貴族達による他の貴族への根回しは終了しており、「勇者討伐すべし」との結論以外が出ないように調整されていた。




