今度こそ最後までやり遂げたい。
匂いは素晴らしかった。
いや。
あの日の出来事を考えると、温かいものなら何でも美味しく感じたかもしれない。
でもこれは……
「いい匂いすぎる。」
私は洞窟の入り口近くに座って、小さな焚き火を眺めていた。
その火の上で、エリザベスは枝を使って即席のグリルを作っていた。数切れの肉がゆっくりと焼けていた。
これから自分がどんな動物を食べるのか、正確には分からなかった。
そして、おそらく聞かない方が賢明だろう。
エリザベスは焚き火のそばにしゃがみ込んでいた。
「もうすぐできますよ、レン様。」
「本当に料理ができるのか?」
彼女はゆっくりと私の方を向いた。
「私はメイドです。」
「それは私の質問の答えになっていない。」
「私は優秀なメイドです。」
「それも答えになっていない。」
エリザベスは不満そうな表情で胸に手を当てた。 「私の能力に対するあなたの自信のなさが、少し心配になってきました。」
「あなたと知り合ってまだ数時間しか経っていません。」
「私の優秀さを理解するには十分すぎる時間です。」
「…」
私は彼女を見た。
彼女は真剣な表情を崩さなかった。
「あなたのエゴも私がプログラムしたのかしら?」
「おそらく副作用でしょう。」
「そのコードを見直す必要があります。」
「レン様!」
私は笑った。
エリザベスも微笑んだ。
奇妙だった。
とても奇妙だった。
ほんの少し前まで、私は狼に襲われそうになりながら走っていた。
その前は…
私は死んでいた。
そして、今朝、別の人生では、おそらく締め切りについて考えながらパソコンの前に座っていたのだろう。
今、私は別の世界の森の中で、焚き火の前に座り、魔法のプログラミングによって作られたメイドが夕食を作り終えるのを待っていた。
「私の人生、かなり奇妙なことになってるの。」
「それは不満?」
「まだ決めてないの。」
「じゃあ、良い経験になるように努力するわ。」
「ありがとう。」
エリザベスはついに肉を火から下ろした。
彼女は食べられる植物と、小さな野生のジャガイモのようなものも見つけていた。
彼女はそれらを大きな葉の上に置いた。
「どうぞ。」
私は食べ物を見た。
「これって安全?」
エリザベスは微笑んだ。
「確認済みよ。」
「肉は?」
「それもね。」
「何の動物だったの?」
「…」
エリザベスは黙っていた。
私は彼女を見た。
「エリザベス。」
「余計なことを聞かずに、食事を楽しんでください。」
「今すぐ知りたいの。」
「だめよ。」
「あなたは私の助手でしょ!」
「だからこそ、あなたの食欲を守らなければならないのよ。」
それは安心できる言葉ではなかった。
でも、反論する気力もなかった。
一口食べた。
「ええと…」
味見をした。
目が覚めた。
「美味しい!」
エリザベスは誇らしげに微笑んだ。
「もちろんよ。」
「本当に!」
もう一口食べた。
ジューシーだった。
ほんのり甘く、エリザベスが見つけたハーブの香りが不思議で心地よい香りを醸し出していた。
「ほとんど何もないのに、どうやってこんなものを作ったの?」
「技術よ。」
「傲慢に聞こえるわ。」
「プログラムされた経験よ。」
「もっと傲慢に聞こえるわ。」
彼女は笑った。
私は食べ続けた。
そして、この世界に来て初めて…
リラックスできた。
完全にではないけれど。
私たちはまだモンスターだらけの森の中にいた。
でも、ほんの数分間、私はそんなことは考えなかった。
ただ、食べていた。
そして、それを味わった。
本当に美味しかった。
その時、あることに気づいた。
前世では、食べることさえ義務になっていた。
モニターの前でファストフードを食べる。
家に帰ったらスーパーで何かを買う。
コーヒー。
エナジーバー。
すぐに食べられるものなら何でも。
最後に、ただ座って食事を楽しんだのはいつだっただろう?
思い出せなかった。
私は焚き火を見つめた。
「いい感じだね。」
エリザベスが私を見ていた。
「そう言ってくれて嬉しいわ。」
「ありがとう。」
「お礼なんていいのよ。」
「いいわ。」
私は彼女を見た。
「ありがとう、エリザベス。」
彼女は少し驚いたようだった。
そして、微笑んだ。
「では…どういたしまして、レン様。」
私は食事を続けた。
しかし、食べているうちに、頭の中で何かがぐるぐると回り始めた。
コンソール。
私のステータス。
狼。
エリザベス。
あの世界。
そして何よりも…
私自身。
「エリザベス。」
「はい?」
私たちはすでに食事を終えていた。
私が声をかけた時、彼女は火を消していた。
「聞きたいことがある。」
彼女は起き上がった。
「もちろん。」
私は自分の手を見つめた。
「訓練したい。」
エリザベスは瞬きをした。
「訓練?」
「ええ。」
「どんな分野で?」
「できることは何でも。」
彼女の表情が変わった。
「ずいぶん広いわね。」
「分かってる。」
私は立ち上がった。
「魔法。戦闘。サバイバル。マナコントロール。自分の能力の使い方。私にとって役に立つことは何でも学びたい。」
エリザベスは黙っていた。
「そして、あなたに教えてほしい。」
「いいよ。」
「でも、簡単には教えたくない。」
その言葉に彼女は驚いたようだった。
「レン様…」
コンソールを開いた。
私のステータスが目の前に表示された。
レン
HP: 100/100
最大MP: 100
身体能力: 平均
魔法コントロール: 非常に低い
戦闘経験: なし
決して素晴らしいステータスではなかった。
しかし、もう気にならなかった。
以前なら、きっとこう思っていただろう。
「私は弱い。」
今は違うことを考えていた。まだまだ学ぶべきことがたくさんあります。
「これを編集できます。」
統計データを指差しました。
「mを増やすことができます。」
そして力。
エリザベスは画面を見つめた。
「彼の能力なら可能みたいね。」
「戦闘技術を教えてくれるかもしれないわ。」
「そうかもね。」
「とんでもないことを打ち込んでくるかもしれないわ。」
「一行思いついた。」
target("Ren").strength = 999
実行はしなかった。
そのままにしておいた。
「もしかしたらうまくいくかも。」
「彼の体を破壊することもできるわ。」
「ええ。その部分はもう覚えているわ。」
MP操作のことを思い出すと、今でも背筋がゾッとする。
その一行を削除した。
「でも、たとえうまくいったとしても…そんなやり方はしたくない。」
エリザベスは首を傾げた。
「どうして?」
答えるのは難しかった。
数時間前なら、きっとどんな近道でも選んでいただろう。
でも、何かが変わった。
「やり方を知りたいから。」
コンソールを閉じた。
「実行しなかった。」「あの狼に溶岩火球を放った時、強力な魔法だった。」
その光景を鮮明に覚えている。
球体が飛んでいく。
狼が後ずさりする。
そして、外して叫ぶ自分。
「でも、当てられなかった。」
エリザベスはかすかに微笑んだ。
「初めてなら仕方ないわね。」
「その通り。力はあった。技術もあった。問題は私だった。」
自分の手を見つめた。
「使い方が分からなかった。」
拳を握りしめた。
「ただ数字が大きいだけの人間にはなりたくない。
動き方を学びたかった。
戦い方を学びたかった。
魔法の制御方法を学びたかった。
冷静さを保つ方法を学びたかった。
命を狙われた時にどうすればいいのかを知りたかった。」
「自分の能力を、本当に自分のものにしたい。」
エリザベスは黙っていた。
私は続けた。
「前世では、自分は平凡だと思っていた。」
その言葉は今でも胸に突き刺さる。
でも、以前ほどではない。
「会社は長年、私にそう信じ込ませていた。」
プロジェクトのことを思い出し、
評価のことを思い出し、
モニターの前で過ごした夜を思い出す。
期待を下回る結果だった。
「でも今は、それが真実ではなかったと分かっている。」
私はエリザベスを見た。
彼女こそがその証拠だった。
私が彼女を創造したのだ。
私が彼女の構造を設計したのだ。
彼女の知性を。
彼女の能力を。
数時間前には想像もできなかったことを、私は成し遂げてきた。
「私は役立たずなんかじゃなかった。」
そう口にするのは、まだ不思議な感じがした。
だから、もう一度繰り返した。
「私は役立たずなんかじゃない。」
エリザベスは微笑んだ。
今度は何も言わなかった。彼女にはそんな必要はなかった。
「それに、もし本当に私に才能があるなら…」
森の方を見つめた。
「自分がどこまで行けるのか、確かめたい。
誰かに強制されたからじゃない。
上司に結果を求められているからでもない。」
仕事を失うのが怖いからでもない。
今回は…
自分が望んだからだ。
「強くなりたい。」
エリザベスはじっと私を見つめていた。
「生き残るため?」
「それもある。」
シャドウウルフのことを考えた。
あんな生き物が近くに潜んでいるなら、もっと恐ろしいものもきっと存在するはずだ。
「私はこの世界を知らない。誰がここに住んでいるのかも知らない。どんな怪物がいるのかも知らない。私と同じような力を使える人がいるのかどうかも知らない。」
あの声の警告を思い出した。
「お前を待ち受ける世界には、お前が経験したことのない危険が潜んでいる。」
「準備万端にしておきたいんです。」
少し間を置いた。
「でも…」
微笑んだ。
「一番になりたいんです。」
エリザベスの目が少し見開かれた。
「一番?」
「ええ。」
こうして口に出してみると、なんだか子供っぽい響きだった。
でも、気にしなかった。
「もし本当に二度目のチャンスをもらえるなら、隠れて生きていくのは嫌なんです。」
恐怖に怯えながら生きる人生はもう送りたくない。
もし勇気を出して挑戦していたらどうなっていただろうかと、後悔したくない。
「魔法を学びたいんです。」
エリザベスの方へ一歩踏み出した。
「戦い方を学びたいんです。」
もう一歩。
「コンソールの使い方を理解したいんです。」
もう一歩。
「誰も見たことのないものを作りたいんです。」
失ったと思っていたあの高揚感が、再び蘇ってきた。
学生時代、ただ問題を解決したい一心で何時間もプログラミングに没頭していた時と同じ興奮が、今、蘇ってきた。
「この力で何ができるのか、知りたいんです。」
私は微笑んだ。
「そして、それを自分の力で成し遂げたい。」
エリザベスは数秒間沈黙した。
それから彼女は頭を下げた。
「分かりました。」
彼女が顔を上げると…
微笑んでいた。
しかし、その微笑みが私を不安にさせた。
とても。
「エリザベス。」
「はい?」
「どうしてそんな風に笑っているんだ?」
「だって、彼女は訓練を甘くしないでくれって言ったんだもの。」
「ええ、私は楽にしたくないって言ったわ。」
「よく覚えているわ。」
「待って。」
エリザベスは手袋を外し始めた。
「どうしてそんなことをするんだ?」
「準備よ。」
「何のために?」
「彼女の最初のレッスン。」
私は外を見た。
「今?」
「今だ。」
「さっき食べたばかりなのに!」
「よかった。エネルギーが残っているんだな。」
「もう夜だぞ!」
「よかった。感覚も鍛えよう。」
「待って!」
エリザベスが近づいてきた。
私は後ずさりした。
「明日から始められないのか?」
「レン様。」
彼女は優しく微笑んだ。
「全力を尽くしたいとおっしゃいましたよね。」
「ええ、でも…」
「彼は自分の能力を制御できるようになりたかったんです。」
「ええ…」
「そして、一番になりたかったんです。」
「…」
私は自分の罠にはまってしまった。
エリザベスが手を差し出した。
「では、始めましょう。」
私は彼女を見た。
そして、彼女の手を見た。
緊張した。
でも、同時にワクワクもした。
私は彼女の手を取った。
「わかった。」
エリザベスは私を立たせた。
「最初のレッスン。」
「魔法?」
「違う。」
「魔力制御?」
「それも違う。」
「魔法プログラミング?」
「違う。」
私は眉をひそめた。
眉をひそめた表情。
「それで?」
エリザベスは森の方を指差した。
「走るのよ。」
「…」
「10キロ。」
「10キロ?!」
「まずは。」
「まずは?!」
エリザベスは落ち着いた様子で外へ歩き始めた。
「さあ、レン様。」
私は彼女の後をついて行った。
「待って!交渉できるわ!」
「ダメよ。」
「私があなたをプログラムしたのよ!」
「そして、あなたに教えるように私をプログラムしたのよ。」
「それは設計ミスよ!」
彼女の笑い声が木々の間を響き渡った。
そして、自分で下した決断にぶつぶつ文句を言いながら彼女の後を追いかけていると、心の中で何かが変わった。
疲れていた。
あの世界が怖かった。
明日何が起こるか分からなかった。
でも、学びたかった。
成長したかった。
私は挑戦したかった。
以前の生活では、他人の要求に押しつぶされそうになり、自分を追い詰めて限界まで追い詰めていた。
でも、今回は違う。
今回は、自分を追い込むんだ…
なぜなら、自分が行きたい場所を自分で選んだから。
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