雨を待つ朝餉
雨を待つ朝餉
麻の単衣の襟元を何度も指先で引っ張りながら、台与は土間に立ち尽くしていた。かまどの上では昨晩の残りの猪肉と山菜の汁物がぐつぐつと煮立っており、煤けた土壁の隙間からは湿り気を帯びたぬるい風が吹き込んできている。昨夜からずっと耳の奥で蝉の声が鳴り止まないのは、今日こそ雨乞いの祈祷を行わなければならない重圧のせいかもしれなかった。
「台与様、また襟を気にされておりますね。そんなに引っ張ると、せっかくの茜染めの麻布が伸びてしまいますよ」
膝の上に置いた両手をきつく握りしめ、爪を手のひらに食い込ませながら、台与は膳の前に座り直した。丸太を割っただけの低い食卓には、麦飯と干した鮎を焼いたもの、それに塩漬けの瓜が並んでいて、鮎の皮の焦げた香ばしい匂いが立ち上っている。先代の卑弥呼様なら、こんな時でも箸を乱すことなく優雅に食事を終えられたのだろうと昔の光景を思い出し、喉の渇きを覚えた。
「サヨ、この鮎は昨日の夕方に川で獲れたものだったかしら。塩が少し効きすぎていて、舌の先がぴりぴりとするわ」
「ええ、昨日は日差しが強うございましたから、塩を強めに振っておいたのです。ほら、ちゃんと召し上がらないと、午前の務めでお腹の虫が鳴いてしまいますよ」
乾いた唇を舌で湿らせながら、台与は箸を置いて窓の外の青空を見上げた。庭の隅には干しっぱなしの藁沓が転がっており、連日の日照りで泥が白く粉を吹いて固まっている。先月、都から届いた銅鏡の裏に刻まれた細かな文様を眺めていた時の静かな時間が遠い昔のように思えてならなかった。
「外の土がこんなに干からびていては、畑の大根も育たないわね。井戸の水も、昨日の夕暮れには底の小石が見えそうになっていたわ」
「まったくでございます。おかげで水汲みの往復だけで、私のこの麻の袴も汗でぐっしょり重たくなってしまいます」
サヨは愚痴を言いながら、竹籠から布巾を取り出して食卓の隅に残った汁の染みを力任せに拭き取った。染みは数日前のものらしく、黒ずんで木の目に深く染み込んでいた。
胃のあたりがぎゅっと重く縮み上がるのを覚えながら、台与は立ち上がって鏡台の前に移動した。鏡台の引き出しには、幼い頃に拾った珍しい形の貝殻や、使い古して短くなった木炭が乱雑に押し込まれたままになっている。自分がこの国を率いる身となってから、こうした身の回りの片付けすら手付かずになっていることにため息がこぼれそうになった。
「勾玉の首飾りを付けてちょうだい。あの重たい緑の玉を着けると、首の後ろが凝って肩が張るのだけれど」
「こればかりは省けません。広場にはもう、笠をかぶった村の長たちが大勢集まって、台与様の出御をお待ちですよ」
「長たちの顔を見るのは構わないけれど、あの人たち、話が長くなるといつも同じ昔話ばかり繰り返すでしょう。去年獲れた猪の大きさの話とか、隣の村との境界の溝の話とか」
「ふふ、それだけ皆様も気が張っているのでしょう。雨が降れば、みんな笑って帰っていきますよ」
胸の奥が熱く波打つのを感じて、台与は大きく息を吸い込み、背筋を伸ばした。外からは乾いた太鼓の音が響き始め、祭壇に向かう神官たちの足音が土埃を立てて近づいてくる。たとえ祈りが天に届かなくても、逃げ出すことだけは決して許されないのだと自分に言い聞かせた。
「さあ、行きましょう。サヨ、戻ったらあの冷めた麦湯をもう一杯ちょうだいね」
「はい、よく冷やして待っております。台与様、履物が左右逆でございますよ」
台与は慌てて足元を見下ろし、小さく笑いながら藁の履物を履き直して、陽炎の揺れる戸外へと歩みを進めた。




