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妹を愛した大王と、宮を出た皇后――忍坂大中姫が守ったもの

妹を愛した大王と、宮を出た皇后――忍坂大中姫が守ったもの


忍坂大中姫が允恭大王の后となって十数年が過ぎた春、宮の庭では桑の若葉が柔らかく開いていた。大中姫は薄い萌黄色の衣に白い裳を合わせ、髪には飾りを挿さず、女官たちと一緒に蚕へ与える桑の葉を選んでいた。朝餉に出された粟飯と焼いた鮎はすっかり冷め、鮎の尾だけが欠けた土器の皿に残っていたが、彼女はそれを気にせず、虫に食われた葉を籠の端へ分けた。大王の子を何人も産み、宮を取り仕切る身になっても、毎朝、衣の袖をたくし上げて桑の葉に触れる習慣だけは変えなかった。幼い木梨軽皇子が籠をのぞき込み、白い蚕を指差して「母上、この虫はなぜ眠ってばかりいるのですか」と聞くと、大中姫は皇子の指をそっと戻した。「眠っているように見えても、体の中では次の支度をしているのです。人も同じです。何もしていないように見える時ほど、大切なものを育てていることがあります」


その日の昼、大中姫の妹である衣通郎姫が宮を訪れた。衣通郎姫は淡い紅色の衣を着て、雨に濡れた黒髪から椿の香油をかすかに漂わせており、手土産として干した柿と山桃の実を持ってきた。姉妹は昔、母の目を盗んで蜂蜜を指ですくい、どちらが多く食べたかで口げんかをしたことがあったため、衣通郎姫は柿を半分に割り、「姉上には少し小さいほうを差し上げます」と笑った。大中姫も笑い、妹の指についた柿の粉を麻布で拭いてやったが、御簾の向こうから二人を見ていた允恭大王の視線には気づいていた。大王は衣通郎姫の美しさが衣を通して輝くほどだという評判を、以前から何度も耳にしていたのである。大中姫は柿の種を小皿へ並べながら、夫が妹を宮へ迎えたいと言い出す日が遠くないことを考えた。「妹よ、今日は日が暮れる前に帰りなさい。道がぬかるんでいるから、私の輿を使うとよいでしょう」


数日後、允恭大王は大中姫の部屋を訪れ、衣通郎姫を妃として迎えたいと告げた。部屋の隅には洗い終えた子どもたちの衣が積まれ、木梨軽皇子の袴から取れた紐が、裁縫箱の横に置かれたままになっていた。大中姫は濃い紫の上衣を着ていたが、帯はいつもより緩く結ばれ、膳に並んだ鴨の汁と蒸した里芋には一度も箸をつけていなかった。允恭大王は国を治める者として命じることもできたが、大中姫が何も言わずに里芋の皮を指でむいている姿を前にして、すぐには次の言葉を続けられなかった。大中姫は、妹を責めれば姉妹の間が壊れ、何も言わなければ夫の望みを認めたことになると考え、むいた里芋を大王の皿へ置いた。「大王が何を望まれるかは分かりました。しかし、衣通郎姫は私の妹です。宮を彩る花としてではなく、一人の女として、本人の言葉を聞いてください」


衣通郎姫は姉を押しのけるつもりはないと言い、允恭大王の求めを断ろうとした。しかし、大王の使いは何度も妹の家を訪れ、門の前には立派な馬や絹の衣が並べられ、近隣の者までが何事かとのぞきに来るようになった。衣通郎姫の家では、女たちが庭で洗った布を干していたが、使者の馬が跳ねた泥で白い麻布が汚れ、老女官が水桶を抱えて小言をこぼしていた。大中姫が訪ねると、妹は青い上衣の袖をまくり、その泥を井戸水で落としていたため、大中姫も黙って隣に座り、汚れた布の端を持った。二人はしばらく昔のように一枚の布を挟んで向かい合い、井戸の滑車がきしむ音を聞いた。衣通郎姫は泥水に赤くなった指を浸したまま、「姉上が嫌だとおっしゃれば、私は山へでも逃げます」と言った。大中姫は布を強く絞りすぎて手の甲に水を飛ばし、「私のために逃げてはいけません。けれど、大王のために自分を捨ててもいけません。あなたが選んだ場所で暮らしなさい」


やがて衣通郎姫は、宮から離れた藤原の地で暮らすことになった。允恭大王は妹のもとへ通うようになり、宮へ戻らない夜が増えたため、幼い皇子や皇女たちは、夕餉の膳に父の席だけが空いていることを不思議がった。ある夜、大中姫は褐色の普段着に着替え、炊屋から持ってこさせた麦飯を子どもたちによそい、焼いた鯖の骨を一本ずつ取り除いた。安康皇子は魚の皮を嫌って皿の端へ寄せ、幼い雄略皇子は兄の分まで取ろうとして手を叩かれ、木梨軽皇子は父がいつ帰るのかと何度も戸口を見た。大中姫は、夫への思いに心を奪われたままでは、目の前にいる子どもたちの小さな変化を見落とすと考え、鯖の皮を安康皇子の麦飯に細かく混ぜた。「父上には父上のお役目があります。けれど、ここには母がいます。食べ終えた者から手を洗いなさい。今夜は皆の衣の寸法を測ります」


それでも大中姫の胸に収まらないものは、日を追うごとに大きくなった。宮の廊下には允恭大王が衣通郎姫へ贈る絹の箱が置かれ、女官たちは大中姫が通るたびに話をやめ、炊屋の女まで鍋の灰汁をすくいながら目を伏せた。大中姫は白い衣の上に蘇芳色の上衣をまとい、夫から贈られた玉飾りを一つずつ箱へ戻すと、子どもたちの着替えと裁縫道具、それに使い慣れた木の匙を荷へ入れた。后が宮を出れば、豪族たちは夫婦の争いを国の争いに変え、どちらにつくかを競うだろうと分かっていたが、このまま御簾の内側で妹を待つ夫を見続ければ、自分まで別の人間になってしまう。允恭大王が慌てて部屋へ来ると、大中姫は荷を結ぶ手を止めずに言った。「私は、あなたが妹を愛したことだけを責めているのではありません。私が何も感じない女であるかのように扱われたことを、受け入れられないのです。しばらく宮を離れます」


大中姫が子どもたちを連れて別の宮へ移ると、允恭大王は初めて、后が担っていた仕事の多さを知った。朝の食事を用意する者はいても、どの皇子が粟粥を嫌い、どの皇女が冷えた乳を飲むと腹を壊すのかを覚えている者はいなかった。衣を管理する者はいても、破れた裾を夜のうちに縫い、翌朝には何事もなかったように畳んでおく者はいなかった。允恭大王は大中姫のもとを訪ね、戸口に置かれた子どもの泥だらけの沓と、軒下で乾かしている洗濯物を見て、華やかな宮よりも人の暮らしが続いていることを思い知らされた。部屋では大中姫が粗い麻の衣を着て、干した大根を刻み、豆の汁へ入れていた。大王が「戻ってきてほしい」と告げると、大中姫は包丁を置き、「戻れば、私が黙って許したことになります。まず、私に何をさせていたのかをご自分の目で確かめてください。そこにいる皇子の鼻を拭き、外に落とした衣を洗い、冷めた汁を一緒に食べてから、もう一度お話しください」と答えた。


允恭大王は高価な衣の袖をまくり、泣きながら逃げる幼い皇子を捕まえて鼻を拭き、庭に落ちた衣を井戸水で洗った。慣れない手で絞ったため布には水が残り、大中姫は「それでは夕方までに乾きません」と言って、夫の手から受け取った衣をもう一度絞った。夕餉の豆汁は塩が少なく、干し大根の一部は硬かったが、大王は何も言わず、子どもたちと同じ木の椀を空にした。大中姫は夫の濡れた袖から水が畳へ落ちるのを見ながら、許すことと元に戻ることは同じではないと考えた。「私は宮へ戻ります。ただし、以前と同じ后としてではありません。私の言葉を聞き、妹の暮らしを乱さず、子どもたちの食事にも座ると約束してください」


允恭大王はその条件を受け入れ、大中姫は再び宮へ戻った。衣通郎姫との関係が何もなかったころへ戻ることはできなかったが、姉妹は季節ごとに干し柿や薬草を送り合い、ときには子どものころに食べた蜂蜜の話を添えた。大中姫は后として皇子たちを育て、蚕を飼い、倉の穀物を調べ、破れた衣を見つけると身分に関係なく持ち主へ返した。後に彼女の息子たちは、それぞれ国の頂点をめぐる激しい時代を生きることになるが、その前には、魚の骨を取り、鼻を拭き、袴の紐を結び直した母の手があった。春の朝、大中姫は青い衣を着て桑の葉を籠へ集め、成長した木梨軽皇子に言った。「国を治めるとは、高い場所から命じることではありません。誰かが落とした衣を拾い、乾くまで待つことです。あなたが大きな力を持つ日が来ても、そのことだけは忘れてはなりません」



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