飯豊青皇女
飯豊青皇女
昼下がりの乾いた風が、長持の隙間にしまわれた絹衣の裾を小さく揺らしている。私は朱漆の膳の上に載せられた冷えたアジの開きを見つめながら、箸先で塩の白く固まった身を軽くほぐしていた。朝の市で求めたその魚はもうすっかり脂が冷え切り、指先で触れると微かに硬い感触が残る。この宮廷の片隅に押し込められてからというもの、私の周りにあるものはすべて温度を失い、ただ静かに時間を重ねていくばかりだった。血筋の重みというものがこれほどまでに骨身を冷やすものだとは、実際にこの立場に立たなければ分からなかったことだ。「また魚に塩を振り忘れているのではないか」と、私は独りごちて乾いた舌先を湿らせた。
庭の隅には昨日干したままの麻の肌着がまだ湿り気を帯びたまま、重たげに垂れ下がっている。私は乱雑に散らかった机の上に積まれた帳面の汚れを袖口で拭いながら、これからの行く末についてぼんやりと考えていた。次代の王位を巡る争いが激しさを増す中で、私の存在そのものが誰かにとっての脅威であり、あるいは道具でしかないという現実が重くのしかかる。誰かを信用すれば足元をすくわれ、かといって心を閉ざせばこの広すぎる部屋の壁に押しつぶされそうになるという矛盾の中で、私の心はいつの間にか行き場を失っていた。ふと足元を見ると、長年愛用してきた木製の櫛に細い髪の毛が何本か絡みついているのが目に入った。「これほど絡まっていては、梳かすたびに痛むはずだわ」と、私は誰にともなく呟いてそれを一本ずつ丁寧に引き抜いた。
不意に障子が荒々しく押し開けられ、息を切らせた従者が土間に足を踏み入れた。冷え切ったアジの開きから立ち上るはずもない生臭い湯気を幻視しながら、私は静かに顔を上げてその人物を見据えた。「お上の使者がお着きになられました。今すぐ御簾の奥にお下がりください」と、従者はうわずった声でそう告げると、自分の膝を激しく震わせた。その切迫した様子を見て、私は胸の奥底で小さく冷たいものが波打つのを感じたが、表向きは微動だにせず、ただ手の平の上で握りしめた茶碗の温もりだけを頼りに息を整えた。天下の行く末を決める大舞台の裏側で、私たちはただ冷めた食事を前にして怯えるだけの取るに足らない人間なのだと思い知る。「分かった、すぐに支度をしよう」と、私は低く静かな声で答えて立ち上がり、乱れた衣の合わせ目をしっかりと直した。




