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忍海の青き皇女 飯豊青皇女(いいとよあおのひめみこ)

忍海の青き皇女


葛城の忍海に朝霧が残るころ、飯豊青皇女は、橡色の裳の裾を女官に直させながら、炊屋から運ばれてきた粟粥を見つめていた。粥の上には刻んだ栗が三つ載り、添えられた塩漬けの蕪からは土と酢の混じった匂いがしたが、彼女は木の匙を二度動かしただけで、膳の端に置いてしまった。清寧大王が世を去り、後を継ぐ御子がいないため、宮では夜明け前から豪族たちの足音が絶えず、濡れた草履が板敷きに黒い跡を残していた。飯豊青皇女は指先についた粥を麻布で拭い、昨夜から何度も聞かされている言葉を自分の中で確かめた。大王の血を引く者たちが争えば、焼かれるのは宮ではなく、田を耕し、布を織り、子を育てる者たちの家である。彼女は膳を下げようとした女官を呼び止め、「その粥は捨てず、火の番をしている者に持っていきなさい。冷めていても、腹には入るでしょう」と言った。


昼になると、忍海角刺宮の広間には、葛城、大伴、物部の者たちが集まった。鹿皮を重ねた敷物には昨日こぼされた酒の染みが残り、柱の脇では、若い舎人が欠けた土器を袖で隠そうとしていた。飯豊青皇女は白い麻の衣に青鈍色の上衣を重ね、髪を高く結い、翡翠の勾玉を胸元に一つだけ下げていた。男たちは互いの顔色をうかがいながら、大王の座を空けておくことの危うさを説き、そのたびに誰が軍を持ち、誰が倉を握っているかを遠回しに語った。彼女には、その話し合いが国のためというより、自分の蔵にどれほど米を残せるかを競う値踏みに聞こえた。飯豊青皇女は膝の上で衣のしわを伸ばし、「私が政を預かります」と告げてから、声を荒らげる男たちを順に見た。「ただし、王位を奪うためではありません。履中大王の御子の血を引く二人の皇子が見つかるまで、この座を守るためです。兵を勝手に動かした者は、どの氏族であろうと許しません」


その日の夕方、宮の裏手では、女官たちが洗った衣を竹竿に掛けていた。冬に近い風が麻布を硬く揺らし、炊屋では雉の肉と大根を煮る鍋が音を立て、灰汁をすくう女の腕に湯気がまとわりついていた。飯豊青皇女は政の文を読む手を止め、軒下に干された自分の薄紅色の衣を見て、子どものころ、同じ色の布を姉と取り合ったことを思い出した。あのころは、皇族の衣もただの布であり、濡れれば重くなり、火の粉が飛べば穴が開くものだった。それなのに大王の座だけは、男たちが永遠に傷まない宝だと思い込み、血を流してまで欲しがる。老女官の佐比売が、小皿に焼いた里芋を二つ載せて持ってくると、飯豊青皇女は皮をむきながら、「あなたは私が大王になりたいと思うか」と尋ねた。佐比売は焦げた皮を自分の皿に集め、「青皇女さまは、なりたいものほど後回しになさいます。昨日も甘い栗を舎人に渡して、ご自分は虫食いの栗を召し上がりました」と答えた。


やがて、播磨に隠れて暮らしていた億計皇子と弘計皇子が見つかったという知らせが届いた。使者の脛には乾いた泥が幾重にもこびりつき、差し出した木簡には汗の跡が残っていたため、飯豊青皇女は話を聞く前に、温めた酒と干し肉を与えるよう命じた。使者は干し肉を急いで噛み、湯で喉を湿らせてから、二人の皇子が身分を隠し、牛馬を飼う者たちの間で暮らしていたことを語った。広間の豪族たちはすぐに、どちらを先に迎えるか、どちらが自分たちに都合のよい大王になるかを論じ始めた。飯豊青皇女は木簡の端を親指でなぞり、姿を消さなければ生き延びられなかった二人に、今度は王位をめぐる争いをさせてよいはずがないと考えた。「二人とも丁重に迎えなさい。粗末な衣を笑う者があれば、その者の衣を脱がせて同じ道を歩かせます」と命じると、大伴の男が顔をしかめたため、彼女はさらに、「人は絹を着たから皇子になるのではありません。生きて戻ったから、国を預けられるのです」と付け加えた。


二人の皇子が忍海へ到着した日は、朝から細かな雨が降っていた。億計皇子は擦り切れた鼠色の衣を着て、弘計皇子は継ぎの当たった藍の袴をはき、二人とも新しい沓に慣れないらしく、広間へ上がる前に何度も足を動かしていた。祝いの膳には炊いた米、鮎の塩焼き、干した柿、山鳥の汁が並んだが、弘計皇子は鮎を裏返し、皮に残った塩を指で集めて食べた。飯豊青皇女はその手つきを見て、宮の作法より、食べ物を残さない暮らしのほうが、この国を治める者には必要かもしれないと思った。ところが兄弟は互いに王位を譲り合い、兄は弟を、弟は兄を立てようとして話が進まなかった。飯豊青皇女は干し柿の種を小箱へ入れ、「庭に埋めれば芽が出るかもしれません」と女官に渡してから、二人に向き直った。「譲り合うことは美しく見えますが、国を待たせれば、その美しさで腹を満たせない者が出ます。どちらが先でもよいのではありません。先に立つ者が倒れたとき、もう一人が必ず支えると約束なさい」


それから飯豊青皇女は、宮の倉を調べ、米を隠していた役人を退け、旱魃に備えて葛城の溝をさらわせた。朝は粟粥に胡麻を振り、昼は政の文を読みながら乾いた栗をかじり、夜になると青い上衣を脱いで、袖口のほつれを自分で縫った。大王と呼ぶ者もいれば、大王ではなく政を預かった皇女にすぎないと言う者もいたが、彼女は呼び名を争う者たちに、壊れた堤の修繕や、冬を越せない家への穀物の配分を命じた。ある夜、佐比売が炭火の上で豆を煎りながら、「名を残したいとは思われませんか」と尋ねると、飯豊青皇女は針に糸を通し損ね、目を細めてもう一度やり直した。「名は、後の人が好きなように書きます。女だから大王ではないと書く者も、国を治めたと書く者もいるでしょう。けれど、今年の冬に飢える子が一人減ったなら、その子の腹は、私を何と呼ぶかなど気にしません」


弘計皇子が政を引き受ける覚悟を示したころ、飯豊青皇女は大王の座の前に置かれていた青い敷物を片づけさせた。敷物の下からは米粒が一つと、誰かが落とした黒い髪留めが出てきて、女官たちは顔を見合わせたが、彼女は米粒を拾って庭の雀に投げた。朝餉には焼いた鯛と芹の汁が用意され、祝いのための白い衣も届けられていたが、飯豊青皇女は着慣れた青鈍色の上衣を選び、袖を軽く振ってから広間へ向かった。そこには王位を望まずに王位の前へ立った皇子と、王位に就かずに国を支えた皇女がいた。飯豊青皇女は弘計皇子の前に進み、自分が預かっていた剣と鏡を差し出した。「国は、あなたの物ではありません。私の物でもありません。田を耕す者、魚を捕る者、布を織る者、そしてまだ名もない子どもたちから、しばらく預かるものです。返す日まで、粗末に扱ってはなりません」


政を渡した翌朝、飯豊青皇女はいつもより遅く起きた。部屋の隅には読み終えた木簡が積まれ、昨夜脱いだ衣が几帳に引っかかり、火鉢の灰には佐比売が煎った豆が一粒埋まっていた。彼女は飾りの少ない麻の衣に着替え、髪を低く結び、炊屋で余った大根の汁を椀によそわせた。汁は少し冷めていたが、噛むと大根に山鳥の脂がしみており、彼女は初めて椀を空にした。庭では雀が昨日の米粒を探し、若い女官が洗濯物を落として慌てて拾っていたため、飯豊青皇女は戸口にもたれ、しばらくその様子を眺めた。「今日は何をなさいますか」と佐比売に聞かれると、彼女は袖口から縫い残した糸を見つけ、歯で切った。「まず、この衣を洗います。それから畑を見に行きましょう。国を預からなくても、暮らしは毎日続くのです」



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