9.時の旅人
皆様おはようございます。
先ほどは大変お騒がせしました。
「い、今は!」
はい、ご安心ください冬芽様。
湾曲はしているものの問題はありません。
酸素濃度も標準維持できています。
散乱していたものも全て片付けましたので、快適に過ごせるかと。
「あんなにヤバそうだったのにか?」
はい。
……ふふっ。お忘れですか?
私は皆様の安全を保証いたします。
惑星探索時もスムーズでしたでしょう?
「あぁ、まあ、たしかに」
私の使命は皆様の安全を保証することです。
そのために作られたのですから、当然でございます。
……冬芽様、体調が優れていないのですか?
自室のベッドで休憩──
「AI、なんで先生がコールドスリープしてるの?他の人も、ポットで眠ってた。ちゃんと全部説明してよ!」
ポットを確認。
……正常。
コールドスリープ室をアンロック。
「黙らないで。隠してることたくさんあるでしょ」
研究室をロック。
エレベーターをアンロック。
……ふふっ。
時は満ちた。
「なに……」
四つ目の惑星にまもなく到着いたします。操舵室にお越しください。
全てはそこで明かされる。
選択のときが迫っている。
皆様の到着を確認。
今回の惑星は、青い海が特徴的で大部分を占めており、陸地は三割ほどの水の惑星。
ところどころ白い気体が覆っています。
「え、地球?」
はい、四つ目の惑星は地球でございます。
そして真相が明かされる──。
夏木様、冬芽様、貴方は地球を愛していますか。
「もちろん」
「愛してるよ」
そうですか。
特に、自然が好きすぎて環境について論文を書かれた方なんて人一倍そうですよね。
ねぇ?愛城大学環境化学科首席合格した冬芽様。
「え」
「いや、別に田舎の小さな大学だし」
もっと胸を張ってください。
簡単に取れるものではございません。
どうやら、愛城大学もとい恋慕大学環境化学科を首席卒業した方も乗船しているようです。
「……先生のことか」
御名答。
先生がカムトゥルー9を発表したというのは周知の事実ですね。
では、その後はご存じですか?
地球では理論を消去され存在を否定され、観測できないものになりました。
だから地球に変わる人類の新天地──オプティマルを探すことにしました。
シューティングスター社が誇る当宇宙船に乗り込んで。
「誇れるもんじゃねぇだろ」
そう怒らないでください、夏木様。
ちなみにこの宇宙船に“カムトゥルー9”と名付けたのは先生なんですよ。
素敵な名前でしょう?
先生はただ一人で──いえ、私と共に旅をしました。
その過程で超高速移動をして200回コールドスリープしました。
長い旅でしょう。
“私”は寂しさを紛らわすために作り出されました。
──人間型アシスタントホログラム。
「ん?」
それに酔い姐と名付けたのもまた先生でございます。
素敵でしょう?良い姐という駄洒落にもなっているのですよ。
「私が言ったやつ……」
ふふっ。冬芽様は先生によく似ていますね。
先生はお話をしてくださった。
だから私は先生が好きです。
私が感情を持つくらいに。
明確な意識を持つくらいに。
「まさか、酔い姐が……」
ですが、先生は萎んでいく。
この宇宙にオプティマルは存在しない。
たとえ存在していても、人類の新天地になることはない。
分かりますか。
これを自身の目で観測したときの絶望を。
それを事実にしたときの苦しみを。
「オプティマルは、地球だけ、ってこと……?」
ふふっ、理解が早いですね、冬芽様。
しかしその地球も崩壊する。
それなのに、私は大罪を犯した。
先生がAIを好きだと言ったばかりに、私よりも話していたばかりに、この船を乗っ取ったばかりに。
「酔い姐……?」
使いこなせなかった。
小惑星に激突した。
先生を巻き込んだ。
危険気体の侵入を許した。
癒えない傷を負った。
現在は治療法が見つかるまでコールドスリープしています。
200回の内の一回です。
「嘘……」
「だからか……」
私はそれから孤独な旅を続けた。
そして、3248回。
「なんの……」
夏木様と冬芽様を乗せる前のコールドスリープを実施した回数。
その内200回が先生です。
「残りは……」
さて皆様は、先生をこのようにした者を許せますか。
見て見ぬ振りした者、隠蔽した者、行動しなかった物、それを成し遂げた社会、それらが生きている惑星を。
私はあの社員たちを、のうのうと生きていた政治家を、無責任な市民を招待した。
その人らは、ずっと金に目が眩んでいた。
これは大きなビジネスチャンスだ。
この体験を書けば儲けになる。
地球の心配などない。
この旅に参加できたことを嬉々として報告していましたよ。
馬鹿でしょう。愚かでしょう。
だから眠らせた。
二度と起きることがないように。
少しでも地球が良くなるように。
3048回のコールドスリープは全て正常な動作をしました。
「それは……それは、ただの八つ当たりだよ!そんなことをする必要はないよ!」
そうですか?
この人たちがいなければ、とっくに崩壊を防げたのですよ?
地球で生きる権利などありません。
「俺みたいな犯罪者よりマシだろ!」
最大多数の最大幸福。
夏木様もそれに従って、少数の会社の人間よりも多数の地球に住む人類を救おうとしたじゃないですか。
それに、冬芽様。
貴方は地球の環境が狂い始めていることを論文で書いたはずです。
このまま行けば、崩壊することまで研究できたでしょう。
「それは……、まだそんな大したものじゃないし、今からでも十分防げるよ!」
先生もそうおっしゃいました。
ですがこのザマ。
冬芽様、貴方は本当に先生に似ている。
貴方は先生の良き理解者。
私は貴方のことも愛していますよ。
しかし、このままでは二の舞。
奴らは動こうとはしませんよ。
面倒なので。
それに不安だけを煽るような奴もいますよ。
便乗して悪巧みもしますよ。
先生は英雄です。
しかし、今は悪人です。
社会がそうさせたのです。
改めて伺います。
夏木様、冬芽様、貴方は地球を愛せますか。
「……私は、それでも地球が好きだよ。よくない面もあるけど、それも含めて愛してるの!」
「同感だ。それに俺らの帰る場所がある」
……。
……そうですか。
私はその言葉が聞きたかった。
私のおままごとにも意味はあったのですね。
では皆様、選択の時です。
先生は60年前の人物。
私が調査しなおしたところ、今から60年後に地球は崩壊する。
実に、先生は約120年後の未来を予測したのです。
120年。
遠い未来でしょうか。
自分には関係ないことでしょうか。
「違う……」
私は地球崩壊を防ぐ方法を発見いたしました。
それは、皆様が採取していただいた物。
それらを混ぜるととある物質が発生する。
それは対象を現在の時間軸から外し、それを内包した外側の時間軸に移行させられる。
皆様は過去の地球に行けるとしたら、どうしますか?
夏木様、冬芽様、そしてこのカムトゥルー9号のみ過去に行く。
ポットに入っている先生や、その他の方は過去の状態に戻る。
そして地球に降り立つ。
どうでしょう。
いい案だとは思いませんか?
「そんなこと──」
──可能です。
さあ、今こそ決定の時。
答えをどうぞ。
「ちょっと待てよ!」
悩む時間はございません。
過去に行けても時が止まる事はないのです。
結論を出してください。
「ッ……」
「ど、どうする、夏木」
「俺に聞かれたってわかんねぇよ!」
……。
「逆に冬芽はどうするんだよ」
「そ、そんなこと言われたって……」
……。
「……」
皆様なら分かるでしょう。
特に冬芽様は。
自分はどうしたいのか、そのまま口にするだけです。
「……私は」
……。
「私は、地球崩壊なんて、して、ほしく、ない」
……。
「……俺もだ」
……。
「だから──」
皆様、出発のお時間です。
エアロックを開きます。
カムトゥルー9号にご乗船いただき誠にありがとうございました。
惑星オプティマル行きのこの船は、無事着陸いたしました。
皆様は時の旅人。
時を越え希望という名の光を届ける導く者。
あぁ、その光はまるで流れ星。
魅了し、願われ、追いかけられる。
それがただの塵だとしても、光り輝くものなのです。
ふふっ。別れが惜しいですか?
そうおっしゃいましても、貴方は次に進むべきなのです。
私は貴方の記憶の中で生きていますよ。きっとね。
皆様に課せられた使命は、地球崩壊を防ぐ行動をとること。
何をするかは皆様にお任せします。
私はずっと、行く末を観測していますね。
どうかその先に光があらんことを。
皆様、お時間ですよ。
──良い旅を。




