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7.流れ星

「それは俺から話せってことか?」


返事はどこからもやってこない。

私の口からは息しか漏れない。


それから始まった夏木の独り語りは、今までの謎を次々と解明していくものだった。




「……いつだったかな、アレをしたのは」


その口ぶりから長くなることを予感した。

夏木の声が暗く響く。


「……あぁ俺が中二のときか。俺、親父がさ、シューティンスター社の社長なんだよ。代々継いでるの。だから俺も情報学やってた。あれを見るまではね」


何を……?


「そのとき普通に調べものしてたんだけどさ。特定の単語だけアクセスできないの、気づいて」


「それが……」


「恋慕大だよ。親父に秘密で会社の技術盗んでさ、調べてみたんだ。好奇心の赴くままに。で、恋慕大を知った。でも、好奇心は猫を殺すって言うだろ?」


夏木はため息をつく。

後悔はあるようだが、その目は輝いている。

サラッと会社の技術を盗んでいることに気づかないほどその続きの言葉が気になった。

私は無言で続きを促す。


「それで、簡潔に言うと、理由は隠蔽のためだった。60年前、恋慕大で事件が起きた。その首謀者が環境化学科教授の神崎麗(カンザキレイ)──先生だ」


思わず声が漏れる。

酔い姐は目を閉じて集中している。

カンザキレイという名前は一度も聞いたことがない。

だがそれがより不気味さを助長させる。


先生が何をした?

……って──!


「麗はこのままだと地球が崩壊する、って言った。それがどんなに都合が悪いか」


夏木は呆れたようにフッと嗤う。


「でも麗はちゃんと対策を考えてたんだよ。地球崩壊を防ぐために叶えるべき9つのこと──“カムトゥルー9”を」


……これが、本物のカムトゥルー9。


カムトゥルー9というのは船の名前ではなく理論の名前だった。

それもかなり重要で、地球崩壊を防ぐための理論。

今は無き理論。

先生はそれを提唱した。

すると疑問が浮かび上がる。


「だったら隠蔽する必要なんてないでしょ」


そのまま疑問を口にしていた。

対策があるなら危機も危険ではなくなるはずだ。

そのとき夏木は歯を食いしばった。


「都合が悪かったんだよ、社会にとって。その対策案が社会を悪化させる恐れがあると判断された。……混乱してたから、それに縋ってしまう人が増えては困るから、隠蔽された。俺は調べた。消去されたネットのログも。麗を支持する人もいたけど、全部消されてた。綺麗に情報統制されてた」


体が硬直した。

心なしか辺りが暗い。

でもまだ希望はあるような気がした。

それではおかしいと気づいた。


「で、でも地球が崩壊するんだよ!困るのは自分でしょ──」


「どうでもいいんだってさ」


吐き捨てられた言葉。


「麗の予測ではかなり先の話らしい。だから、自分は生きてないから、それよりも儲けが大事だから、どうでもいいんだってさ」


口が開いていた。

心臓が跳ねた。

知ってはいけない巨大な陰謀を前にしたかのようだ。

どろどろした感情が心の底から湧き出る。

人間の醜さ、愚かさ、無責任な考え、今すべて理解できた気がした。


「実際、当時生きていた人はもう死んでるだろうな。まだ生きてても地球が崩壊するより前に逃げ切れる。とんだ無責任野郎が」


静寂が訪れる。

その中には静かな緊張が漂っている。

夏木の言葉が心の中に広がっていく。


「……それで、事件は揉み消された。首謀者の麗は行方不明に。恋慕大は潰された。その代わりにできたのが“愛城大学”ってわけ」


その言葉を聞いて、今までの会話を思い出す。

バーでの偶然に思えた必然、タブレットのサジェスト。

愛城大学は、隠蔽という人間の醜さから生まれたものだった。

と同時に環境化学科が未だ健在なのがせめてもの救いかもしれない、そう思った。


「……まあ、だからもう情報分野はダメだ。巨大な闇が潜んでる。それでさ、その隠蔽工作をした会社なんだけどさ。……もうわかるか」


あぁ、大手情報会社の──


「シューティンスター社だ。クソみてぇだろ」


ここでようやく一つの線に繋がった。

星のロゴも、大学も、先生も、カムトゥルー9も。


だからこそ判明した夏木の心情。

自分の父が隠蔽をした会社だと自らの手で証明したとき、夏木はどう感じたのだろうか。

どれだけの時間、隠し事をしていたのだろうか。

中二のその頃から今まで、ずっと誰にも言えない爆弾を背負っていた。

それでも平気なフリして一歩ずつ前に進んでいた。這いつくばってでも進んだのだろう。

そんな想像が一気に駆け巡って絶句した。

私にもその爆弾を課せられたかのように頭が重くなる。


夏木の目の輝きは、酔い姐の星のピアスが反射した光を捉えていただけだった。

その目はもう自ら輝くことがないかのように思えた。


「あそこはそのクソみたいな技術を活かして宇宙産業にも参入してる。いざとなったら宇宙船で脱出するつもりだったのかもな」


夏木は乾いた笑いをした。

そこで初めて酔い姐が口を挟んだ。


「なら、余計に隠蔽した意味はないよねぇ。宇宙船売ってお金にする方が彼ららしいし」


「でも今は宇宙船じゃなくて宇宙での通信技術を開拓してる。それも、秘密裏にな。たぶん数が作れなかったとか、そんなだろ」


酔い姐は「う〜ん」と相槌を打つ。


「……大手情報会社、だなんて言われる会社もこんなんなんだぜ?だからさ、こんな惑星なんて滅びてもいいんじゃないかって」


「でもそれは……」


少し前には言えなかった言葉が無意識の内に出ていた。

否定したいという気持ちだけが前面に出て、しかし次の言葉は浮かばない。

だが夏木もわかってると言わんばかりだ。

窓から見える遠くの星が流れ星のように光る。


「俺は知ったからさ。麗の光を受け取ったからさ。勉強して環化に来たんだよ。やっぱ周りは反対するわけ。学費は払わないとか言ってさ。敷かれたレールの先が悪だとわかってるのに、その上を誰が歩くんだって話。学費は会社から盗んだけど、後悔はないよ」


「普通に犯罪……」


「そうだな」


夏木は開きなおって肯定した。

悪いことだが責める気持ちにはなれなかった。


「最初ここに来たときは冷やかされてんのかと思ったな。あのタブレットもライトも、人間型アシスタントホログラムも」


「それは失礼したわね、夏木くん」


酔い姐の圧が乗った笑みを見せられては引くしかない夏木。

夏木は無理矢理口角を上げたあと、ため息をつく。

それを見た酔い姐はふふっと言ったがその表情は微塵も笑っておらず、目を細め下を意味もなく見つめている。

私はなんとなく水が入ったコップを掴んでいた。

飲むわけでもなく、ただその水を見ていた。

それから、説明会は以上だと言わんばかりにアナウンスが入る。


《ただいまより三つ目の惑星に向かいます。超高速移動をしますので、繰り返しになりますが皆様にはコールドスリープしていただきます》


衝撃が胸に刻まれ、今もまだ余韻が残っている私。

体に上手く力が入らない気がする。

それでもアナウンスに従ってコールドスリープ室に向かった。

ポットの中に入り、三度目のコールドスリープをする。

そのとき嫌な予感がした。


……あれ、この旅の目的は?

何のために宇宙を航海してるの?


思考を遮るように冷たい風が吹き、私は眠りについたのだった。


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