3.未知の知
急に天井が開き、今度は本当に惑星に放り出されることになった私たち。
「ねぇ、これ触って大丈夫なの?」
「わかんねえけど、酸的なものではなさそうだな」
すると先生の通信が届く。
『安心したまえ。人体に害がないことは既に確認済みだ』
宇宙服の機能の一つなのか、ディスプレイで見たままの通信ががまるでそこにあるかのようにホログラムで現れる。
宇宙船は、黄緑色の液体が流れる川の近くに着陸した。
それから夏木と困惑しながら、しかし行くしか道はないと覚悟を決めてこの惑星に降り立った。
慣れない色が目に入り、何かの薬品のような花のような、嗅いだことのない匂いがこれが現実であることを証明する。
目を閉じれば、液体が流れる音や風が草を揺らす音が広がるだけで、地球と同じところもあるようだ。
私たちは宇宙服によって重力がある場所でも宙に浮いて自分の思うように動くことができた。
移動は驚くほど快適だった。
……こういう系の技術ってほんと意味わかんないよね。
服についていた透明な水筒のような器で、目の前にある黄緑色の液体を掬う。
液体の近くではより強く薬品のような匂いがして緊張する。
震える手足に無理矢理力を入れた。
触っても大丈夫だとわかっていても気持ち的には触れたくないので、上手く液体に触れないように慎重に行う。
思っていたよりサラサラとしていて粘り気は少なく、液体なのに砂のようだ。
夏木も同じく川に近寄り、結構大胆に液体を入れていく。
その川に映った自分を見つめて夏木は言った。
「しっかし、人類滅亡の危機を救えだなんて大層なことを言う割にはたった二人だけなんだな」
「たしかに。流石に二人だけなのは寂しいし、責任重大だね。むしろそれが狙い?」
「だからといって、二人だけは非効率的だろう。……まあ、案外そうでもないのかもしれないか」
夏木は透明な器に入った液体をまじまじと見つめる。
それを見た私も、自分の器を見つめる。
「何に使うんだろう」
「さあ?」
『次は足元の土を採取していただきたい。だがここで注意してほしいことがある』
そんなことを言うので、危険なことでもさせられるのかと身構える。
先生はそれを見て苦笑した。
『……そんなに信用されていないとはね。まあいい。注意点はただ一つ。夏木君にはその液体によって濡れた土を採取していただきたい。冬芽君はその逆で、濡れていない土を採取していただきたい。足元の土で十分だ』
「対照実験ってことか」
その通りだ、と先生は微笑む。
……あぁ、よかった。
でもいつかしれっとヤバいこと言ってきそうだよね。
いや、もう言われたか。
私は言われた通り足元の乾いた土を、服についていたスコップで掘る。
さっき使ったやつと同じ水筒のような器に入れ、蓋をする。
この土はとても見慣れているもので、地球のものに近い。
夏木は当然のように、躊躇せず液体に触れながら、液体ごと土を入れる。
そして器を傾け、液体だけを外に出した。
「よく触れるね」
「まあ、素手じゃないし、先生が安全って言ってたからちょっとぐらいいいんじゃね?」
まあそっか、と釈然としないまま言葉を返す。
二人ともが採取し終えた後、『お疲れ様』と先生から探索終了の合図が出た。
少し重たい謎の液体と土と共に、操舵室に帰ってくる。
エアロックもとい天井も閉まり、宇宙服を脱ぐ。
部屋ごと下がった後、いかにも「ここに器をはめてください」と言っているような台がある部屋が目の前で開く。
《皆様お疲れ様です。採取したものをこちらにセットしてください》
その部屋の看板に「研究室」と書かれているのを横目に見ながら、宙に現れた矢印の通りセットした。
《解析には時間がかかるため、皆様は先に中央ホールにお戻りください。自室も用意いたしましたので、休憩なさっても結構です》
緊張感からひとまず解放されて、どっと疲れが溜まった気がする。
私は用意してくれた自室に向かうことにして、夏木と共に中央ホールに帰った。
そのときだった。
中央ホールと隣接しているバーで、とある女性がバーテンダーのように微笑んで立っていた。
その女性は私よりも大人で少し色気がある、良いおねえさん、というような人。
私たちを視界に入れたと同時に口を開いた。
「お帰り〜。いい旅してる〜?」
その女性の星のピアスがキラリと光を反射する。
「「誰?」」




