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【中編】0.愛と孤独

コールドスリープから目覚め、とある惑星に降り立つ。

その惑星の周りには大量の小惑星が浮いていたことは記憶に新しい。

宇宙服を着て荒地を移動する。

足元にあるのは白くて小さなバラ。

正確に言えばバラではなく鉱石だ。

耳をすませばチロチロと音が聞こえる。

これが、例の時間が歪んでいる鉱石だ。


思っていたものとは違うが採取を試みる。

両手を開いて根本から掬い上げるように取ってみる。

しかし、それでは取れない。


根本と繋がっている……?

いや、これはバラバラだ。

……バラだけに。


花弁を一枚だけ摘んで取ってみる。

するととても取りやすいではないか。

ついでに隣の花弁も少し動いた。

さらに取りやすくなったようだ。


“外側の花びらから順に一つずつ取ると、取りやすい。”

アイにメモをそう取ってもらう。

それからタッパーに入れていく。

思っていたより花一つに量があり、容量的には二つ分しか入らない。


……サンプルとしては十分か。


“量は、花二つ分あれば十分だろう。”

それもメモを取っておく。

思ったことをそのまま書くというのも思いがけないデータになる。

神崎はそう考えているからこそ口語のままメモを取ってもらった。

早く解析したい気持ちでいっぱいな神崎はとりあえず研究室に戻った。




研究室にて、神崎は頭を悩ませていた。

時間が歪んでいると言われる理由がわからないのだ。

解析したところ未知の物質だったとはいえ、何かが歪んでいるわけでもない。


……特定条件下の話か。


とりあえずの結論を出す。

他の物質との兼ね合いもあるかもしれないと思い、解析を続けながら周辺の惑星に向かうことにした。


それから神崎は幾つもの惑星に降り立った。

紫色の気体の霧に包まれた星。

海の代わりに黄緑色の液体が流れる星。

そこでさまざまな物質を採取し解析した。

その過程でどれだけ超高速移動をしたか、コールドスリープをしたことか。


今日もまた探索から帰還し、暑苦しい宇宙服を脱ぐ。

採取した物質を研究室に置きに行こうとした、そのときだった。


「無い……」


前採取した時間が歪んでいる白い鉱石が。

焦燥感に駆られ小走りで研究室に向かう。

すると突如視界の中心に白い鉱石が現れる。

何事もないかのような顔をしている。


……見間違い?


いやそうではない、というような違和感を覚える。

小さな違和感は研究者として見過ごせない。

神崎は思考を始める。

そして一つの仮説を立てた。


「光が進む速さが遅いのか?」


その呟きが研究室に広がる。

時間が歪んでいると言われる所以が理解できたような気がして、神崎は今日も研究に没頭していく。

今日も睡眠時間が削られることだろう。




神崎は白い鉱石を解析しつづけた。

その鉱石には時間旅行を実現させるエネルギーがあることを確かに観測した。

そして判明する。

白い鉱石の正体は、そのエネルギーを凍結させたものだったのだ。


「これを解凍さえできれば……!」


「遂に時間旅行の光が見えてきたわね!」


酔い姐の胸の中で暖かな光が広がっていく。

だが神崎の頭にはとある冷たい理論が横切った。

時間旅行とはどういう原理なのか。

それを解明しなければならないと使命感に駆られ、今までの結果を脳内で振り返る。

神崎を刺激する一筋の光。

その解を自分は導き出せることに気づいた。

神崎の脳内にはハッキリとした理論が思い浮かんだ。


「そうか……!二重の時間軸か」


この鉱石には、外側の時間軸の中にある現在の時間軸を外し内包した時間軸の過去に行くことができる。

こういう説明を酔い姐にしたのだが、ちんぷんかんぷんだ。

追加の説明を嬉しそうに語り出す神崎。


「例えると、アニメの時間軸とそれを見る私たちの時間軸のようなものだ。アニメでいくら時間旅行したところで私たちの時間軸は常に一定だ。その上時間旅行したとき、その前の世界のその後は描かれない。つまり存在しないんだ。存在しないから矛盾もしない」


決め台詞を言うかのように次の言葉を放つ。


「つまり、時間旅行が可能なんだ」


酔い姐はその説明で理解できたようなできなかったような、曖昧なままだ。

だがそれよりも目の前の笑顔が眩しくて、楽しそうに話してくれるのならそれだけで十分だった。

その笑顔を見ながら、水面下で淡々と事を進める。




ある日、革命は起きた。

なんと研究した結果、あの白い鉱石を解凍する術を見つけた。

黄緑色の液体で赤い鉱石と青い鉱石をそれぞれ溶かし、できた液体を混ぜていく。

そうしてできたスカイブルーに輝く液体が、凍結させていた物質を解凍させることができる。

研究結果がそう裏付けていた。


年月にして40年。

成果に対してあまりにも短い研究時間だが、長い年月をその研究に捧げたことには代わりない。

相談できるのはAIのみで、賑やかだが孤独であった。

それも終わりを迎える。

神崎の胸の中は希望で満ち溢れている。

地球崩壊の原因がわかった上に、遠い遠い幻想だった時間旅行も可能にさせた。

今ならいくらでも力が湧く。

あまりの嬉しさに船内を走り回る。

その後疲労でパタリと倒れてしまったが、笑顔は絶えなかった。




そして、遂にこの時が来た。

時間旅行を神崎たちがする時。

そして酔い姐が狙っていた瞬間が。

カムトゥルー9号ごと時間旅行しようとしていたため、多めに材料を準備する。

そして、調合する。

少し慣れた手つきで進めていく。

そのとき神崎はふとこう思った。


……時間旅行してしまったら、この世界の未来は存在しないということか。


その瞬間、惑星アーサンドにいた時のことを思い出す。

夢を抱く子供たち。

いつかの希望のために頑張る大人。

路上でバイオリンを弾いていたあの少年。

科学者の友人たちや、自分の教え子。

両親にそれから猫や青いバラや全て。


──私は全ての未来を奪うのか?


手が止まる。


「先生?」


心臓が跳ねる。


──これでいいのだろうか。


思考を巡らす。


──このままアーサンドで暮らせばいいじゃないか。


息が漏れる。


──この世界だって別に。


汗が出る。


──いや、何のために研究してきたんだ。


歯を食いしばる。


──私は地球を救うんだ。


その思考に辿り着いた途端に一気に思考が溢れ出す。


そうだ、そうだ。

私はそのためにここまで研究したんだ。

地球が好きなんだ。

それに、完全に無くなるわけじゃない。

過去に戻っても時が進めば彼らも産まれる。

時が進む限り未来はやって来る。

彼らの存在がなくなることはない。

確かにここに存在したのだから。

さらに、地球人口の方が多い。

アーサンドに人口が流れたとはいえ、未だ地球に住む人も多かった。

最大多数の最大幸福。

そうだ、それでいいんだ。


ときに感情(あい)は理論を超える。


《神崎様、どうかされましたか》


その声で意識を現実に戻す。

酔い姐もその声に反応して、鋭い視線を返す。


「先生?」


「……あぁ、ありがとうアイ君。それに酔い姐。大丈夫だ」


酔い姐は貼り付けた笑顔を見せる。

作業の続きを行う。

迷うことのない手つきで次々と進めていった。

そして、事は起きる。


白い鉱石に液体をかけ、気体のような液体のような物質が発生する。

それが神崎を包み、研究室を包む。

やがてアイも包まれ、カムトゥルー9号全体がその物質で満たされた。

そして、静寂が訪れた。

体は動かない。

視界がグニャリと歪む。

抗いようのない力が加わって君が悪い。

やがて元に戻る。


……内側の時間軸から外れたのか?


そうこうしているうちに、窓から見える景色が動き出す。

だが船が進んでいるわけではない。

過去に戻っているのだ。

この宇宙が高速で逆行している。

自分はそれとは違って通常通り動けた。

だが目の前の景色をただ眺めていた。

遠くの恒星が消えたり、何もないところから突然恒星が現れたり。

惑星が逆向きに動いたり、いつもよりずっと速く動いたり。


狙いは160年前。

どれくらい過去に行くのかは、ある程度計算して量を調節していた。

だがもちろん正確ではない。

推測に推測を重ねて、概算で出すしかなかった。

誤差はどれくらいになるのだろうか。

そもそも無事に過去に行けるのだろうか。

不安と期待がせめぎ合う中、周りの景色がゆっくりになった。

窓の向こうにある宇宙に向かって手を伸ばす。

そのとき再び視界がグニャリと曲がった。

その中で酔い姐の口角が上がったように見えた。

ノイズ音のようなものが頭の中に響く。

不快だ。

それを乗り越えて視界が元に戻る。

酔い姐の笑みは気のせいではなかった。

一度も見たことのない悪い笑みを浮かべて目を伏せている。

ノイズ音もまだ鳴っている。

ノイズ音が鳴り止んだと共に、酔い姐の口が開いた。

だが声は聞こえない。

そのとき神崎は知らなかった。


《……地球のインターネットに接続。……成功しました。144年前の宇宙に到着しました》


そこにあるのは愛ではないということを。

しかし神崎は気づかない。

さっきの超常現象を目にして放心していたから。


遂に酔い姐はアイを手にした。

時間が歪むこの瞬間を狙って、この船をジャックした。

ずっと水面下で準備を進めて、このときを待ち望んでいた。

天地はひっくり返る。

たった一度しかないチャンスを、逃すことなくやりきった。

迷うことのない決意。

今あるのは満足感。

邪魔者はもういない。

酔い姐は勝利を宣言する。

アイに代わって到着のアナウンスをしたのだ。


このとき酔い姐もまた知らなかった。

狂気の牙が自分に跳ね返ってくることを。


地球に希望の光が未来から届く。

その男がもたらす淡い光は、時を越える。


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