表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第3章 音色の違う行進曲
28/34

第27話 苗木

 人間の世界にワーウルフの居場所を作る。

 そう決めてから、俺は奴らを知ろうとしている。


 本はまるで友人のようで

 歴史や文化だけでなく感情までをも文字にして、人間というものを惜しげもなく語ってくれる。


 だからこそ思い出す。

 隠れ住んでいたワーウルフには不要な文字の学習を、父さんは厳しく強制させた。


 怖かったし、嫌いだった。

 そこに父親としての愛情を感じたことがなかったから。


 でもその代わり


 エルフ訛りが混じった文字学習

 自分と向き合うための時間

 戦士の儀


 族長として生きた父さんは、人間世界に根を張るための苗木となるよう育ててくれた。それを埋める場所すらも用意してくれていた。


 きっと、父シグァはそれになりたかったし、欲しかった。

 だから、集落の若者に与えたんだ。


 でも、俺はシヴァだ。父さんじゃない。

 自分で考えて、自分で決断をして、生きていくのが望みだった。それができるだけの選択肢が欲しかった。


 だからもう、迷う必要なんてない。

 人間世界に自分という苗木を埋めて、最初の木として根を張らす。


 俺がここで産む腐葉土は、あの森では作れない。

 だから、隠れ住む同胞達よ。

 それを使って強く育て。

 新たな森となって、思うがままに広がっていけ。


 俺は絶対に枯れたりしない。

 ビビりもしないし、もう悟らせない。


 人間の前で笑って見せよう。

 牙を隠して、言葉を交わそう。

 握手やハグをするために、爪も隠すさ。


 1人ぼっちのワーウルフ。

 取るに足らない下等な亜人。


 甘い果実を実らせれば

 きっと、俺を切り倒せない。


 ************



「怖いですか? 俺が」


 そんな言葉が、差し込む朝日から熱を奪った。

 シヴァはしばらく硬直すると、咄嗟に口を手で覆う。

 ピンと立った耳には中年男の心音が届いている。

 それは悲鳴のように窮屈で、騒がしい。


「あ……いえ。まさか……」


 にもかかわらず、男の目はワーウルフを避け続けていた。

 都市の人間とは正反対のその態度に、シヴァはかえって冷静になる。

 口元にあった手を膝に置いて、彼は穏やかな表情を作った。


「あんなことがあったんですから、不安にもなりますよね」


 朗らかな声で、シヴァは更に言葉を続ける。


「でも、安心してください。貴方の荷馬車には誰も近づいていないですよ」


 するとその瞬間、男の目がシヴァに向いた。


「一晩中、見張っていたんですか?」


 見開かれた瞳にはワーウルフが映っている。男は手を胸に添えて、心臓を宥めている。


「あ、寝ていないわけじゃないですよ」


 そう言ってシヴァはわざとらしく、自身の耳と鼻を順に指差した。

 その後にまた笑顔を作る。


「違和感があれば起きれるんです」


「起きれるも何も……」


 男は荷台に視線を移した。硬く冷たい木板で床を作り、壁と天井は白い皮布。前後は大きく空いていて風を隔てるものはない。


 シヴァは自身が座る荷台を撫でる。


「ここよりも私にとっては宿屋の方が大変で……。信じられないことに」


 それをやめて、男を見ると目を細めた。


「人間の家は、トイレの場所が近すぎるんです……」


 シヴァは大袈裟に鼻を摘んで、笑った。

 それに釣られて男の頬も少し緩む。

 心音も段々と穏やかになっていく。


 夜の冷気は、朝日によって掻き消された。

 荷馬車を明るく照らしている。


「でも」


 布一枚で影はできる。


「人間は好きですよ。賑やかで、楽しくて」


 シヴァはまだ、ただ笑顔を貼り付けただけ。

 フードに隠れた瞳の奥を、まだ偽れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ