表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人の行進—ソロの狼煙—  作者: しまうま
第3章 音色の違う行進曲
26/34

第25話 遠吠え

「どうされました?」


 カルランの穏和な声と静かな足音が馬車道を滑る。

 その問いを受けるのは中年の男女で、大袈裟に声を震わせて返答をする。


「ああ、手綱が切れてしまって……。こんな道の真ん中ですみません……!」


「すぐに退かしたいのですが……。私らにはどうにも……」


 そんな会話が、荷台に潜むシヴァの耳に届いていた。

 立ち上がった耳が小さく動く。それに合わせて鼻の向きを小刻に変えている。

 彼はそうしながら、声を抑えて言葉を放った。


「ネル……!両脇に3人ずつみたい……! 2人一組で四方を囲むつもりかも……!」


 ネルは馬車の手綱を握っていた。黒緑色のフードを深く被っているために、後方からでは表情が見えない。


「了解。私は西ね」


 彼女は息を抜くように小さく呟いたかと思えば、大きく息を吸ってカルランに声をかける。


「あなた〜! 放っておいて先を急ぎましょうよ〜。あと6()()しかないのよ〜」


「……せっかちだな〜お前は! ()()()()()()積荷が崩れたらどうするんだ!」


 そんな彼の声を聞いたシヴァは声を落として、すぐ側で屈む女ドワーフの名を呼んだ。


「ビリス……」


 その切れ長な黒い瞳と目が合うと、彼は小声で言葉を続ける。


「タイミングは俺が測る……。真後ろと東側の敵を頼む」


「わかったわ……。でも、武器がまだ決まってないの……」


 ビリスは並べられた冷たい鉄の刃をそっと撫でた。


「シヴァくんが決めてくれない……? 愛に優劣をつけたくないの……」


 そんな時に、カルランの声が耳に届く。


「私たちの馬で、貴方の馬車を退かします! 良いですね?」


 そうして、馬が一頭、また一頭と離れていくのを感じ取る。

 それに応じて、ジリジリと林の中の人間の気配も近づいてくる。


「……わかったよ! 適当に選ぶからな……!」


 馬の軽やかな足音が響き始める。それらはあっという間に近づいて、すぐ側で止まる。


 武器を見ていたシヴァの目の色が一瞬で変わった。

 そうしてすぐに駆け出すと、外に飛び出る直前でその片足を踏み上げて、上へと跳ねる。そのまま梁に片手を引っ掛けると、前転するように荷台の屋根に飛び乗った。


 シヴァは西側の騎馬に視線を向ける。剣や槍を持った男2人が、馬上で固まり目を丸くしている。


 彼らはその怪物に注目をした。

 視線を他に逸らせない。


 それを感じ取ったワーウルフは、わざとらしく空に吠えた。

 その音が、2人の亜人を戦士に変える。


 すぐに、いくつかの悲鳴と血の匂いが立ち込めた。


 西側の1人が矢を受けて落馬する。

 そして、もう1人にもすぐにネルの放った矢が刺さる。


 シヴァは次に背後を向いた。そこにも2人の人間が血を流して倒れている。

 鉄製の手斧が2つ、それぞれの体を割っている。


「一騎打ちはお好き〜?」


 そんなビリスの声が響くと、東側にシヴァは顔を向ける。


 大斧を持つ女ドワーフと、1体の騎馬が距離を置いて対峙していた。

 すぐに、馬上の男は槍を長く持ち変えて、間髪いれずに馬を蹴る。


 彼女はそれに動じずに、その背丈と同じ大斧を真正面に突き立てた。


 騎馬が迫る。

 槍先が伸びる。


 ビリスは大斧を下げたまま、動こうとしない。

 ただそこに立ち尽くす。


 かと思われたその刹那、まるで斧の刃に隠れるように彼女はその身を低くした。


 鋭い槍先が空を切る。

 その後の咄嗟の二撃目も、馬の速さが邪魔をする。


 彼女から離れていく男の背中は、空振りによる苛立ちで震えていた。

 手綱を引いて、速度が落ちる。


 ——ブォン!!


 突然、そんな鈍い音が風を割った。


 振り返った男の顔が途端に引き攣る。


 槍が折れた。

 鎧は割れた。

 男の胴が抉られた。


 まだ温かい肉体が命を壊され落馬する。


「あら、良い斧ね! うっかり飛ばしすぎちゃった」


 そう言って、ビリスは死体の奥に立ち込めた砂煙に駆け寄っていく。


「愛の感じる武器だったわ〜」


 そんな彼女の気の抜けた言葉を掻き消すように、カルランが叫ぶ。


「降伏するなら、命は取らない! どうする!?」


 彼の目の前にいた中年の男女は、震えて跪いていた。


 残り1人の騎馬した男は、林に向かって馬を蹴る。


 すぐに、その馬は林にたどり着いた。

 しかし、人間は辿り着けない。


「俺の嫁はせっかちなんだ。あんな風に矢が飛んでくる」


 カルランは笑って言った。

 中年の男女はただただ静かに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ