第24話 道中
「鳥人って、要は渡り鳥なんだろ? 手掛かりがここまで全く無いのは……大丈夫か?」
そう言ったのはシヴァだった。
城郭都市を離れて8日目の昼。草原を駆ける馬車の荷台には、彼の他にネルとカルランが座っている。
「亜人が都市部にいると思うか? 本番はこっからよ〜。まぁ、手掛かりが無いのはその通りだが〜」
そう言って寝転がるカルランを他所に、ネルが床に地勢図を広げる。
「と言っても居場所は限られるよ。鳥人は狩猟や移動で空を飛ぶ分、目立つからね」
「そうか、人間に襲われないための民族移動か。睡眠や食事で地上にいる時間も長いはずだし……」
そう言って、シヴァは目を揉んでから地勢図を見た。
しかし、カルランの欠伸と、腑抜けた声がその視線を図面から奪う。
「どうせ酔うんだから、やめておけよ〜」
彼は寝返りをうつと、2人に背中を向けてしまう。
「シヴァちゃんには役割があるんだからさ〜。その立派な耳と鼻で、異変を感じたら起こしてくれ……」
小さないびきが聞こえると、2つのため息が荷台から溢れた。
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それから、2時間ほどが経った。
背後にあった山は更に小さくなり、馬車道沿いに生える木は覚える前に流されて、地平線へと消えていく。
その光景を呆然と、シヴァは眺めていた。
「シヴァ。左手に緑のない山岳が見えませんか?」
そう尋ねたのはネルで、地勢図にぐっと顔を近づけている。
「見えるよ。ついでに煙も。動物のいなさそうな山だし、人間だろうね」
「そっか、報告ありがとう」
ネルは微笑むと、前方に顔を向けて声を張り上げる。
「この速度なら夕方には町に着くよ! 馬の調子はどう?」
すると突然、シヴァは眉を顰めると上を向いて鼻を上げた。数度嗅いで立ち上がる。
「人間の匂いだ! しばらく先! 」
すると、馬車の速度が少し落ち、操縦者からの声が返ってくる。
落ち着いた女の声が風に乗る。
「ええ、見えてるわ。1km先くらい? 馬車一台と人間2人。道の真ん中で立ち往生みたい」
それを聞いたシヴァは、カルランを揺すり起こす。
伸びをして起きるその兵士を横に、彼は更に言葉を前に送る。
「馬は見える?」
「あら、そういう事? いいえ、手綱が切れて逃げられた風ね」
それを聞いたカルランは首を竦めて立ち上がると、剣を腰に携え前へ歩く。
ネルは地勢図をたたむと、黒緑のローブに袖を通す。
「両脇の林に武装した人間と馬の匂い! 数は5人以上10人未満!」
そのシヴァの声を聞いたカルランは全員に告げる。
「馬車の操縦はネルで、相手との接触は俺が担当。2人は荷台で待機ね〜。あとは、打ち合わせ通りに!」
しばらくして、馬車は止まった。
地面に飛び降りたカルランの足音が、少しずつ離れていく。
シヴァは息を殺して耳を立てた。そんな時に、若い女の囁き声がそっと触れるように聞こえてくる。
「ねぇ、シヴァくん……」
鋼の匂いが立ち込める。
「私、どうしましょ……?」
女のドワーフが切れ長の目をこちらに向けていた。三つ編みにして一纏めにした髪の毛を自身の首に巻いている。その黒いマフラーで口元を隠している。
フフフ……と息を漏らすような声がシヴァには聞こえた。
女ドワーフの黒色の瞳が鈍く光っている。
いつのまにか、その足元には多種多様な鉄製武器が並んでいる。
それもまた、暖かな陽光を鈍くて重い光に変化させていた。




