第19話
翌日、さっそくブリューハウに手紙を送った。次の日には返事が来ていた。
『君のもとへ駆けて行きます』
弦の縁取りに馬の紋章までついている。
晶子はニヤリと笑った。
(これで、彼の意図はわかったわね。)
午後の昼下がり。ブリューハウは手に花束を抱えてヴェルハルトの屋敷を訪れた。
「夫人の招待で来た」
出迎えた使用人に告げると、使用人は頭を下げて奥へと案内する。
さすがにアレクシスは留守だろうと、口元に笑みを浮かべるブリューハウ。これから起こるであろう目くるめく時間に思いを馳せていた。
「こちらです」
使用人に案内された部屋で、ブリューハウは足を止めた。
「ティエナ様」
声をかけて開かれた扉に入る。
「まぁ、お待ちしていました!」
ブリューハウは驚き、目を見開いた。
中には他の令嬢もおり、自分の家門とも大事な繋がりのある令嬢までいる。
「皆さんもブリューハウ様とのお話をしたいとのことでお呼びしたんです。構いませんよね?」
『やられた』
ブリューハウは表には出さずに苦笑いをした。
(まさかこんな形で囲まれるとはな)
ブリューハウを囲むように、会話の花が咲いた。
「僕のところでは馬は数十頭の馬を保有していましてね。専用の牧場もあるんです」
「まぁ素敵!」
「数十頭だなんて信じられませんわ!」
最初こそ少し気を落としていたが、可憐な令嬢たちに囲まれて彼の気分も少しは上向いた。
「ティエナ様、君のところは何頭馬がいますか?」
晶子はティーカップを置いて、首を振った。
「恥ずかしながら、知りません。今日にでも夫に聞いてみます。」
「君の夫に? あの彼が果たして君に教えてくれるでしょうか?」
彼の言葉に、周囲の令嬢たちがクスクスと笑う。少し気まずそうではあるが、その笑いには明らかに嘲笑が混じっていた。
(なるほど。まだ舐められてるのね、私は)
晶子は上品に微笑んで、真っすぐブリューハウを見た。
「だめなら執事長にも尋ねてみます。きっと夫より優しく教えてくれるでしょうから。」
この言葉に、その場にいた全員が噴出した。
晶子からしたら冗談でも何でもないのだが、大人しいティエナから出た言葉としては、令嬢たちはとても面白く感じたようだ。
ブリューハウも少し驚きながらも、笑みを浮かべるしかなかった。
(まさかティエナがそんなことを言うなんて。だが、やはり僕が彼女に与えるべき「癒し」はまだ必要だと思いたい)
周囲の令嬢たちと共に笑いが続く中、ブリューハウは心の中で次の一手を考えながら、もはや興味を失ったように穏やかに言った。
「では、今度こそ馬について本格的にお話ししましょうか」
その後、会話は馬術や家々の馬に関する話題で盛り上がったが、晶子はブリューハウの言葉の裏に隠された意図をしっかりと見抜いていた。




