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第18話

「ブリューハウ様。私も馬に興味がございます。どうか教えて頂けませんか?もちろんこの場にいる皆さんも一緒に。」


 晶子は愛想よく笑いながら彼に言った。

 一瞬、彼の目の奥が揺れたのをティエナのすみれ色の目が見逃さなかった。


「もちろんです、ティエナ様。」


「ありがとうございます。私は馬のことには全く知識がないものでして」


「ティエナ様が話に乗ってくれて嬉しいです。それでは後で場を改めましょう」


「分かりました」


 そう言うと、彼は微笑んで周囲の人々に手で挨拶しながら、人の波間に消えていった。

 その後、周囲にいた令嬢たちが興味津々に声をかけてきた。


「ティエナ様、ブリューハウ様とお知り合いなんですか?」


「顔を知っているくらい。でも今日初めてたくさんお話ししたわ」


 一人の令嬢が声を潜めて囁く。


「ブリューハウ様、素敵よねぇ。あの方の腕に抱きつきたい」


 その言葉に他の令嬢たちも頷き、続けて話す。


「見目麗しいわよね。」

「それでいて馬術もお上手ですし。」

「婦人に対する扱いも丁寧ですし。」

「一度でいいからお付き合いしたい!」


 顔を赤らめてはしゃぐ彼女たちを見て、晶子は苦笑いを浮かべた。


(マジで?)


 ティエナの日記といい、さっきの言葉といい、晶子にはあまり彼に対して好印象は抱けなかった。

 しかし、アレクシスに近しい人物であり、馬に詳しそうなブリューハウは、今後の交渉において利益をもたらす可能性がある。


(これがいい収穫になれば、と思うわ。)

 晶子は心の中でその可能性に期待を抱いた。


 パーティーも終わり、晶子は来客を見送りに立った。


 その時、ブリューハウが突然、晶子の手を掴んだ。


「今夜にでも話し合いたいのですが、どうでしょう?」


 口調や所作は礼儀正しいが、目には野性的な光が含まれていた。


(私を……「ティエナ」を見るこのいやらしい目。本当にろくでもないわね。でも、秘策はある)


 晶子は名残惜しそうに微笑み、やんわりと彼の手から抜き出す。


「本日はパーティーの後に、使用人達との反省会もあるので。やめておきます」


 ブリューハウは少し眉を寄せた。


「使用人達との? 君が?」


「ええ」


 彼は少し考えたが、すぐに口角を上げ、哀れんだ顔を向けてきた。


「そうですか。やはり君は可哀そうな令嬢のままなんですね。でも大丈夫です。僕がきっと癒しになりますよ。」


 心の中で、晶子は乾いた笑い声を上げた。

 この男は自分に酔っているのだ。


「本日はありがとうございました。お気をつけてお帰りください。」


 ティエナの見送りに、颯爽と去るブリューハウの背中を見て、晶子は大きく息を吐いた。


「終わったか?」


 背後から低い声がかけられる。

 振り返ると、アレクシスが気だるげに立っていた。


「なら、俺は出掛けるぞ。夕食は一人でとってくれ」


「承知しました」

(はいはい、いってらっしゃーい)


 内心舌を出しながら、晶子はこれから使用人達との打ち上げ会に心を躍らせていた。

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