二人の旅立ち
アドルフは、後悔していた。もっと早く帰っていれば。もっと早く気づいていれば。もっと感謝の気持ちを伝えていれば。もっと、もっと、もっと…。
人はいつ死ぬかなんてわからない。しかし、明日死ぬ、今日死ぬなんてことは考えることなんて無い。なんて傲慢なんだ。動物でさえ、約束された明日なんかない。それはあの施設の中の時と変わっていない。人に大切なことを伝えるのは伝えられるときにするべきだ。次の機会が確実に来るとは限らない。
ガゼフの死体は、椅子に縄で固定されており、いくつか刺し傷があった。しかし、それはナイフのように鋭利ではなかった。おそらく先の尖った岩のようなもので刺されたのだろう。しかし、そんなのは近くに捨てられていなかった。隠蔽なんてしようとしても、それだったら別の獲物を使った方が効率がいい。近くの机には来客用のカップがあり、中には冷めたコーヒーが入っていた。ガゼフの服にはコーヒーがこぼれた痕があった。カップが足元に割れていた。おそらく、睡眠薬が盛られていたのだろう。
また、ガゼフが来ていた服は若干濡れていた。今日は雨は振らなかった。特に水に濡れる要因は無い。それではなぜ?おそらく、殺した犯人が濡らしたのであろう。傷口を見ても水によるものとは思えない。氷ならどうだ?溶ければ水で濡れることもわかる。氷であれば傷口の件も説明がつく。凶器が見当たらないのも。
そうなれば、犯人は魔法使いが濃厚だ。
(街での男たちの会話で盗賊団の頭が魔法を使うって言ってたな。そいつら、本人に聞いてみたら早いか。しかし、まずはガゼフを供養してやらないと。後、モーガンたちに伝えにいかなきゃ。)
ガゼフをアドルフは抱き上げた。ガゼフは思っていたよりも軽かった。あんなに重圧を放ってたのが信じられない。ガゼフだって老人と呼ばれる年齢だった。人の死が軽い世界でこんなにも長く生きれたのだから、ガゼフは若くして死んでいった者達よりも幸せだったかもしれない。だが、こんな嬲り殺しされるような最後だったことは不幸としか思えない。
そう考えると、犯人に思い当たる人物がいた。そいつが盗賊団の頭だろう。盗賊団を追えば犯人に会えるはずだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モーガンとその他狩人仲間の奴らで小さな葬式をした。墓は家の近くに立てた。神は信じていないが神父に来てもらった。こういう時だけ、神に頼るとは都合のいい話だと思っていると、顔に出ていたのか神父が話し始めた。
「この世は平等だと思いますか?」
「いいえ、不平等だと思います。」
「ええ、私もそう思います。しかし、全てが不平等だとはかぎりません。それは、死です。私達人間は生まれながらにして死へと向かっているのです。ですから、人は伝え、託すのです。それが生きた証です。」
ガゼフとの日々を思い返した。何でも無い日々がこんなにも大切になった。ガゼフには返せないくらいのモノを貰った。自然と涙が流れてきた。
葬式が終わった。おのおのがガゼフに伝えたいことを墓の前でつぶやき、帰っていった。彼らはそのうちしたらいつも通りの生活に戻るだろう。しかし、それはガゼフを忘れたことではない。ガゼフの死を克服した証だ。ガゼフの死は意味のあるものとアドルフはそう思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
生前ガゼフはこう言っていた。
「世界を見て回れ。そうすればお前にも大切なモノが見えてくる。そうしないと、もったいないだろ?自分が知らない素晴らしい物があるかもしれないじゃないか。世界に絶望するのは全て知った痕でも変わらない。」
アドルフはふと思い返した。ガゼフの遺品を整理してた時のことだ。遺品を見ていると今まで見たことのない一面が見れた。いつも一緒にいたのにわかったことは意外と少なかったと驚いた。
いろんな一面を見れなかったことに残念に思えた。それは世界にも言えるのではないか。世界には満足して死んでいった奴もいるだろうし、逆に世界を憎しみながら死んでいく奴もいるだろう。それは世界の一面で判断しているからだ。死ぬ間際に果たしてどちらの一面を見ながら死んでいきたいか。どうせなら良い一面を見たい。悪い一面を探すのは簡単だが良い一面を探すのは難しいものだ。良いじゃないか、難しい方がやりがいがあって。
今後、どうするかガゼフの墓の前で宣言した。
「俺は見極めてやる。世界がどういったものなのかを。だから俺は世界を回る。貴族の社交界だって、蛮族の集落だって、天外魔境だっていってやる!」
アドルフは旅立つ。それを見守るかのように墓に立てかけた剣が陽の光を反射して光った。
ガゼフ=アームストロング、ここに眠る。




