得るもの失うもの
アドルフはその後、商館の件でバリスから報酬金を貰い、家に帰った。家に着くと日もだいぶ高くなっていた。ガゼフが家の前で素振りをしており、アドルフの殴られた痕を見て、爆笑した。
「お前、まさか負けたのか〜?」
人をを煽るように言ってきた。何か言い返そうとしたが、大きいダメージを貰ったのだ。もしかしたら、死んでたかもしれない。引き分け、両者相打ちになろうと結局死んでしまえば相手がどうなっているのかは関係ない。死んでしまえば負け。今回で言えば生きているから負けではない。しかし、お互いに殺さないように注意していたために死ななかったのだ。これが生死をかけた戦いだったら?そう、命拾いしただけだ。しかも、攻撃を受けた原因が油断であった。有効打を与えて、勝ったつもりになった。その一瞬がこの怪我を産んだ。
次のために何ができるのか。今回の一件で見えた弱点がいくつかあった。大きなものが攻撃力の無さ、魔法のレパートリーの少なさである。その他は経験を積んでいけば何とかなるだろうが、その2つはどうしても打開策を考える必要だった。しかし、その策が思いつかない。
「なあ、ガゼフ。俺は強くなりたい。どうすればいい?」
ガゼフはアドルフの真剣な顔を見て、バカにした表情をやめた。
「お前に教えられることは教えた。だから、俺にできることはほとんど無い。後は反復練習して精度を高める。ただ、それは剣術に関してだ。お前は魔法があるだろう?俺は魔法に関しては全くわからんから教えられん。お前はどうだ?魔法のこと理解してんのか?理解してないのなら魔法の正しい使い方もわからん。だから、理解することだ。知識を蓄えろ。模索するんだ。」
そう言うと、ガゼフは家の中に入っていった。
確かに、魔法のことは知らないことが多すぎる。魔法陣を使う方法より、もっといい方法があるのではないか?ガゼフの言葉によって、やることが決まった。いつしかやめてしまった魔法の研究を再び始める。取っ掛かりとして、まずどうする?ガゼフから剣術を習ったように、魔法の師を見つけて習うか?いや、不可能だ。見ず知らずの奴に教えてやる人間など滅多におらず、魔法を使える人間となるとなおさらだ。
しかし、魔法の研究している人間が存在していることは明らかだ。第五研究所の実験体であったし、研究を報告することもあったのでは?それは記録されているはずだ。一般に公開されているものはあるのだろうか。報告する媒体は紙であろうし、公開されているのなら本になっている可能性が高い。確か街には図書館があったはずだ。図書館にいって本が無いかさがすとしよう。
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一日に2回も街にくるとは、なんだか少し恥ずかしい。一日の過ごし方に計画性の無さが露見するように思えた。
図書館に行く途中、屋台からいい匂いがしてきた。どうやら串焼きを売っているらしい。
(帰りに買って帰るかな。)
そう考えてると、図書館に到着した。図書館はこの街では役所の次に大きい建物で、外観はゴシック建築であった。図書館の入り口はすこしの階段があり、アドルフは登っていると、図書館から出てきた役人らしき2人組の会話が聞こえてきた。
「そういや、知ってるか?最近、噂になっている例の盗賊団。」
「ああ、王都の貴族を襲った例の奴らだろ。」
「そうだ、その盗賊団ってのが何でもこの近くで活動されているらしい。」
「それは、怖いな。そういや、盗賊団の頭が変な魔法を使っているらしいな。」
(変な魔法か。目にすれば俺でも使えるのにな。賞金稼ぎをすれば魔法使う奴らがいた場合にそいつらの魔法を覚えられるな。お金も稼げて一石二鳥だ。)
アドルフは図書館に入り、本を探そうとすると、受付の人物に声をかけられた。どうも、入館証を提示しないと入れないらしい。入館証を発行するには身分を証明できるものがあれば作れるそうだ。ギルト会員証で発行し、手数料を払い。受付に魔法に関する図書の場所を聞き、本を探した。ある程度の本選び、机に本を置き、一冊ずつ読んでいった。
特に目ぼしい内容が無いので若干諦めかけていた頃、気になる文があった。
”魔法とは、魔力と呼ばれるエネルギーを使い身の回りの現象を引き起こしす技術であると思われている。しかし、魔力というエネルギーをどのように制御しているか明確ではなかった。そこで、物理現象を引き起こすプロセスと実際に起きる物理現象を比較することで魔力がどのように振舞っているのか理解できるはずである。”
(こんなこと知って本当に意味があるのか?いや、待てよ。身の回りの現象を再現できれば、使える魔法も増えるのでは?例えば、曇り空の時の雷だったり。近くの木に落ちた時、一瞬で木が丸焼きになっていた。試してみる価値はありそうだ。)
持ってきた本を読み終えた。読んでわかったことは、これといってなかった。しかし、魔力についての説がいくつかあることはわかった。例えば、魔法の正体は神の御業、神への信仰によって神が願いを叶えるというものがあった。しかし、アドルフ自身は神など信じないし、人体実験という神への冒涜と呼ばれる行為をしてきた者達の願いを叶える神はいないだろう。だが、この説を指示している者たちが多くを占めているのが、この社会の現状だ。自分の都合が良いものは信じ、都合が悪いものは排除する人間の愚かしさにアドルフは鼻で笑った。
だが、少数ではあるが魔法について科学的に考察している本もあった。特に魔力の性質をまとめた本は役だった。魔力の性質として、魔力は物を作ることはできない。ただ、物に何かしらの影響を与えているだけでしかない。魔法の中には水を出す物があるらしいが、それは水を作っているのではなく、物質と物質を反応させて水に変えているだけらしい。このような考え方をするのが錬金術と呼ばれるものだ。かつては無いものを作ろうとして発展した考え方らしいが実際に考えてみると不可能と知っただけであった。その失敗のおかげで発展できたが。
(魔法と科学は表裏一体なのか。というよりも魔法が科学の一部と考えた方が自然か。)
図書館に入館してだいぶ時間がかかったらしく、職員が閉館の知らせてきたので退館した。外hに出ると、空が暮れ始めていた。
(そうだ。串焼を買って行こう。ガゼフの分も買っていくとしよう。ガゼフにはだいぶ世話になっているからな。感謝しないと。こんな事言うとガゼフに笑われるな。)
串焼を2本買い、冷めない内にいつもより急いで家へと帰っていった。
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家に着いた頃になると、空も完全に暗くなっていた。
(おかしい、家が暗い。どこかにでかけているのか?)
不審に思いながらも、家に入った。入ると真っ暗で先も見えなかった。苦労して明かりをつけると、暖炉の前の椅子に誰かが座っていた。
「ガゼフ?寝てんのか?」
返事が無い。椅子に近づき、後ろ姿のガゼフの正面に回りこんだ。
「嘘だろ…。」
そこに座っていたのはもう動かないガゼフの死体だった。




