捜し屋
滝田茜の事件簿
10.
3日目AM8:45
渋谷
「フムフム」
茜が昨夜までの経過を、所長に報告していると、ソファにゆったりと座った彼の父親が率然として唸った。
第一線からは退いたとは言え、叩き上げの元刑事である。警視庁では、落としの福屋と言われていたらしい。悪い奴にはトコトン食らいつき離さないドーベルマンのようだったらしい……。それが、ある事件で、同僚が不運にも殉職してーーさながら昭和の熱血刑事ドラマさながらにーー、父君は、潔く辞表を出した。その後に開いたのが、この探偵事務所なのである。
今は、見る影もないが、ーー失礼!これは失言。人間中身ですからーー温和な表情からは、まるでマンションのオーナーかという印象さえ受けるのであった。
しかし、茜の話が大事なところに来ると、悠揚迫らぬ中にも、キラリと一瞬目が輝くのだ。
「……という訳で、今晩あの女優が、会うという人物を確かめたいのですが……」最後は、伺うような目付を意図して茜は、言った。
所長は、しばらく沈黙していた。
頭脳明晰な所長には、ことの経過を組み立てて、それを解決へと再構築することができるのだ。それは、過去の難事件でも常に発揮されたのである。
そして、言った。
「分かりました。どうやら、今回のケースは我々が遭遇する最大の事件になりそうです。新宿に、この調査にうってつけの人物がいます。夕方までに、彼に来てもらうよう手配します。茜さんは、それまでここで待機していて下さい。」と言った。
まるで、今夜の献立の手配をするように。
(つづく)




