17.令嬢はとにかく女性の扱いに口うるさいらしい
あの事件? から数週間後、僕の手にはまだ例の手紙があった。焼却するとは言ったものの現代で焼却なんてできる設備はない。
自宅だとしてもキッチンで燃やすのは難しいし、マンションなのでべランで燃やすわけにもいかない。
一番いいのはシュレッダーにかけることだろうけど職員室のシュレッダーを勝手に使うのはハードルが高いだろう。
それでもこの手紙を柱時計から取り出したことで三田村将校が成仏してくれたのなら良かった。それだけで目的は達っせたと言っていいだろう。
『みーちゃん? そろそろ出かける時間ではなくて? 今日こそ彼女よりも早く出て先に待っていなさい。毎度毎度レディを待たせるなんて許されないのだわ』
『わかってるよ。でも三重はいっつも早いんだよなあ。五分前行動どころか三十分前には来てるんだもん』
『だから三十五分前に着けばいいのでしょう? 早くなさい!』
今日はまた精密堂へ行くことになっていた。結局あの懐中時計は写真だけで判断できるものではなく、清田の知り合いがアメリカからはるばるやってきたらしい。
さすがに持って行かれることは無いにせよ、心細いから僕も一緒にと言うのはいつもの流れだ。
こうしていつも待ち合わせに早すぎる三重を待たせないため、三十五分前に到着した僕は、すでに来ていた三重に声をかける。
「なんでそう早すぎるんだよ。待ち合わせ時間にはまだ三十五分もあるんだぞ? 気を使って早く来た僕の身にもなってくれ」
「でもみーちゃんのこと絶対に待たせたくないの。それに早く来ても本を読んでるから気にならないしね」
「じゃあ次から僕は五分前に来る。だからあまり極端に早く来ないようにしてくれよな。いろいろと気を使うことがあって大変なんだからさ」
どうあがいても先に来ている三重になかば呆れながら提案をしたが、どうやら納得してくれたようだ。でもきっと三十分前には来るのだろう。
こうして昼過ぎに待ち合わせした僕らは、精密堂へと向かった。
「あ、あれ!? その髪どうしたんですか!?」
「ビックリした? 実は先日キミたちが着た後から黒い毛が生えてきたんだよ。きっと貴重な懐中時計を見せてもらってやる気が出たからかもしれないね。だから二人には感謝しているよ」
謎の感謝を受けながらとりあえずもう一人の研究者とやらに紹介してもらった。
『どうやら呪いはきちんと解けているようで何よりだわ。わたくしの活躍あってこそだもの。こちらにも礼を述べてほしいものね』
『無茶言うなって。見えたら見えたで色々とマズいしさ。ローズの活躍は僕がわかっているんだからそれで満足してくれよ』
『まあそれで勘弁しておきましょうか』
僕とローズがそんなことを話している間に、懐中時計を調べ始めたトーマスなる研究者は、大げさなリアクションでアレコレと調べているようだ。
手持無沙汰になった僕はまた店内をうろうろしながら珍しいものを見て回る。こうして例の柱時計の前までやってきた。
『ちゃんと成仏出来なのかな。清田さんの髪を見る限りたぶん大丈夫だとは思うけど心配だなあ』
『みーちゃんのそう言った優しさが彼女へ向けられるといいのだけれどね。なんでそんなに冷たくするのが理解できないのだわ』
『冷たくなんてしてないよ。待ち合わせの件をまだ言っているのか? 僕が一時間前に行こうものなら三重はきっと一時間半前に行くと思うよ?』
『まったくもう。あの御仁を見習ってほしいものだわ』
『それは私のことかい? いやあ褒められることはしていないと思うのだが……』
柱時計の前には、イケメンな軍服将校が立っており、僕は思わず目を丸くすることしかできなかった。




